ベリーベリー



【前編】

 子供達は可愛いと思う。そりゃメチャクチャ可愛いと思う。多分、子供達のためなら俺は脇目も振らずに命を差し出すだろう。
 だーけーど! 俺にとってはセリスも同じぐらい大事だ。彼女はそれをわかっているのかいないのか……俺が基本的にしつこいのかもしれない。
 トレジャーハントを再開した俺は、普段あまり家にいない。長期に渡るトレジャーハントに行くことは1年に一度あるかないかになったが、定期的な収入のためにジドールの商隊の護衛もやったりしている。リオンは簡単なトレジャーハントの場合、連れて行っているからかなり俺を慕ってくれている──と思う──が、リラとロイはどうだろう?
 コーリンゲンからはジドールに働きに出る者が少なくない。働いている父親というのは余り家にいないものだろう。自営業でもにない限り。俺の父親に至っては1年に数回顔を見る程度しか家に帰って来なかった。
 俺はできる限り子供達と、セリスと過ごしたいそう望んでいるけれど、実際、自営業を営めるような才覚もない───何をやっていいかすらわからない。
 長期のトレジャーハントに行く時以外は、毎週末は必ず家族と過ごすようにしている。だけど、一週間の穴埋めを出来ている気がしない。
 子供達がセリスにばかり懐き、セリスは子供達との絆ばかり深めていく気がするんだ……。

 

†  †  †

 

 土曜日。子供達を連れて、海の見える丘へ散歩へ行く。
 いつも家にいないからと言って、俺とて子供達に冷たくされているわけではない。俺そっくりの褐色のブロンドをした4歳になって半年のチビ達は、歩きながらも俺の足下にまとわりついてきて可愛いことこの上ない。
 セリスとリオンは後からお弁当を持ってくる予定だ。
「洗濯物終わったらお弁当作って行くから、先に行ってて」
 そう言ったセリスに、悪ぶった口調で話してみせるくせに優しいリオンは、
「じゃ、俺も後から行くよ。洗濯手伝うし」
 そんなことを言った。
 まだ9歳のくせに、俺よりいい男になりつつある。その時のセリスの嬉しそうな顔を思い出すと余計だ。
「父さん、お仕事大変?」
 思わず溜息をついてしまった俺に、ロイが尋ねた。一瞬意識を飛ばしていた俺は慌てて苦笑いを浮かべる。
「大変じゃないよ。こうしてお前達がいてくれるから、全然大変じゃない」
「ほんとぉ?」
 リラがつぶらな瞳で見上げる。リラとロイは本当によく似ているが、リラの方が目が大きいような気がする。
「ああ。大好きな人達のために何かできるのは、幸運なことなんだよ」
 穏やかに言った俺だが、双子の顔を見て吹き出しそうになる。
 意味がわらかなかったのか、同じ顔で二人とも「???」とでも言いたげなそっくり同じ表情だったのだ。
 辛うじて吹き出さなかったものの笑みを零した俺を見ると、
「なぁんで笑うのぉ?」
 ぷくっと頬を膨らませたリラに、しゃがみ込んだ俺は頬ずりして謝る。
「ごめんごめん。お前達が可愛いからさ」
 そう言ったものの納得していないらしく、拗ねたように余計にすり寄ってきた。それを見ていたロイは、
「リラは本当に甘ったれだなぁ」
 4歳とは思えない生意気な口を利く。リオンと一緒にいる時間が長いせいかもしれない。
「ぇぇぇえ~!? リラ、甘ったぇじゃないもん!」
 相変わらず舌っ足らずが残るリラは必死に言い返すが、全くもって説得力がない。
「リラは女の子なんだから、甘ったれだっていいじゃないか」
 俺はそう言ったのだが、余計お気に召さなかったらしい。
「甘ったぇじゃー、ないもーん!!!!」
 わめきだしてしまったのだった。

