「なんか平和だなぁ……」
ケフカを倒して世界に平和が訪れて4年。
最初の頃は貧困に苦しんでいた世界も徐々に活気を取り戻し、今では以前と変わらぬほどの栄えを見せている。
「そうね。いいことだわ」
元々、攻める側として戦争に荷担していたセリスは戯れる子供達を見かけて頷いた。
あの時──運良くもロックに助けられた時、死を覚悟して帝国を裏切って、本当によかったと思う。
「それにしても、最近収穫も少ないし」
ロックは溜息を飲み込んだ。
世界が平和なのは喜ばしいことだが、ロックとしてはトレジャーハンターとしても収入が余りない状態だ。世界崩壊で地形が変わり崩壊以前の情報が宛てにならないことが多分に影響しており、更に以前に比べてそういった宝探しをする人間がめっきり減ったことも理由にある。
「仕方ないわよ。そういう時もあるわ」
セリスは楽観的に言ったが、ロックはとてもそうは考えられない。
「そりゃ今は二人だけで気楽だからいいけどさ。子供でもできたら、ちゃんと収入がないと厳しいだろ? 俺の親父はちゃんとそんなことを考えていたか怪しいけど、よくやってこれたよ」
最近、やっと未来について考えるようになったセリスだけれど、子供までは考えていなかった。心持ち赤面して、
「そ……そうね」
恥ずかしそうに俯くしかできなかった。
ベクタの街に連なる商店街をフラフラと歩いていた二人だったが、路地の方から悲鳴が聞こえた気がして顔を見合わせる。
二人は何も言わずに頷いてすぐ近くの路地に入った。すると、二人の少女が柄の悪そうな男達に絡まれていた。
一人はエプロンを身に着けていてメイド服のようなものを着ているが、もう一人は高そうな生地のワンピースを身に着けていた。赤い髪を結い上げた姿はどこぞのお嬢様にも見える。
「やめてください」
エプロンを身に着けた少女が言ったのを機に、ロックは背の高い男の肩に手を掛ける。
「嫌がってるけど、やめておいた方がいいんじゃねーの?」
一応提案してやったのだが、勿論チンピラにそんな提案を呑む人間はいない。
「ああん?」
アゴを突き出して睨み付けられ、ロックは肩をすくめる。平和になったとは言っても、こういう輩は消えてくれない。
「綺麗なねーちゃん連れて、彼女の前でいい格好しようってのか?」
背の高い男の隣に立つ筋肉質の男に言われ、ロックは深い溜息をついた。
「助けるのがいい格好って言うってことは、あんた等がやってるのはかっこわるいってわかってんのか……」
ロックの言葉に「なにっ!」背の高い方がいきり立って拳を振り上げた。
正当防衛と言い張るために挑発したのだが、こう易々と乗ってこられるとまたつまらない。
大振りな拳を軽々と避け、その厳ついアゴに飛び膝蹴りを食らわせる。驚いた筋肉質の男が慌てて飛びかかってきたが、その辺のチンピラがロックに敵うはずもない。
「やめとけって言ってるのに……」
呆れ顔で膝を落とすと脇腹に拳を捻りこんだ。
「ぐぉっ……」
呻いて崩れ落ちた男を無視し、二人の少女を見る。
「大丈夫だった?」
すぐに動けるように構えていたセリスだが、出番なく少女達の元に駆け寄る。
「あ、はい……」
エプロンを着けた少女は頷いたが、もう一人、燃えるような赤毛の少女はぽーっとなってロックを見ている。
それに気付いたロックは苦笑いで、
「怪我とかないか?」
優しく尋ねた。困っている人に優しいのは相変わらずで、それが女性だと尚更優しい。エドガーのあからさまなスタイルとは違う自然な優しさに、毎回嫉妬を覚えるセリスだが表には出さないよう努めている。
「はい。あ、ありがとうございます」
胸の前で両手を組んでロックを見つめる少女は、一目惚れでもしたかのようなとろけそうな表情をしている。
「あ、あの、お礼に……よろしかったら、屋敷へおいでください」
赤毛の少女の申し出に、ロックとセリスは顔を見合わせた。
「申し遅れました。私、ジーン・ジャスパーと言います。連れはメイドのアニー。郊外の屋敷に暮らしていて……是非、お礼をさせて頂きたいんです」
熱烈な申し出に、ロックは苦笑いで頭をかいた。
「いや、そんなつもりで助けたわけじゃないし……。かえって悪いからいいよ」
「そんなこと言わないでください。……私一人で暮らしているわけではないんですが、たまにはお客様でもお呼びしたいんです」
寂しそうに呟かれると、ロックは無下に断れない。セリスの顔を見て彼女が呆れた表情を浮かべているのにまた苦笑いを零したが、
「わかった。じゃ、お茶でもご馳走になるよ」
少しぐらいならいいだろうと、軽い気持ちで承諾したのだった。
† † †
ジーンの住んでいるという館は、世界崩壊でできた地割れにかかる吊り橋を越えたところにあり、予想以上に大きなものだった。やはり世界崩壊で崩れたのか館の北の棟は破壊されたまま放置され立入禁止となっていて使えないらしいが、それでも何人もが暮らせるような館だ。ジドールの貴族の住む家に近い。
どうやら亡き両親が帝国で少ない貴族だったらしく、軍でも副将軍だったと言う。
館までの道中で、ジーンが館の状況を少しだけ教えてくれた。
亡くなった母親の姉夫婦と、行き場をなくした元帝国軍の人間が数人暮らしていると言う。それを聞いた途端、セリスは行くのが恐くなったが、勿論今さら断ることなどできない。ロックもやんわり断ろうとはしてくれたが、丁寧な口調に割に強引なジーンは聞く耳を持たなかった。
館に着くと迎えてくれたのは、ターナーというアニーの父親だった。アニーが家賃代わりにメイドをしているように、ターナーは執事のような雑事全般と料理をしていると言う。
紹介されたロックとセリスを見て、ターナーは言葉を失った。
「セリス……将軍……?」
絶句しているターナーに、セリスは溜息を飲み込む。やっぱり知っている人間に会ってしまった。
ターナーはレオ将軍の下で小隊を任されていた。親しいわけではないが言葉を交わしたことはある。
「今はもう将軍じゃないわ」
セリスにはそう言うしかできない。自分が将軍だったなどと言っていなかったため、ジーンもアニーも目を丸くしていた。
「こんなところで……」
苦渋の滲んだ表情のターナーを無視して、ジーンはロックに言った。
