眠り姫

（どこにいるのかと思えば……）
　なんとなくセリスの姿を探していたロックはあきれ返ってしまった。
　いくらこの辺りは魔物が少ないとは言え、余りにもあどけない寝顔をさらして寝入っているセリス。
（なんつー無防備な寝方なんだ）
　大体、今日は一緒に過ごそうと約束していたのだ。忘れているのだろうか。
（セッツァーでも通りかかったりしたら、お持ち帰り間違いねえ！）
　ほっぺをつねってみても、
「ん……」
　ふにゃっと顔を緩めるだけだ。
（……くそっ、しかし可愛い）
　何故かとても悔しい。
（こんなに気持ちよさそうに寝てたら起こせねーよ）
　普段の彼女からすれば想像できないだろう。
（誰にも見られないように見張ってるしかねーのか？）
　そりゃ仏頂面にもなるだろう。この寝顔は自分だけの特権だと思っていたのに、これでは誰もが見ることができる。
　仕方なく隣に自分も横たわった。複雑な表情で片肘をつく。
「無防備なのは、俺の前だけにしろよ」
　ぽそり、呟いた言葉は勿論彼女には届かなかった。
　穏やかな口元の眠り姫は、一体どんな夢を見ているのか───

・　ｆｉｎ　・