 しばらくしてセリスとリオンがやって来ると、やっとご機嫌が治って鬼ごっこをしていたはずのリラとロイは突然駆け出した。
 丁度、ロイを捕まえようとしていたところだった俺は、セリスを見るなり瞳を輝かせて走りだした我が子達に取り残され、心中複雑だ。
 お弁当の入ったバスケットが傾かないように気を付けながらも、猛烈な勢いで走り寄ってくる双子を抱き留めたセリスは、
「お父さんのこと困らせたりしなかった?」
 優しく尋ねる。
「してないよぉ」「いい子にしてた!」
 同時に答えた双子に、セリスはにっこり微笑むんで諭す。
「お父さん、お仕事で疲れてるんだから、余り無理言っちゃだめよ」
 俺的には、まだまだ体力には自信があるんだが、セリスは俺を心配してくれているんだろう。歩み寄りながら、
「俺は大丈夫だよ」
 そう声をかけると、
「そう? 大丈夫だとは思うけど、なんだか食堂のおじさんの話を聞いたら心配になっちゃって」
「食堂のおじさん?」
 俺は首を傾げたが、セリスは既に子供達を連れて歩き始めていた。
 丘の上の木陰まで行くと、丈夫に編んだマットを広げてバスケットを置く。
「いい天気でよかったわね」
 セリスの言葉に元気良く頷いた双子は、先程まで俺と楽しそうにしていたのにセリスの傍を離れようとしない。ちょっと寂しい、なんて思っていたら、
「二人とも、お昼ご飯はまだよ。ちゃんと朝ご飯食べたんだから」
 そのセリスの言葉に、俺はまた苦笑いを浮かべてしまった。どうやらチビ達はバスケットの中身が気になっていたらしい。
「「はぁい」」
 チビ達はかなり聞き分けがいい。ワガママを言わない素直なリオンを見ているせいかもしれなく、ありがたいことだった。
「じゃ、また鬼ごっこ~♪」
「兄ちゃもやろう。勿論、鬼は父さん!」
 当たり前のように言い切ったロイに、リオンは苦い笑みを零して俺を見た。俺はリオンにまで心配されているのか……意外に年なのかな、なんて思ってしまう。
 後で聞いたら、食堂のおじさんが「自分はまだまだ若い」と思っていたけれど無理をして体調を崩した話を聞いたかららしい。
 食堂のおじさんは俺より20歳は上だっつーの!
「おっし、じゃ、影踏みにするか」
「かぇふみ?」
「なにそれ?」
「俺も知らない」
 3人の子供は口々に答える。
「鬼ごっこなんだけどな……」
 俺は子供達にもわかるように教えてあげることにした。


「うっは、さすがに疲れた……」
 走り回って息苦しくなった俺は、観念して倒れ込むようにセリスのいるマットへ倒れ込んだ。
 よく繁る木の葉の下はとても涼しい。
 セリスは、最近覚えたレース編みの手を止めてくすくすと笑い出した。
「大丈夫?」
「ああ。しっかし、あいつらは元気だなぁ。体力とかいう問題じゃないな、あれはもう」
 初春の日射しの下でうっすらと汗をかいている俺に、小さなタオルを差し出したセリスは水筒から冷たいお茶を組んでくれる。
「お、サンキュ」
「ううん。せっかくの休みなのにごめんね。ありがとう」
 お礼を言われてちょっと悲しくなってしまう。
「おいおい、当たり前だろ? 俺だって子供達とたくさん過ごしたいしな」
 俺の言葉に、セリスは幸せそうに笑ってくれた。こういう瞬間がたまらなく嬉しい。
 怒濤の人生を送ってきて平凡な幸せと縁のなかった彼女だから、こうしていつまでも笑っていてほしいと思う。
 しかし、二人だけの空気は長くは続かない。
「喉かわいたー!」
 大きな声で叫びながらロイが戻ってきたのだ。追いかけるようにリラとリオンも駆け寄ってくる。
「走ったら、腹減った~」
 呟きながら腰を下ろしたリオンに、セリスは子供達の顔を見回して尋ねた。
「じゃあ、少しだけ早いけどお昼ご飯にしようか?」
「うん!」
 嬉しそうに頷かれ、セリスはバスケットを開いた。
 まず濡れ手拭いで子供達の手を拭かせて、それから膝に置くランチョンマットにおにぎり──ほぐした塩鮭をまぶしたやつ──を渡す。
 コーリンゲンにも帝国にもおにぎりという文化はないが、俺が教えた。元々はドマの方の文化だが、お弁当としてはサンドイッチよりおにぎりの方が多少潰れても食べられる分、危険な旅向きだから───と言っても、おにぎりなんて持っていけるのは初日ぐらいだけど。
 それから真ん中にミニトマトとブロッコリーの詰まった籠を置く。隣には特製ソースの容器だ。
 双子にはストローの付いた特別な水筒。倒してもほとんどこぼれない優れ物で、ティナが贈ってくれた。
 そして全てが終わってから、セリスは俺に手拭いをくれた。
「はい」
 にっこり微笑まれたが、彼女の作ったような笑みに「そのぐらい自分でやるべきだったのか?」そんな風に思ってしまう。
 だが俺に渡されたおにぎりの大きさを見て思わず吹き出した。
「おいおい」
 リオンのおにぎりも双子のよりは大きいが、俺の分はその倍はある。それでもしっかり三角形に握ってあって、結構大変だったのではないだろうか。
「ふふふ。それはね~、ロックにって、リオンが作ったのよ」
 俺は驚いてリオンを見た。リオンは照れたようにそっぽを向いている。
「よく綺麗に整えられたな」
 リオンに向かって微笑みながら、包みを解いておにぎりにかぶりつく。外の塩加減も丁度いい。
「うん。うまいよ」
 気持ちのこもったおにぎりを噛みしめながらリオンの頭を撫でてやると、 