「どうぞ。中へ」
先程からセリスを無視しているようなところがあるジーンに、ロックは頭をかきながらセリスに声を掛けた。
「行くぞ」
「あ、うん。お邪魔します……」
肩身の狭い思いで玄関に足を踏み入れた。
数人暮らしていると言うから、他にも知っている人がいるかもしれない。少なくともセリスの方は知らなくても、向こうはセリスを知っている可能性が高い──将軍をやっていたため知らない兵士にも顔が知れ渡っていた。
応接間に通されるとすぐに、アニーがお茶を持ってきた。
「すみません。なんだか父は様子が変で……」
困ったようにセリスを見たアニーに、セリスは笑おうとして笑えず唇を歪めた。
「私こそごめんなさい。帝国軍の人間は、私を嫌ってる人も多かったから……」
「まさか、彼の有名なセリス将軍だなんて思いませんでしたわ」
ジーンの言葉に、ロックが静止をかける。
「セリスは帝国に反旗を翻してるからな。それより、広い家だな。ベクタじゃ珍しいよな」
「ええ。祖父が王位継承権に巻き込まれたくないからという理由で王族を離脱していますが、父はガストラ皇帝の甥だったんです」
「マジか!? そりゃ……」
なんと言っていいかわからず、ロックは頭をかいた。きっと色々大変だったに違いない。
「今となっては余り意味のないことですけどね。館の維持がやっとですから」
そんなことを話していると、応接室の扉がノックされた。
傍らに控えていたアニーが「はい」と扉を開ける。
顔を出したのは、ロックと同じ年ぐらいの男だった。
「セリス将軍が来たって言うじゃないか。本当かと思ってね」
好奇心むき出して覗き込まれ、セリスは内心顔をしかめた。男はセリスに目を止めると、「ほほぅ」と頷いて両手を挙げた。
「本当に本人だ。こりゃびっくりだな」
随分失礼な物言いに、ロックはムッとして男を睨む。
「あんた、何様だか知らねーけどそんな言い方はねーんじゃねーの?」
ロックの剣呑な視線に男は戯けて肩をすくめた。
「悪い悪い。そんなつもりはなかったんだけど、あまりにも驚いてさ」
部屋に滑り込むようにして入ってきた男は、空いているソファーに腰掛けてアニーにお茶を頼む。
「紹介が遅れたけど、俺はグリン。セリス将軍とは……直接面識はないかな」
グリンと名乗った男は、人好きのする笑顔を浮かべた。
「ケフカの直属部隊にいたわね。見かけたことあるわ。いつもふてくされたような顔してた」
記憶力のいいセリスは名前までは覚えていなくとも、どこで見たかは覚えていた。グリンはひゅぅっと口笛を鳴らして、
「よく覚えてるな~。俺はケフカが大っ嫌いだったからな。見事嫌いな奴の下に配属されればふてくされもするさ」
そんなグリンは材木店で働いていると言った。そして館に住んでいる元軍人はあと一人、ウッドという若い男だと教えてくれた。ウッドはレオの部隊の新兵だったらしく、今は酒場の用心棒だそうだ。
グリンにもお茶を持ってきたアニーは用があるからと応接室をでて行った。その後はグリンばかり話しているせいで、ジーンは不服そうにムスッとしていた。彼がセリスにしかわからない話を始めると、ここぞとばかりにロックに話しかける。
「普段は旅ばかりなんですか?」
セリスの話を聞いていたロックは、突然話しかけられたことに目を丸くして頷く。
「ん? ああ。トレジャーハンターだからな、一応」
一応と付けたのは、最近収穫が少ないからだ。一方ジーンは、聞き慣れない『トレジャーハンター』という言葉に首を傾げる。
「それって……宝を狩る人?」
そのまま直訳され、ロックは苦笑いで説明してあげる。するとジーンは目を輝かせて「羨ましい」と言った。
館の部屋を貸した金と遺産で暮らしているジーンは、職業に就く必要性もなくつまらない毎日を過ごしていると嘆く。
「だれかいい人でもいればいいんですけど……」
呟いたジーンは熱っぽい視線でロックを見た。だが鈍感なロックはそれに気付かず、
「いつか見つかるさ」
他人事のように言うだけだった。
† † †
結局、空いている部屋があるからと宿泊させてもらうことになった二人は、夕飯の時に全員と対面した。
グリンから話を聞いていたウッドは端正な顔立ちでニヒルな感じのする青年だった。
ジーンの叔母ヘレンは、夕方出先から帰ってロックとセリスの来訪を知り、更にセリスの正体を知って最も驚愕した。
驚いたのはセリスも同じだった。ヘレンの夫ダグラス・ヘルゲイトはセリスの部隊にいた男で、更にダグラスとは再婚で最初の夫マック・ヨーランドもセリスの部下──しかも部隊長だったのだ。更にセリスは知らなかったが、マックはセリスが帝国を裏切った後責任をとらされケフカに殺されたと言う。
食事の後にヘレンの夫ダグラスが酔っぱらって教えてくれたことだが、余りの驚きに言葉が出てこなかった。
ヘラヘラしているダグラスは、しきりにセリスに身体を寄せてきて余計なことを教えてくれる。
「昔から綺麗だったけど、更に綺麗になったなぁ。あんたを狙ってた兵士は大勢いたんだぜ」
忠実な部下だったマックが殺されたと知り動揺していたセリスだが、ダグラスの言葉にハッと我に返る。
「それは頭のおかしな奴も大勢いたもんだな」
失礼なことを言われてつい将軍口調で言い返す。
「それ。そのあんたの冷たい目がいいんだよ。ひれ伏せさせたくなるんだ」
ヘラヘラといやらしい笑みで言われて、セリスは心底嫌悪を求めた。殴ってしまう前に納めたいと思いロックの姿を探したが、ロックはジーンに捕まって話し込んでいた。
「あの男は恋人なのか?」
酒臭い息をかけられ、セリスは顔をしかめてダグラスを睨む。
「それがどうかしたか」
「いーや。将軍はああいうのがお好みだったとは……」
何を想像しているのだから知らないがやたらとニヤニヤされ、セリスは必死に怒りを抑える。
「言っておくが、ロックはかなり強いぞ」
「それはそれは。女はいつの時代も強い男が好きなもんだ。将軍も、自分より弱い男は選べないのか」
明かな嫌味に、セリスは頬がひきつるのを辛うじて堪えることしかできない。
