てのひら


 差し伸べられたあなたの手に、私は救われた。
 死を覚悟して絶望の淵にいた私に差し伸べられた手は、正に神の手に等しかった。
 崇めれば幸福にしてくれる神様なんて信じたことはなかった。いるはずがない。家族の帰りを祈って待ち、叶わず心砕かれてゆく者を直に見てきたのだから、作り出してきたのだから、信じられるはずはなかった。
 だから、神様を信じてるわけじゃない。あなたが、私の全て───神様に等しい者なだけ。

 

†  †  †

 

 あなたの手は、いつでも私に優しい。
 不器用に頭を一撫でしてくれる仕草も、頬に付いた血を拭ってくれる親指も、その全てが優しい。
 だけど、私だけのものにはならないと思っていた。あのひとの話を聞いた時から、わかっていた。
 それなのに───あなたは、私の元へ来てくれた。
 優しい手で涙を拭って、
「一緒に行こう」
 言葉をくれた。
 あの日から、あなたの手は私だけのもの。
 私は信じられないほど、幸せに満ちている。

 

†  †  †

 

 あなたの手は、微かに煙草の残り香がある。それを嗅ぐと、不思議と安心する。
 煙草の臭いが嫌いだって人もいるけど、私は嫌いじゃない。だって、あなたの臭い。
 優しく穏やかな笑みで私の頬を撫でる手。いつも荒れていて少しカサカサする。でも、それがあなたの手。
 私よりほんの少し大きいだけなのに、あなたの手は私を包んでくれる。
 多分、他の人には何の変哲もない手なのだろうけれど、だからこそ、私だけに優しい手。
 あなたは優しいけど、優しければ優しい分、私は不安になる。そんな時も、あなたの手に救われる。
 あなたの手がゆっくり私の頬に触れて、煙草の残り香がそっと私の鼻を掠めた。
 怖々とするような仕草は優しくて、私は少しだけ切なくなる。
 濃紺の瞳が真っ直ぐ私を見ていた。少しだけ悲しそうに見えるのは何故?
「泣くな」
 そう言って親指で涙を拭われて初めて、私は自分が泣いていたことに気付いた。
「お前が泣くと、俺も悲しいよ」
 静かな言葉と不器用に私の頬に触れる手の上から、私は自分の手を重ねた。
 いつも温かいあなたの手。その手だけで、愛しさが溢れてくる。
「どうしたんだよ?」
 不思議そうなあなた。言葉にできなくて、伝えられないのがもどかしい。
「あなたの手、いつも優しいね」
 一言だけもらすと、あなたは照れたように笑った。
「俺の全てが、お前を好きだからかな」
 臆面もなくそんなことを言ってのけて、私はただ幸せに包まれた。
「愛しさが溢れて、どーにかなっちまいそうだ」
 少し照れたように付け加えたあなたに抱き寄せられて、あなたの手が私の頭を撫でた。
 永遠に、あなたの手を独り占めしていたい───
 口に出すことはなくても、あなたはわかってくれるから、甘えてしまう。
 だけど、私も伝えたい。満ちあふれてしまいそうな想いを、伝えきれはしないだろうけど、伝えたい。
「ずっと、私だけのものでいてね」
 珍しい私の言葉にあなたは一瞬面食らったけど、あたなはきつく私を抱きしめた。
「そりゃ、俺の台詞だ」
 私達は目を合わせて、同時に吹き出した。
 永遠に変わらない気持ちなんてないとしても、あなたの手が優しい限り、私は信じられる。きっと───

 

・ fin ・

 

■あとがき■

 超短編の手ネタでした。一度は書いてみたいもの。でもうまく書けない~。フォーチュンクエストのトラパス手ネタを読んで、書きたいって思ったんですけど。。。
 40000hitあ( ̄○ ̄)り( ̄◇ ̄)が( ̄△ ̄)と( ̄0 ̄)う( ̄ー ̄)!
 みなさんに支えられて、未だ続けることができています。
 勿論、これもフリー創作。なんだかいつも以上に駄作ですが、良かったら持ち帰ってやって下さい。
 いつもとは違う感じの詩的なセリス一人称でした。ロックという名もセリスという名も出てきてません。誰の名前も出てきませんが、これはワザとです。無理があるけど「あのひと」をダリル又はセリスと見ると、一応セツリル(絶対無理がありすぎる)。エドティナはそういう女いないからね~。
 持ち帰って下さるという方はこちら必読です。 (04.04.17)

 

 現在はフリーという扱いをしていませんのでご注意ください。転載禁止となっています。(20.9.21)

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