「父さんのだけ大きくって、ずっりぃー」
 不満そうに唇を尖らせたロイに、俺は頭をかくしかない。
「お前はこんなでっかいの食えないだろ?」
 しかし手持ちのおにぎりを食い終わっているのに気付いたので、
「食えるだけ食うか?」
 ロイには重いかもしれない──そこまでじゃねーか?──おにぎりを小さな手に持たせてあげる。
 ちょっと気になってリオンをちらりと見ると頷いてくれた。本当に出来た子だ。
「うん!」
 ロイは喜んだが、セリスは呆れ顔で、
「ロイ、食べ過ぎちゃだめよ」
 そう口を添える。
 いつもは出しゃばって「リラも~!」そう言うはずのリラは、まだ小さいおにぎりを頬張っている状態だ。
 リラが1つめのおにぎりを食べ終えた頃、ロイは大きなおにぎりを半分近く食べて、
「もう食べられないー」
 お腹をさすりながらおにぎりを返してきた。
「おう。残りは俺が食うよ」
 強く握りしめながら食べていたのだろう。一部へこんでしまったおにぎりをかじって、俺はお茶を飲んだ。
「ほら、ごはんつぶ」
 食べ過ぎで苦しそうにしているロイの頬に口の周りに付いたごはんつぶを取って、セリスは自分の口に運ぶ。
 …………ちょっと面白くない。
 だが、俺が顔にごはんつぶを付けるのは恥ずかしすぎる。少なくとも子供の前では。
 子供は可愛いけど、もう少し二人で過ごしたかった気もするよな……。
 俺は自分勝手なことを考えてしまうのだった。

 

■あとがき■

携帯版【万象の鐘】8888Hit リボさんのキリリク☆ 『ロクセリED後で、二人にロックそっくりの子供ができで、セリスが子供ばかりにかまっているのでロックが嫉妬するというのを…でも三人ともめちゃ仲良し!そして最後はロクセリラブラブvV』のお話です。
 最近書いているシリーズと同じ話として書くので、申し訳ないながら子供が3人!になってしまっていますが……。そこは許してくださいねw  2作セリスの日記形式できましたが、今回は久々にロック視点一人称です。理由はないけど、気分を変えてみようとw しかもヤキモチとなれば、やっぱり一人称がいいかな? と思いまして。
 ピクニックは前も書きましたが、また別の日です。私の中では、コール夫婦は週末の度に子供を連れてピクニックに出掛けていますw
 双子はロック似の子供ですが、セリスが子供ばかりにかまっているというのを表現するのは難しいです~。私が同シリーズで書こうとしたせいです。すみません m(_ _)m ペコリ
 題名は「とってもw」と「イチゴ(系)のように甘酸っぱい」にかけてます。某化粧品と同じね。昔使ってました。ええ、20歳ぐらいの時の話ですよ……。
 2話の予定ですが、いつものごとく予定は未定です(笑)
 ちなみに次回は双子が2歳の時の話に戻る可能性もアリ^^; すいません~。順を追って書くべきだったかも;; (05.07.10)