そこへ妻のヘレンがやってきた。さきほどまでは明らかにセリスに敵意を持った視線を送っていても話しかけてくる様子はなかったのだが、ヘレンは慇懃な笑みを浮かべて言った。
「マックを殺しただけでは飽きたらず、今度はダグを誘惑?」
その言葉にセリスは眉根を寄せて顔をしかめる。誘惑どころか失礼極まりないことを言われていただけだ。
だがセリスが言い返すより先にダグラスが妻を見た。
「おや、珍しいなヘレン。いつもは俺が他の誰を口説いても気にしないのに」
いつもそんなことをしているのか……そして今のはセリスを口説いていたのか? セリスは二重に呆れてしまう。
「それは勿論。私達にとって、セリス将軍は特別な人だもの」
ヘレンの翡翠色の流し目で見つめられ、セリスは苦い顔になった。そんなセリスの表情を見て満足したのか、ヘレンは楽しそうに笑うと、
「ふふ。ゆっくりして行ってね」
そう言い残して去って行った。
「ヘレンにも困ったな」
歩み去った妻を見つめダグラスが肩をすくめる。
「マークが死んだのは……将軍のせいじゃない。将軍が帝国を離脱しなくても、きっと死んでいたさ」
遠くを見るような目をしていたダグラスだが、急に甘い笑みを浮かべてセリスを見た。
「いつか将軍に恋人ができるなんて想像もしなかったな。あんたを抱いたらどんなだろうと想像はしたけれど」
「なっ、なに……」
不躾で失礼な言葉に、セリスはカッと頬を染める。
「あんたはそれだけ魅力的だってことだ。あの頃より更に大人になって……女らしくなったなぁ」
にやにやと笑みを深めたダグラスの視線はセリスの全身を舐めるように辿る。
セリスは何か言いたいが、余りに強い羞恥と怒りで咄嗟に言葉が出てこない。
「あの……ロックとかいう男は、アッチの方もうまいのか?」
顔を寄せて囁くように言われ、頭の中が真っ白になった。
バシッ!
気付くとセリスはダグラスの頬を思いきり平手打ちしていた───拳骨で殴らなかったのは多少の理性が働いたからだ。
部屋で歓談していた全員がセリスとダグラスを見る。ロックが慌てて駆け寄ってきた。
「どうした?」
「………………」
ロックが目の前に来た途端、彼に抱きついて泣き出したくなる。だけど人目があるのにそんなことはできないで、セリスは黙って首を横に振った。
「くっ、気が強いねぇ」
頬を抑えて呟くダグラスは呆れ顔だ。少しは反省してほしいのだが、まったく反省する気はなさそうに見える。
「あなた、何しているのよ」
再びヘレンがやって来た。ダグラスは肩をすくめた。
「いや、ちょっとね。からかいが過ぎたらしい。アニー、濡れた手拭いをくれないか。頬を冷やす」
何があったのかと目を丸くしていたアニーは突然声を掛けられて、慌てて厨房へ向かう。
泣きそうな顔で俯いてロックの袖を掴んでいるセリスに気付いくと、ロックはダグラスに向かって言った。
「何を言ったかわかんないけど、セリスはもう昔の将軍じゃない。彼女を傷付けるようなことを言わないでくれないか」
「傷付けるようなことを言ったわけじゃないと思うがね。ま、今日のところは退散するよ」
アニーが持ってきてくれた冷たい水に浸されたタオルを頬に押し当てたダグラスは、ヘレンを伴って部屋を出て行った。
「すいません。叔父が……」
戸惑い気味にジーンが近寄ってくる。ロックは頭をかきながら困ったように唇を歪めた。
「いや、君のせいじゃないさ」
「叔父は……ちょっと女癖の悪いところがあって……失礼なことを言ったかもしれません。館の持ち主は私ですけど、私はまだ子供なので私の言うことなんて聞いてもらえないんです」
ようやく冷静になったセリスは、なんとか微笑んでジーンに言った。
「私こそ殴ったりして水を差してしまったわ。ごめんなさい」
少しだけ部屋の空気が和らぐと、グリンが言った。
「あのおっさんが悪いのさ。いつものことだ。マークさんは本当にいい人だったんだけどな……」
悪気があって言ったわけではないのだろうけれど、セリスの顔色が変わり慌ててグリンは両手を振った。
「い、いや、マークさんが殺されたのは仕方ないんだ。ケフカが全て悪い。レオ将軍だったらそんなことはしなかった。そうでしょう?」
「そういうことだな」
無口そうなウッドの口添えに、セリスは小さく頷いて言った。
「ありがとう」
と。
■あとがき■
49494hitキリリク ウィル様『ED後、セリスとロックは二人で旅をしていて、ある村に立ち寄った時、 事件が起こりセリスが犯人にされて、無実を証明するためにロックが真犯人を探し最後はラヴラヴと言うサスペンスチックな話』です。
お届けが遅れて(*_ _)人ゴメンナサイ
。途中までは書いてあったのですが、どうしても最後の方がまとめられず……。この話は珍しくプロットを起こしています。いつも流れに任せて書くのですが、今回はそういうわけにはいかないので。(実は最初の頃は全てプロットまではいかなくても、「何話目でこんな展開」程度にはメモを作っていました。最近は……プロットを作ることすら難しい(ネタ切れ?)状態気味です。体調不良も勿論ありますが、ネタ切れが更新が遅い原因でもあります。本当にすみません;;
サスペンス好きな桜ですが、実は書くのは苦手です。オリジナル小説でも何度か挑戦しようと思ったことがあるのですが、事件だけ起こして頓挫しました;; 何故か……トリックとか考えるのが苦手だから(というより考えつかない)諦めてしまったんですね。そんな桜なので、「ちょっともっとうまく書いてよ!」と思うことになるかもしれませんが、一応精一杯書きます。それで許してください。
ありがちな「どこかで見たような……」サスペンスとなってしまいそうですが……色々考えはしたんです。最初に思いついたのはアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』です。でも互いに疑心暗鬼って、ロクセリすら互いを信じられない状態にしないとミステリとしてつまらないものになってしまうので断念。サスペンスは色々読んでいますが、現代物がほとんど。やれ会社を相続だのコンピュータソフトを盗もうとしただの、スパイだの……というようなものばかりなので余り参考にもなりません。金田一少年風がいいんだろうな……と思いましたが、手元にない。くぅっ。でも自分なりに頑張ります。