【中編】

 俺とセリスの子である双子ロイとリラは、皆が俺にそっくりだと言う。
 俺としては、瞳の色と口元はセリス譲りだが、やはり俺に似ていると思う。
 セリスは「ロックに瓜二つ」と言う。男の子だからか得にロイが似ていると思うらしく、
「きっとロックの小さい頃は、こんな風だったのね」
 しょっちゅう嬉しそうに呟く。
 愛おしげに子供達を見つめる視線は穏やかで満ち足りたものだ。
 彼女が幸せそうにしているのは俺にとっても嬉しいし幸せだけど……彼女が俺を見てくれる割合はちょっと、いやかーなーり! 減ったと思う。
 元々家族を持たないセリスは、シドにも死なれ孤独だった。仲間達はいるけれどそれぞれの生活がある。だから、俺以外に何もなかったんだろう。だけど今は違う。決して抗えない絆を持つ家族ができたからだ。
 だからと言って、彼女の心が俺から離れたわけじゃない。だから、まったくもって贅沢な悩みだ。わかってはいてもなぁ。割り切れるものじゃないんだ。
 子供が出来た当初は俺もそこまで思っていなかった。やっぱりすっげぇ嬉しかったし、いきなりの双子という大変さに嫉妬する余裕なんてなかった。
 第一、リオンは血などつながっていないが立派な家族だし、セリスもそう思っている。  そんなことを気にするようになったのは、双子が2歳半になった時だったか……

 

†  †  †

 

 子供が産まれてから初めてのトレジャーハントに行って来た俺は、クタクタになって帰ってきた。
 世界崩壊に伴う地殻変動のせいで地下にあったはずの遺跡は半分壊れ地上に突出していた。隠れていたはずの遺跡は誰からも見えるようになっていたせいで、何者かに荒らされひどい状態になっていた。
 トレジャーハンターと呼ばれる俺達は遺跡荒らしとは違う。できるだけ遺跡は傷付けないように気を遣うし、たとえ宝石類が壁に埋まっていてもほじくり出したりはしない───俺達は墓荒らしとは違うんだ。
 だから今回はひどいものだと心から思った。遺跡は地上から見えていたものの入り口はなく、屋根が粉々に破壊され──おそらく爆薬を使ったのだろう──中もぐちゃぐちゃだった。まあ、中は地殻変動時に崩れた可能性もあるけど。
 俺はできるだけ遺跡を修復しながら──そのつもりで行ったわけではないから、道具も材料も足りず最低限しかできなかったけれど──中に進んだが、収穫などあるはずもなく、結局、何をしに行ったのだかわからなかった。
 ということで、俺は心身共に疲れ切っていた。
 家に帰ると、セリスは勿論笑顔で迎えてくれた。その笑顔に癒されたかと思ったのも束の間。
 ロイが風邪をひいて熱を出していたのだ。
 リラにうつらないようリオンに遊び相手を頼んだセリスは、心配そうに呟いた。
「ベラさんに薬草を煎じてもらったんだけど、苦いせいか吐いちゃうのよ……」
 セリスの呟きに俺は疲れも忘れて仰天した。
「熱は高いのか? 大丈夫なのか?」
「うん。熱はやっと下がってきたところだから大丈夫みたい。今も眠ってるわ」
 俺がいなくて心細かったのか、セリスはホッとしたように笑う。こんな大変な時に、出掛けてるなんて俺はなんてタイミングが悪いんだろう。
 レイチェルを失った時の、間に合わなかったあの時の苦い思いが甦る。
「でも、リオンがリラの面倒をちゃんと見てくれて助かったわ」
 セリスの言葉に、ウトウトしているリラの隣で退屈そうにしていたリオンは困ったような顔をした。
「別に、俺は何もしてねーよ」
 リオンも俺に似ていると言われる。容姿も血が繋がっていない割には似ているがそれは髪型が似てるせいだろうし、それよりは性格の方なのだろうか。直情型でぶっきらぼうに照れ屋なところが似ているらしい。
「それより、母さんなんか、全然休んでないじゃんか」
「えっ、そうなのか?」
 俺はセリスをまじまじと見た。気付かなかったが顔色がよくないし目の下にうっすらとクマが出来ている。
「私は大丈夫よ。ケフカと戦っていた頃の大変さに比べたら、このぐらいなんでもないわ」
 セリスはニッコリ笑ったが、そういう問題ではない。
「あとは俺がやるから、お前は少し休めよ」
 俺はそう言ったのだが、セリスは強情に首を横に振った。
「ロックは帰ってきたばっかりじゃない。ゆっくりお風呂にでもつかって疲れをとってよ。私は夕飯の用意するし」
 こういう時のセリスは絶対に引かない。こうと決めたらテコでも動かない頑固なところがある。
 だけど、もう少し俺を頼ってほしい。だって夫婦ってそういうものだろ?
 俺の思っていることが通じたのか、セリスはニッコリ笑って告げた。
「明日からは色々頼むから、今日のところは休んで。ね?」
「……わかったよ」
 渋々俺は了承した。なんだかいつも俺が折れている気がするが、惚れた弱みなのだろうか。他人からすると「尻に敷かれている」のかもしれない。


 夜になってロイの熱がまた上がってしまった。
 夕飯のポタージュもほとんど食べなかったロイを、セリスはこれ以上ないぐらい心配している。すり下ろしたリンゴは平らげていたものの、やはり薬湯は飲み込むことができない。
 俺としては、勿論ロイも心配だが、看病しているセリスのことも心配だ。
「今晩は俺が看るから、お前はもう眠れよ」
 彼女は連日ほとんど眠っていないという話をリオンから聞いた俺は、子供部屋の小さなベッドにつきっきりのセリスに声をかけた。リラとリオンは主寝室の方で既に寝かしつけてある。
「私は大丈夫だから、あなたこそ休んで」
 小さなロイの手を握りながら言うセリスは、頑なに俺の申し出を断る。
「ついててあげたいの。お願い」
 必死の言葉に、俺は何も言えなくなってしまった。母親ってのはこういうものなのかもしれない。
 自分の子供が熱に苦しんでいる時にこんなことを感じるなんて馬鹿だと思うけど、思わず嫉妬を覚えるほどに、セリスはひたむきな表情をしていたんだ。
「わかったよ」
 俺は大人しく引き下がることにした。俺が休まなかったらセリスは更に気を遣うことになると思ったからだ。
 けど、正直、クタクタに疲れているはずなのに眠れなかった。ロイもセリスも心配だし、心配していると同時に、セリスは恐らく俺より子供達を愛しているだろうなんて考えてしまって。


 翌朝、浅い眠りから覚めると、夜が明けると同時に子供部屋を覗いた。そこではすやすやと眠るロイの傍らでセリスがベッドに突っ伏していた。
 彼女を起こさないようにそっとロイの額に触ると、熱は下がっている。平熱よりは少し高いのかもしれないが、もう心配ないだろう。
 俺は色々な意味でホッとして、もう一寝入りすることにしたのだった。


 些細な出来事に嫉妬してしまう俺は、心が狭いと思う。
 美人でスタイルのいい彼女と、いまいち頼りなく見えるらしい俺の釣り合いがとれてないことは分かってる。背も変わらないし、他人にはアンバランスな夫婦に見えるらしい。
 他人にどう見えようが関係ないことも分かっているが、やはり多少は気になるんだ。
 子供も出来て幸せな家族だけど、その分二人の時間が減ってしまった。セリスは俺以上に照れ屋だから子供達の前でベタベタするなんて出来ないようだし───俺だってベタベタはちょっと恥ずかしい気もするが、もう少しスキンシップが欲しい。
「あっ、もっとゆっくり食べなさい」
 お昼ご飯、セリスは自分の分を食べる前に、ロイとリラにご飯を食べさせる。
 同時に食べてもいいんだが、食べるのが下手くそな双子から目が離せない。ハラハラと食事の様子を見守るセリスに、もくもくと食事をしていたリオンは、
「ごちそうさま!」
 ご飯をかっこむと、友達と約束があるらしく、
「遊びに行ってきます」
 元気良く飛び出して行ってしまった。
 リオンもセリスにかまってもらえなくて、寂しいと思ったりするのだろうか? 子供の割りに冷めているように見えるが、聞き分けのよい子を演じているだけだろう。または苦労してきたから諦めているのかもしれない。
 リオンのことを考えると、俺がワガママを言っていいはずないと思ってしまうのだが、
「わぁ、今日は二人とも綺麗に食べられたね~」
 俺の存在なんて忘れたかのようにロイの頬を拭いているセリスは、甲斐甲斐しいが……俺は寂しい。
 しかしボーっとしているわけにはいかないから、双子の食器を片付けてセリスの分を用意する。
 セリスがご飯を食べている間、俺が双子の相手をしていてやる。だから飯すらなかなか一緒に食べられない。
 それでも子供達が気になるのか、飯を食う手を止めてはじいっと子供達を見ている。……俺を見ているのではなく。
「飯ぐらい集中して食えよ」
 呆れ顔で振り返ると、セリスは困ったように笑う。
「だって、どんなに見ても飽きないんだもの。子供って不思議ね」
「確かに飽きないけどな」
 俺は同意する。子供は次に何をしでかすかさっぱり分からない。それが子供なんだろうけど、冷や冷やさせられることもしばしばだ。
「私、自分の子供の頃の記憶すらないでしょう? こんな風に恵まれていたとは思えないけど、なんか毎日感慨深くって」
 家族というものから縁薄かった彼女だからなのだろう。俺だって母親は早くに死に親父は全然家にいなくて理想の家族とは言えなかったけれど、ずっと婆さんに可愛がられて育った。
「お前が幸せなら、俺もほんと嬉しいよ」
 俺にはそう言う以外ないんだ。