登場人物が多いのでわかりにくいと思いますが、登場人物紹介も随時更新していますので、そちらをご覧になると多少わかるかも。 (06.03.11)
「アニー、あのセリス将軍と余り親しくするんじゃないぞ」
不機嫌そうな父親の言葉に、アニーは驚いて顔を上げた。
二人は続き部屋を使っている。アニーは起床してすぐ父親の部屋に呼ばれ、何事かと顔を出したところだった。
「なんで? あの人、いい人そうだけど……。だって、私達のこと助けてくれたし……」
「冷酷無比だった人間がそう簡単に変われるはずがない。逆らったら何されるかわからん」
聞く耳を持たない父親に、アニーは呆れ顔で言う。
「言い過ぎじゃない? そんな人には見えないわ」
「見てくれは綺麗だからな。それが余計に恐い……」
心底脅えているように見える父親が、アニーには信じられない。セリス将軍の行いを聞いて知ってはいるけれど、自分からは遠い話のように思えるし、当人に会ってもとても噂の常勝将軍には見えなかった。
「とにかく、気をつければそれでいい」
頑なにそう言う父親に、アニーは仕方なく肩をすくめた。
「わかった。とりあえず、怒らせないようにするわ」
美人だから怒ったら恐いかもしれないけれど、怒りっぽい人には見えないのにな……アニーは心の中で呟いた。
アニーの朝一番の仕事は飼っている数羽の鶏に餌を与えることだ。
新鮮な卵のために飼っていて、一向になついてはくれないが脳みそのなどほとんどないのだからと諦めている。
今日も餌の入った小さなバケツを持って鶏小屋へ向かおうとしたのだが……。
館の裏側に差し掛かった時、地面に何かが落ちているのが目に入った。朝靄が濃いためぼんやりとしか見えないが、かなり大きい。
「……? 何かしら……」
不思議そうに近付いて「ヒッ……」と息を呑んだ。それは人の形をしていた。そして広がる長い赤い巻き髪。
「ジ、ジーン……?」
立場は主人とメイドだが、ジーンはそんなことに拘ってはいないし唯一の友人とも言える。
倒れている姿に慌てて駆け寄ったけれど、彼女の首は変な方向に曲がっていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
耳を劈くような悲鳴が辺りに響き渡った。
その声に浅い眠りを彷徨っていた皆も目を覚ます。
最初に駆け付けたのは父親であるターナーだった。
「どうした! アニー?」
娘の一大事かと走ってきたターナーは息を切らしている。そしてアニーが立ち尽くす足下を見て驚愕した。
「ジーン嬢……?」
掠れた声で尋ねてみるけれど答えは返ってこない。
「ま、さか……」
更に近付くと、脈を取るまでもなく死んでいるのがわかった。
「ど、どうして……?」
アニーが涙声で呟く。ターナーは呆然として何も言えない。
「どうした?」
そのうちロックがテラスから顔を出した。ジーンが倒れているすぐ真上の部屋のテラスからセリスも身体を乗り出している。
そして誰かが倒れているのに気付き慌てて顔を引っ込めた。そこへ頭をかきながらグリンがやって来た。
「朝からすんげー悲鳴で……何があったってんだよ……」
パジャマのまま寝惚け眼だ。そんなグリンを、ターナーは鋭い視線で睨み付けた。そしてジーンの死体を顎でしゃくって見せる。
「……は?」
グリンは倒れているジーンを見て目を瞬かせた。
「ジーン……だよな……」
事態が把握できないできると、ロック、セリスとウッドが共に走ってきた。
「ジーン!」
ウッドがジーンの死体にとりすがる。
「一体どうして……」
セリスが青ざめた顔で呟くと、ターナーが振り返った。
「お前が……殺したんじゃないのか?」
「なっ……」
セリスもロックも目を見開いて驚愕する。
「何言ってんだよ。んなわけねーだろ!」
憤ったロックに、ターナーは冷たい視線を投げかける。
「どうだかな。マランダ攻略の話を知らないのか?」
「昔と今は違う!」
言い切ったロックに、セリスは胸が熱くなる。今の彼は自分を心から信じてくれているのだと確信できた。でも疑われてしまうのは辛い。
気まずい雰囲気をうち破ろうとしたのか、グリンが首を傾げた。
「しかしヘレンとダグが来ないな……。一番遠いから聞こえなかったのか?」
夫妻の部屋は逆側の端の方にある。
「呼びに行った方がいいな」
「わ、私が……行ってきます……」
その場にいることが耐えられなかったのか、アニーが申し出た。誰も反対を唱える理由もないため、アニーは駆け出す。
残った者は、誰も何も言わない。ウッドがただすすり泣いているだけだった。
ジーンの遺体は彼女の部屋に置かれ、一同は応接間に集まっていた。
「とりあえずベクタの市警に届け出るべきだな」
ダグラスの言葉に、ロックは同意する。
「ああ。どう見ても自然死じゃない。首を絞められた後もあった」
「とりあえず、俺が行ってくるよ」
グリンが言った。客人であるロックやセリスに行かせるべきではないし、彼がこの場で一番ジーンに遠い人間だ。
「悪いがそうしてくれ」
ダグラスに頼まれ、グリンは頷くと部屋を出て行った。
アニーとウッドはひどく憔悴しており、ヘレンは俯いたまま一言も発しない。疑われたことを気に病んでいるセリスも暗く落ち込んでいた。
誰も何も言わないまま10分が過ぎた頃、廊下で大きな足音がした。何事かと思うと、勢いよく扉が開く。
「大変だ!」
グリンだった。ジーンが死んだ時以上に焦ったような顔をしている。
「亀裂にかかった橋が……壊れてる!」
慌てて言うグリンの言葉に、一同は顔を見合わせた。
「行ってみよう」
動く気力も残っていないらしいアニーとウッドを残して、6人はゾロゾロと家を出た。
玄関を出てすぐ、亀裂にかかっていた吊り橋が落ちているのが見えた。
亀裂まで行くと、しゃがみ込んだロックは切られている吊り橋の頑丈なロープを見て呟く。
「……誰かがやったな」
「そんな簡単に切れるものなのか?」
首を傾げたグリンに、ロックは唸るように言った。
「切れ味のいい刃物なら。小型の鉈なんかでも楽にいけるだろう」
「でも……なんのために?」