 

■あとがき■

 本当は2話にしようと思ったんですが、やっぱり物足りないです。2話にしようと思ったのは3話分の素材が見つからなかったからです。しかし検索して可愛いのを見つけましたw ベリー系って結構ありそうで、ないんですよね~。素材選びは楽しいけど難しいです。もう少し技術があれば、自分でパパッと作っちゃうんですけど;; 複雑なイラストは無理です。っていうか、昔はもっと絵を描いたりしてたんですけどね、今となっては全然ダメダメなので……ちょっと悲しい。
 いまいち、子供に嫉妬しているというのがうまく書けない……。イメージとしてはわかるんですが、やっぱり双子であることがネックなのかな。リオンもいるし……。中途半端な内容になってしまいました;;
 元々そうなのですが、イメージをうまく形にするのは本当に難しいです。「こんな感じ」と頭の中に想像してるんですが、いざ書こうとすると書けず、挙げ句全然違う方向に行ったりします。「メモとかとれば?」とか言われますが、イメージを言葉にするという時点でつまづくんですよね。普段生活していて説明することすら下手なので、そういうの苦手みたいです。実は昔から国語ってダメだった;; 小説家になりたかった奴の言う台詞じゃないね~。ちなみに好きな教科は数学と音楽、嫌いな教科は国語、英語、体育(運動ドクターストップで退屈だから)、社会……文系すべてダメなのねん。なんともはや……情けない(笑)
 4話まで行くつもりは、ないので、次はしっかり完結させたいです。 (05.07.18)

【後編】

「母さん! 大変!」
 騒ぎながらロイが玄関をものすごい勢いで開けた。
「一体どうしたの?」
 目を丸くしたセリスが玄関へ向かうと、ロイが苦い顔で先に家に入る。
 その後ろから出てきたのは、全身を焦げ茶色に染めた子供──リラだった。
「リラ!?」
 素頓狂な声を上げたセリスの後ろに立った俺も、顔をしかめて「あちゃー」と呟く。
「ごめんなしゃぃ……」
 大きな目に涙をいっぱいに貯めて、全身を泥まみれにしている。その泥だらけの手で顔を拭おうとしたので、
「ああ! 目をこすっちゃだめ! 待ってなさい!」
 セリスは慌ててタオルを取りに行った。
「一体、どうしたんだ?」
 俺の当然の問いに、ロイはバツが悪そうに呟いた。
「鬼ごっこしてたら……足をすべらせてリラが水たまりで転んだんだよ」
「昨日の雨はすごかったからね」
 バスタオルを持ってきたセリスがそう言いながら、リラの顔を拭い始める。
「っく。っく。ごめんなしゃぃ。ごめんなしゃぃ」
 この夏に買ったお気に入りのワンピースを汚してしまったせいだろう。リラはそのうち、盛大に泣き出してしまった。
 子供らしい鳴き声が辺り一面に響き渡る。そのやかましさに顔をしかめ、
「ったく、リラは少しどんくせーよ」
 ぶつくさと漏らすロイの頭を、俺は小突く。
「ぬかるんだ場所で走り回ったら転ぶかもしれないなんて当たり前だろう」
「そうよ。リラ、お風呂に入ろうね」
 セリスの優しい言葉に、しゃくり上げて何も言えないリラはただただ頷いた。
「ちぇ、父さんも母さんも、リラの方に優しくするよな」
 子供らしい呟きに、俺は苦笑いを零した。
 どっちかを贔屓しているつもりはまったくない。が、子供は些細なことに嫉妬したりする。と思って、俺も似たようなものじゃないか? と気付く。子供と同じレベルとはなんとも情けないけれど、これは理屈でどうこうなるものじゃないんだ。
 表に出さないが、お前の気持ちはよくわかると心の中で頷きながらももっともらしいことを言った。
「そんなこたねーけど、まあ、ついな、より弱い方を守らなきゃって本能が働くことはあるかもな」
「より弱い方?」
 不思議そうに俺を見上げたロイに、俺はニヤリと笑ってみせる。
「男より女の方が力が弱いだろ? その時点で、どうしても女の方がより弱い方ってなっちまうんだよ」
 何を思ったのか、ロイは不可解そうだ。
「…………」
「まあ、もしお前とリラの二人が命の危険にさらされてたら、絶対に! どっちも助けるけどな」
「…………でも、きっとリラの方が先でしょ?」
 拗ねたような顔で見上げられ、俺は思わず笑みをこぼす。俺にとってだって、子供達はこの上なく可愛いものなんだ。
「おいおい、その時より危険な方が先だよ。いくら俺でも、同時はおそらく無理」
「別にいいよ。リラより俺のほうが力があるし、リラって母さんの子供とは思えないぐらい情けないから」
 大人びた口調で生意気なことを言うのは、やはりリオンの影響なのか……。俺自身も口が悪いからなんとも言えない。が、セリスは「ミニロックみたいで可愛い」とか言っているが。
「ただいまー」
 リオンが開けっぱなしのドアから帰ってきた。
 一人で出掛けていたが、おそらく身体を鍛えているのだろう。早く一人前のトレジャーハンターになりたいらしく、毎日頑張っている。
「おう。おかえり。風呂は今、リラが入ってるから、あとにしろ」
「はーい。……って、泥?」
 風呂場まで点々と続く泥染みに、リオンは首を傾げた。
「あ、やべ。セリスに怒られる」
 俺は頭をかいて、慌てて雑巾をとりに行ったのだった。

 

†  †  †

 

 夜、日記を書いている手を止めたセリスが、ベッドでゴロゴロと横になっている俺を振り返った。
「ねえ、ロックもヤンチャだったんでしょう?」
「あ? あー、そうだな……。リオンみたいに行儀のいい子じゃなかったな。しょっちゅうばあさんに怒られてたし」
 俺は思いだして頭をかく。
 俺達の子供になりたい一心でいい子を演じていたのか元々そうなのかわからないが、リオンは本当に手のかからない子だった───5歳以降のことしかわらかないが。いい子を演じるには限界があるから元々根が素直なのだろう。口が悪い分のギャップが余計にそう思わせるのかもしれないが。
 無論、全く間違いをしないというわけではない。ただ故意のいたずらをすることなんてないし、人の言うことを受け入れ反省できる子なのだ。
 リオンが手本を見せているせいか、ロイもワガママを言ったりはしない。リラは多少ワガママだが、最近は我慢するようになったようだ。しかしワガママを我慢すると機嫌が悪くなるから微妙な話だった。
「うふふ。きっと、ロックもああだったんだなぁって思うと、なんだか嬉しくて仕方がないの」
 双子が、特にロイが俺に似ているという話をする時、セリスはいつもこれ以上はないぐらい幸せそうな顔で笑う。
 彼女のその笑みは俺の心まで温かくするようなものだけど、同時にちょっとだけ面白くない。
「俺はそんなに可愛いガキじゃなかったぜ? あんまし家にいない親父に反発して家出してみたりしたし」
「えっ? 家出?」
 セリスは目を丸くした。そういえば彼女にこの話をしたことはなかったっけか。
「って言っても、6歳とかそこらだろうから、すぐに町の人に見つけられて連れ戻されたけどな。すっげぇ怒られた。俺とはしては家出じゃなくて、一人でトレジャーハントに行くつもりだったんだけどな」
 思い出すと恥ずかしいことだ。
 確かに親父は家のことより自分の仕事=趣味にばかりカマかけてたけど、だからってどう考えても何もわかってないガキが一人で遠出なんて無理に決まってる。ただ、子供の俺は、自分にできることとできないことが分かっていなかった。というより、そこまで考え及ばなかった。
「そう考えると、うちの子等はよくできた子達だな」
「ね! ティナの話とか聞いていると大変そうだったし、子供って聞き分けがないものだと思ってたけど、うちの子って三人ともいい子よね」
「ああ」
「でも、きっとあなたがいい父親だからよ」
 満面の笑みを俺自身に向けられ、俺は面食らう。
 俺は自分が悪い父親だとは思ってはいないが、「いい父親」の定義もわからないし、そうあろうと努めているわけじゃない。
「は?」
「子供達のこと可愛がって、大事にして、甘やかしてる部分もあるけど、でも、ワガママをきいてるわけじゃないし。きっと、世界一素敵な父親ね」
 なんつー大袈裟なことを言うんだろう。言われてる俺が恥ずかしくなっちまう。
「んなことねーよ。お前がいい母親だからだろ」
 照れ隠しに素っ気なく言うと、セリスは苦笑いした。
「ううん。私は母親っていうものがよくわかってないもの。自分の母親は覚えてないし、手本になるような人を見てきたわけでもない。あなたに比べて世界が狭すぎるから。あなたがいてくれなかったら、きっと無理だったわ」
「……あんまし褒めんな。照れる」
 俺が困ったように頭をかくと、セリスはくすりと笑みを零した。
「ロックも可愛いね。照れたところとか、仕草はリオンに似てるし、表情はロイにそっくり」
 結局、子供の話に戻っちまうのか。まあ、仕方ない。
「日記書き終わったのか?」
 ベッドから下りて尋ねると、セリスは目をぱちくりさせ、「まだなの」そう言って開きっぱなしの日記に向き直った。
 俺は少しだけ拗ねた表情を作ると、彼女の背後に立つ。
「ちょっと、見ないって約束でしょ?」
 セリスは慌てて日記に覆い被さろうとする。しかし、俺が日記を覗き込もうとしたわけじゃない。
「見ないよ。だから、たまには子供のことも全て忘れて、俺だけ見ろよ」
 彼女の耳元で囁き、透き通った白い肌の頬に口づける。
「ロ、ロック?」
 驚いたのか上擦っている彼女の声が可愛い。
「お前が子供達を大事にしてんのは、すげー嬉しいけどさ……たまには子供達あいつらのことなんて、他のこと全部綺麗さっぱり忘れて、俺だけ、見てくれよ」
 俺としては真剣に言ったつもりだったのに、セリスは小さく吹き出した。
「……なんだよ」
 せっかくの決め台詞を台無しにされ、俺は半眼でセリスを見る。
「だって、それ、まるでヤキモチよ?」
「だーかーら、くそっ、そうだよ、ヤキモチだよ」
 面白くなさそうに呟くと、目を丸くしたセリスは頬を染めて瞬きする。
「え、だって、私達の子供よ?」
「関係ないだろ? 俺が言いたいのは、たまにはお前を独占したいってことだ」
 照れているのかなんなのかまごついているセリスを無視し、椅子の背に手をかけたまま彼女の唇を奪う。
 セリスは一瞬びっくりしたのだろうが、すぐに優しい口づけを返してきて……久々に身体が熱くなる。
 あとは、リラが「恐い夢を見た」と夜中に起き出したりしないこと願うだけだった。