久々にセリスが言葉を発した。
「状況から見て、ジーンを殺した奴がやったんだろうが……なんのためだろうな」
それはロックにも想像が付かない。
「とりえず、孤立したってことか。四日後には町から食料品を持って来てくれる。気付いてもらえるだろう」
これはターナーだ。ロックは「四日か……」そう呟いて、皆を振り返った。
「俺なら亀裂を下りて向こうに渡れる。助けを呼んで来ようか?」
「食料はゆうに一週間分はあるはずだわ。無理することないんじゃない?」
ヘレンが口を出した。ダグラスも頷いて、失礼なことを言った。
「それにここにいる全員が容疑者だ。一人だけ逃げられると困る」
ダグラスの言葉に、ロックは激昂する。
「っ……! 俺は殺したりしないし、セリスを置いていったりしない!」
「だとしても、全員が同じ条件であるべきだろう」
「俺もそう思うね」
ターナーにまで同意され、ロックは苦々しい顔で押し黙った。
不満を漏らしたのはヘレンだ。
「全員が容疑者だなんて……私が可愛い姪を殺すわけないじゃない」
夫であるダグラスを睨むように言う。ダグラスはそれを鼻で笑ったものの、頷いた。
「そうだな。だが俺達で犯人を捜すのは難しい。例え犯人に予想がついても、証拠がない限り断定できないしな」
ダグラスが誰を犯人だと思っているのかわからないが、ターナーはセリスを犯人だと考えているようだし、もしかしたらヘレンもそう思っているようだった。
「死後硬直が始まっていたから、恐らく殺されたのは真夜中だ。アリバイなんて誰も持ってない」
ロックが証拠を見つけるなんて難しいと口添える。
豊富な知識を持つロックだけれども、詳しい鑑識ができるわけではないのだ。
「動機を持つ人間はいるんじゃない?」
ヘレンはセリスを見た。やはり彼女はセリスを疑っている。
「動機なんて、誰も知らない理由があるかもしれないんだから、知ってるのは犯人だけだろう」
ダグラスが助け船を出してくれた。昨日は散々失礼なことを言われたが、彼は意外に公平に物事を見ているとホッとする。
「しかし殺人犯と一緒に過ごすのか……」
ターナーが唇を歪めた。最初からセリスを毛嫌いしているだけに、セリスは悔しくてたまらない。が、自分がしてきたことが疑いを招いているのだと思うと何も言えなかった。
「とりあえず戻ろう。ジーンも埋葬しなきゃならない」
冷静なグリンの言葉に、一同は再び館へ戻った。
† † †
部屋に二人きり残されたアニーとウッドは、互いの存在すら気付かぬ様子で黙り込んでいた。
陰鬱な沈黙の中で先に自分を取り戻したのはアニーだった。
「ジーンは……殺されたのよね?」
掠れた声で独り言のように呟く。耳に入っていないのかウッドは答えなかった。が、1分ほど経ってから、
「そうみたいだな」
「……誰が? どうして?」
さほど親しくないアニーとウッドだが、今はジーンの死を誰よりも悼んでいるという共通点があるせいか、ウッドも考える素振りを見せた。
「さあな。犯人が俺達の中にいるってことは間違えなさそうだが」
「……父は……セリスさんだと思っているみたいだった」
アニーはセリスのことを口にしていた父親を思いだして言う。ウッドは首を傾げて言った。
「それはどうだろうな。動機が薄すぎる。勿論、動機ナシに人を殺す奴もいるだろうけど、死を覚悟で帝国を抜けた挙げ句ケフカを倒し、恋人と新しい生活を持っている人間がそんなことをするとは思えないね」
どちらかと言えば無口なウッドだが、思うところがあるのか饒舌に口を動かす。
「俺は昔のセリス将軍を直接知ってるわけじゃないし、ターナーさんみたいに将軍の凶行を鵜呑みにしてるわけじゃない。というより、会って気が変わった。大して考えもせず噂通りの人間なんだろうって思ってたが、あのロックとかいう男といる将軍を見てると普通の女に見えるね」
「私も……そう思う。でもそうなると、本当にこの館に暮らす私達の中に犯人がいることになるわ」
「よそ者の方が都合がいいか?」
ニヒルに頬を歪めたウッドに、アニーはカッを頬を染める。
「そういうつもりで言ったわけじゃ……。ただ……恐くて……」
「例えば俺が犯人かもしれない?」
「そんなつもりじゃ……」
アニーは言葉を濁した。本当にそんな可能性は微塵も考えていなかったのだ。というより、大して思考回路が機能していなかった。
だがよく考えれば、ウッドは動機があることになる。
無口でクールな男だがジーンのことを気にかけていた。彼女の亡骸に縋っていたのを思い出しても、恐らく好きだったのだと思う。ジーンがそのことを知っていたのかわからないが、もしフラれたならば腹いせという可能性は否めない───ウッドがそんなことをする人間には思えないけれど。
「私はあなたじゃないと思うわ。私でもない。セリスさんやロックさんも違うと思う。父も……違うと思いたい。グリンさんもそんなことはしないと思うの。得がないから」
「残るはヘレンとダグ、か?」
「…………ダグラスさんは女好きに見えるけど本気で口説いているようにも見えないわ。嫌味ったらしいところがあるけど、表に出してるから殺したりするとも思えない」
アニーは自分が辿り着いた可能性に震えた。
「残るは一人だな。ヘレンは……俺も好きじゃない。いつでも自分だけが可哀想って顔してるからな」
アニーはウッドが同意してくれたことにホッとする。もしアニーが疑っていると告げ口でもされたら、ヘレンはヒステリーを起こすのではないだろうか。
「でも……ヘレンさんにとっては唯一の肉親よ? 姪じゃない。この館に暮らすに当たって、不自由しているようにも思えなかった」
「俺達の知らない確執があるかもしれない。だけど……それは全員に言えることだから、結局振り出しに戻るな」
ウッドが溜息をついたところでグリンを筆頭に全員が戻ってきたため、会話は中断された。
アニーの誰に向けるでもない不安と不信感は拭えぬままに…………。
† † †
夏に差し掛かる今は遺体を何日も保存しておけない。
涼しい野菜の貯蔵庫に置くという手段もあったが、食べ物と遺体を共に置くことにヘレンが何色を示したためジーンはすぐに埋葬された。
男性全員で館の裏手に大きな穴が掘られ、ジーンは花壇から摘まれた花と共に葬られた。
牧師すらいない祈りの言葉を捧げることすらない静かな別れに、アニーですら現実感が気迫に感じられて泣けなかった。
ジーンの埋葬を終えるともう夕刻だった。
ターナーとアニーがいつも通り夕食を用意し、ウッドやグリンが仕事に行けなかったため全員が定刻テーブルに着く。
給仕された前菜を前に、口数の少なかったヘレンを顔を歪めてセリスを見た。
「この中に犯人がいるのね───」
アニーはテーブルの傍を動いているがターナーはまだ厨房だ。ヘレンの中ではターナーは除外されているのだろう───というよりは、セリスが犯人だと思っているのか。
「犯人と同じテーブルで食事なんて……!」
悔しそうに吐き出した妻に、ダグラスは優しく声を掛ける。
「全員が同じ気持ちだ。誰を彼も疑う状態はよくない」
「私は誰も彼も疑ってるわけじゃないわ……!」
叫ぶように言ってセリスを睨み付ける態度に、セリスは小さく縮こまるしかできない。自分でないことはよくわかっているが、それを照明する手立てがない。
ロックは愛する恋人が疑われてることに不快感を隠さずに、セリスに変わってヘレンを睨み付けた。ヘレンはロックの視線を無視して唇を噛みしめた。
食事の載せられたカートを押してきたターナーが眉をひそめて全員を見回し、
「疑わしきは罰せずだ。疑わしいだけでは何もできん。ヘレン、町と連絡がとれるまでの我慢だ」
そう言ってヘレンの前にスープを置いた。
セリスは今すぐにでも立ち上がって出て行きたかったが、そんなことをすれば余計に疑われる気がして動けない。だけど食事はろくに喉を通らず、蒼白な顔をしていた。
ロックはセリスの辛そうな顔を見ていられなくなり、立ち上がって言った。
「言っておく。俺とセリスは絶対に! 無関係だ。というかそもそも巻き込まれていい迷惑だ。真相は市警団に任せればいいことで、これ以上疑わないでくれないか? 俺達からみれば、あんた達の方がよっぽど怪しいしな」
ヘレンを睨み付けて言うと、ヘレンはギリリと歯を食いしばった。中年女性なりに美しい方なのだが、その美しさも歪んで深く皺が刻まれる。
「市警団が来るまでは、表面上だけでいいから普通にしているべきだってことだな」
グリンが軽い口調で言ったので、ロックは再び腰を下ろした。
相変わらず誰一人口を開かず憂鬱な夕食の場だったが、セリスは自分のためにきっぱりと言ってくれた恋人を想って少しだけ無理して食べ物を流し込んだ。
町から差ほど遠くないのに隔離された館の中で、誰もが笑み一つ浮かべることなく眠れぬ夜を過ごす───
■あとがき■
間にⅦクラティ更新があったせいで、また一月後となってしまいました。すみません;;
このお話は書くのがかなり辛いです。文章が全然出てきません。難しいという理由なんですが、自分の才能の無さをひしひしと感じます。
しかしリクエストをしてくださったウィルさんは、私の他の話を読んで「きっとこんなのも書ける!」と思ってくださったのだと思います。そう考えると、頑張りたいと思うのです。(←単純?w 前向きなところもあるのです)
最初の犠牲者はジーンです。悪い子ではないんですが、私は好きじゃない感じの子(笑) イメージだとキャンディキャンディのイザベルってところでしょうか(ひどい?w)。だからと言って殺されるほどに嫌な子ではないんですが……誰がなんのために殺したんでしょう。1話目しか出てこないのですが、その嫌な子の部分がろくに出せなかった……。でも一日の間でそれを出すのは難しくって;;
ちなみにトリック的なものはないので期待しないでください(笑)
犯人は特別、わからないようにしているわけではないのですが、勿論ここで明かしたりはしません。予想するほどの話じゃないのが残念なのですが……(ちょっと立ち寄っただけの場所なので詳しい確執などとロックとセリスが知らないせいもあります)。
相変わらず体調不良が続いており、ここ2週間は以前に増して悪くなっています。病院には通っているのですが、今日薬を変えました。それが効いてくれることを心から願います……。実は今もお腹が痛いのですが、「更新しなきゃ……」と気力で頑張っております。皆様「無理しないで」と言って下さるんですが、溜まっているキリリクが気になって2週間に1度ぐらいは更新せずにいられないという……(笑) まあ、動けないほど悪ければ更新延期にするので、更新できているうちはまだマシと思ってくださいw (06.04.08)
明け方、浅い眠りから目覚めたロックは、ぼうっとする頭でテラスに出て煙草を吸いこんだ。
「マジで面倒なことに巻き込まれたな……」
自分とセリスが犯人でないのは明白なのに、それを証明する術がない。
それに自分が疑われるのならまだしも、セリスが疑われている──過去に帝国軍で常勝将軍と呼ばれたせいで。
帝国時代のことで最も後悔し最も苦しんだのは彼女なのに、もう苦しむ必要などないのに、また彼女は苦しんでいる。彼女を守ると誓ったのに、彼女の心を守れないでいる自分が不甲斐なくてたまらない。
絶対に彼女の疑いを晴らそう。疑いを晴らしても、彼女を好意的に思ってない連中の意識が変わってくれるわけではないけれど。
煙草を吸い終えたロックは、続いているテラスからセリスの部屋をそっと覗く。ベッドの横たわった彼女は向こう側を向いていて、ぴくりとも動かない。
「寝てるか……?」
眠れているのならよかった。彼女は周囲が思っているほど強くはない。こんな状態なら一睡もしていないのかと思っていた。しかしそれは当たりだったようで、セリスは身体を起こすと窓の方を向いた。
「……ロック……?」
やはり顔色が悪い。ロックはテラスの出入り口であるガラス戸に手を掛けた。しかし鍵が掛かっている。それを錠前破りで鍵を外すこともできるが、忍び込むわけでもないのにそれをするのは非常識だ。
セリスは困ったように笑うと、寝間着のままベッドから出てガラス戸を開けた。
「おはよう。どうかした?」
「いや、お前が心配だっただけだ」
率直に言ったロックは肩をすくめてセリスの部屋に入る。
眉尻を下げたセリスははにかみを浮かべる。