 

・ fin ・

 

■あとがき■

 裏リク挟んで1週置くことになってしまってすみませんでした。(裏を読んでない方のために説明すると、裏が毎週になると、裏を読めない方はしばらく新作が読めないだろうということで、表のリクと交互更新でいこうと思いましてw)って、先週書いたんですが(アトガキを半分ぐらいは先に書きます)、更にもう一週間お待たせしてしまいました~;; 本当にごめんなさい。今週は体調は悪くないです(土曜日の午前中現在は)。前年よりはいいんですけどね、また出社拒否になると困るので無理しないことにしました。皆様に心配をおかけして本当に申し訳なく思ってます。でも、温かい励ましとご理解のお陰で頑張れますw(どっかの企業みたいな言い回しだな;;)これからも応援よろしくお願いします。
 ということで、完結となりました。やっぱり最後まで消化不良気味。無理矢理このシリーズでいってしまったことを、深く反省です。「最後はラブラブ」だけはなんとか完了しました。え? それだけじゃダメ? リボさん、この辺で許して頂けないでしょうか……。精一杯です;;
 キリリクっていうのは、本当に難しいです。自分の限界にガッカリすることが多いんですもの;; 無論、単なる私の力不足ってやつですが……。昔より進歩しているのかどうかわかりません~。「昔の方が面白かった」って方もいらっしゃるんじゃないかと思うと、切ない【><。】(ネガティブな奴ですみません)
 次回は再び裏、その後は、48484hit闘技場のお話の予定です。 (05.08.06)

【この頁で使用させて頂いた素材サイト様】WallPaper : Heaven's Garden

Original Characters

リオン

ベクタ出身。万引きでしかられていたところをロックに拾われた孤児の男の子。5歳になるやんちゃ坊主。明るい栗色の髪と瑠璃の瞳。

(他の登場小説「MATERNITY PINK」「Sweet House」)

リラ・コール

セリスとロックの子。双子の姉。名前は古語で『花の妖精』を表す。ロック似だが瞳の色だけはセリス譲り。

(他の登場小説「MATERNITY PINK」「Sweet House」)

ロイ・コール セリスとロックの子。双子の弟。名前は『ルクレチア物語』の騎士から。姉とそっくりの容姿。(他の登場小説「MATERNITY PINK」「Sweet House」)