「私は大丈夫よ。だってあなたはわかってくれるから」
彼女の言葉に、あの時──魔導研究所で──彼女を信じられなかったことが未だに悔やまれる。だが、だから今があるとも言えた。
「なんとかして真犯人を見つけてやるからな」
「ありがとう。でも、無理しないでね」
目の下に隈ができているセリスだが、心底参っているわけではなさそうだ。
きっとロックが彼女を信じているから───
† † †
朝食より少し早い時間に食堂へ行くと、アニーがランチョンマットを敷いていた。
手持ちぶさたのセリスは「手伝うわ」そう声をかけてみる。
ちなみにロックは館の周囲を見てくると言っていた。
「いいえ、お客様にそんなことさせられません」
アニーは驚いたのか目をぱちうりさせてそう答えたが、
「でも、ただ座っているのって苦手なのよ。ね、手伝わせて」
セリスがお願いすると、アニーは苦笑いで「じゃあお願いします」と言ってくれた。
食器を並べ終わった頃、皆が食堂に集合した。
セリスが前菜のサラダを持って来ると、ヘレンは嫌悪の眼差しをセリスに向けた。そしてガタッと椅子を鳴らし立ち上がると、
「朝食はいらないわ……」
頬を引きつらせて呟いた。隣に座っていたダグラスが妻を見上げる。
「どうしたんだ? 食べないと身体によくない」
「でも食欲がないのよ」
ヘレンは顔色を無くして首を横に振る。ダグラスは肩をすくめて、
「どうしたんだ? 珍しいな。せっかく作ってくれたものを食べないと失礼だよ。今は食料が余分にあるわけでもないんだし」
軽くいさめた。常識人のようであるが、こんな状況では食欲がないのも仕方ないとも言えるので、少し厳しい気がする。
ヘレンは納得しない夫に向かって、眦をつり上げた。
「なんと言われても嫌よ! あの女が用意した食事なんて、口にできるわけないでしょう!」
ヘレンはセリスを指差していた。
指を突き付けられたセリスは真っ青になったが、すぐに反論する。
「どういう意味ですか!」
「お前の用意した食事なんて食べたら、どうなることか!」
失礼極まりないことを言ったヘレンに、ダグラスは呆れ顔になった。
「毒でも入ってるって言うのか? まったく、被害妄想も甚だしいぞ」
ダグラスはセリスを疑っていないのか、レードルでドレッシングをサラダにかける。
「あなたが信じられないと言うのなら、私が食べてみせればいいんでしょう?」
感情が爆発しそうなセリスは、ヘレンをどかせると彼女が座っていた席に着いた。そしてダグラスが使ったドレッシングを同じようにサラダにかける。
自分が用意したのだから、毒が入っていないことはわかっていた。
隣でサラダを食べ始めているダグラスに続いて、セリスもサラダを口にした。
ドレッシングはレモンが利いていてさっぱりした味だ。レシピを聞いておきたいぐらいにおいしい。
口を挟む暇がなかったロックは、黙ってサラダを食べている二人を見守っていたが、おもむろにヘレンを見た。
「あんたさあ、証拠もないのに人を疑って恥ずかしくねーの?」
ロックの辛辣な言葉に、ヘレンは一瞬身を竦めたが負けずに言い返す。
「証拠がないからって、最も怪しい人物であることに変わりはないわ!」
「一番ここの人間に関係なくて、動機もないのは俺とセリスなんだけど?」
いい加減にしてほしいとロックが呆れ顔で言うと、ダグラスがサラダを食べ終わった。
「ふむ。いつも通り、おいしかったよ。ただ、このレモンのドレッシングはいつもと少し味が違うね。隠し味でもいれたか?」
続いて食べ終えたセリスも、頷く。
「ちょっと苦みがあるのね。でもそれがクセになる感じかも」
二人の会話を聞いていたアニーは、部屋の隅から言葉をかける。
「いつものレピシで作ってます。余計なものは入れていないはずですが……。タマネギが苦かったんでしょうか?」
「そうかもな」
笑顔で答えたダグラスだったが、その笑顔が凍り付いた。
「……ま、さか……?」
腹を押さえて背中を折った。
「あなた?」
ヘレンがおずおずと声を掛けたが、ダグラスは答えず身体を震わせた。
セリスは不安になって何か言おうとしたが、それより早く激痛が走った。
「うぅ……」
思わず呻いた。毒なんて入る隙はなかったはずなのに……そう思ったが、胃の中が焼けるような痛みに襲われ、もう言葉を発することもできない。
「セリス!」
慌てて立ち上がったロックが駆け付けたが、セリスは意識を手放していた。
セリスを部屋に寝かし、手持ちの毒消し草と免疫を高める薬草を飲ませたロックは、彼女の症状がひどくないことにホッとした。
致死量にはほど遠いのか、または毒性自体が強くないのだろう。犯人の目論見が外れたのか量を間違えたのかよくわからないが大したことはなさそうだった。
ロックはとりあえず皆が集まる応接間に顔を出すことにする。
ダグラスにも同じ薬草を処方しようかと申し出たが、ヘレンは「あの女の仲間からもらうものなんてないわ!」頑なに断った。家に常備してあった薬を使ったのだろうが、それが効くのかどうかわからない。
「大丈夫ですか?」
アニーがロックに声をかけた。ロックは疲れた表情で、
「多分、な。あいつは毒に対する抵抗力も強い方だし、神経系の毒じゃなさそうだ」
そう呟いた。本当にずっとセリスについていたいが、状況を把握する必要もある。
暫くしてヘレンが訪れ、歯噛みするように吐き出した。
「やっぱり毒が入っていたじゃない……」
「セリスが自分で飲んだとでも言うのか?」
ロックは憤ってヘレンを見る。
「自作自演じゃないの?」
ヘレンは鼻で笑うように言った。セリスのせいで前夫が死んだと憎んでいるせいか、彼女はセリスを心底嫌っているようだ。
「自分も危ない思いをしてまで、ダグラスを殺そうとする必要性があるのかねぇ」
グリンが呟いた。アニーもそれに同意する。
「そうですよ。そこまでして殺すほどの理由があるように思えません」
「だが、ヘレンとダグラスの二人を殺そうとして、ヘレンが気付いたから仕方なく口にしたのかもしれない」
そう言ったのはターナーだった。彼もセリスを疑っているようだ。
ロックはそれを無視し、
「テーブルはそのままにしてあるよな?」
ターナーに確認した。しかしターナーは、
「毒の入ったものなど置いておきたくないから捨てた」
あっさりと言ったのだった。
「はあ? 捨てた?」
ロックは信じられないという顔をする。
「サラダ自体に毒が入っていたのか、ドレッシングだったのか、他の人のサラダはどうだったのか、そういう調べるべきことがあるだろう!」
「それがわかったから何になる?」
ターナーはターナーで理解不可能という表情だ。
「何になるって……」
ロックは呆れてそれ以上言葉が出なかった。
「お父さん、セリスさんを疑ってるの?」
アニーがターナーに尋ねた。ターナーは一瞬言葉に詰まったが、
「疑ってるわけではない。可能性があると思っているだけだ」
そう答えた。ロックは思わずぶつくさと呟く。
「決めつけてるわけじゃねーんなら、証拠ぐらい取っておいてくれよ」
しかし次のターナーの言葉に、一同はシーンとなった。
「……気持ち悪いから片付けてほしいと奥様に言われたからな。私は使用人に過ぎない」
全員の視線がヘレンを見る。
「気持ち悪くて冗談じゃないわ。まったく……早くあの女を捕まえて欲しい!」
態度を変えないヘレンに、ロックはもう怒る気力もなかった。
腹痛がひどいのだろう。眉根を寄せて横たわるセリスの傍らで椅子に座りながら、ロックは考え込んでいた。
絶対に怪しいのはヘレンだ。それから可能性的にはダグラス。だが証拠がない限り、追い詰めることはできない。
「なんだって俺達が来た今なんだ……?」
自分たちは全く関係のない人間であるはずなのに……。
だがヘレンは明らかにセリスを憎んでいる。逆恨みだけど憎む理由はある。
ロックはセリスの寝息が安定したのを確認すると、立ち上がった。
廊下へ出ると人気がないのを確認して、ヘレンの部屋へ忍び込んだ。
隣室のダグラスにはアニーが世話をし、他の者は未だ応接室にいるはずだ。
当たりを付けて家捜しを始める。いつ彼女が戻ってくるかわからないから、とにかく迅速に。
ぴったりした皮の手袋で引き出しを開けていると、一つだけ奥行きの少ない引き出しがある。
「ビンゴか……?」
奥の板を外すと、茶色い小瓶がいくつか並んでいた。
ラベルは貼っておらず、2つは液体が半分ぐらい、もう2つは錠剤だ。
「頂いておくか」
ロックはそっと小瓶を取り出すと懐に入れ、再び板を填めると部屋を元通りにした。
「俺はコソ泥じゃなくてトレジャーハンターなんだけどなぁ……」
一人ごとをボヤいて部屋を見回した。さきほどから小さく風の通る音が聞こえる。窓は完全に閉まっているし、隙間でも空いているのだろうか。
音を頼りに部屋を見回したが簡単にわかるところにはない。ウォークインクローゼットを開けるとその奥から聞こえる気がするが、大量の服が掛かっていて探すのは大変そうだ。
「今は諦めるか」
部屋を出ようかと気配を窺うと隣室のダグラスの部屋に見舞いなのか動いている人の気配がある。ロックは息を潜めて気配が消えるのを待つとテラス側から部屋を出た。
外からは目立つため誰もいないことを確認して、テラスに足を掛けて身軽に屋根へ上がる。
屋根伝いに部屋へ戻ろうとして、立ち止まった。各部屋の上に屋根裏用の通気窓が付いている。それがヘレンと逆端の部屋だけ一回り大きく、人が出入りできそうだった。逆の端の部屋には誰もいないはずだ。
「ここから出入りしたのか……?」
一人ごちて窓を開こうとするが、内側からしか開かない仕組みになっている。壊すわけにはいかない。
その場は一端諦めて、セリスの部屋の上まで行くと、屋根の端を確かめた。
「ラッキ、残ってる!」
雨樋を止める金具に引っ掛かった赤い切れ端を見つけたロックは指を鳴らして呟いた。それも頂いて使っていないバンダナに包むとテラスに下りて自分の部屋に戻る。
荷物の中から毒薬の判定紙をとりだして、先程入手した茶色い液体の瓶を開けた。窓を開けてバンダナで口を覆うと、薄茶色の紙の上に液体の中身を一滴落とす。
すると液体に触れた部分の紙の色が青に変わった。これは植物系の毒薬であることを示している。
ロックは複雑な顔で判定紙を灰皿で燃やしてしまうと、小瓶だけを隠し持って応接間に向かった。
応接間にはターナーとアニー、グリンの三人しかいなかった。アニーと交代したらしいヘレンに出会わなかったのは本当に運がいいらしい。
「あんた達は、俺も疑ってるのか?」
ロックは三人の顔を見回す。グリンは肩をすくめ、
「違うとは思うけど、可能性的には自分以外は全員ゼロじゃないな」
正直に答えた。アニーもターナーも同じ意見なのか何も言わない。
当然だろう。ロックは頷いて声を潜めた。
「俺はヘレンを疑ってる」
「…………何故?」
ターナーが問う。ロックは肩をすくめ、
「最も行動が怪しいから、か。動機も厚そうだ」
「だが証拠がない」
グリンが苦い笑みで言った。もしかしたら彼もヘレンを疑っているのかもしれない。
「俺が盗んできたということを信じてもらえるなら、ヘレンの部屋に隠してあった瓶を持ってきた」
「ぬ、盗んできたんですか?」
アニーが驚きの声を上げる。ロックは苦笑いするしかない。
「ああ。毒薬判定を確認した。誰かがヘレンに罪を着せようとして、わざわざ引き出しの奥を二重板みたいにして隠したわけじゃないならな」
ロックの言葉を信じたのか、ターナーは溜息をついてソファーに沈み込んだ。
「実は……奥様の部屋からは、屋根の上に上がれる隠し階段がある」
「隠し階段?」
ターナーの言葉に、アニーとグリンを目を見開き、ロックは黙って続きを待った。
「そうだ。そこから出れば、将軍の部屋の上の屋根からジーンを落とすことも可能だっただろう。ヘレンが一人でジーンを運べればの話だが」
「俺もそれらしきものがあることに気付いた。セリスの部屋の上に屋根に、ジーンの服の切れ端らしきものが引っ掛かっていたのも確認した。一人で運ぶことに関しては、何かしらの方法でできるかもしれないな。その方法はこの際置いておいてだ。ただそれでも状況証拠だけしかない……。いつ毒薬を入れたのかもわかってないしな」
ロックは唸った。ヘレンを問いつめるか、それとも……。
「あの、朝、ヘレン様に用を言いつかって厨房を抜けた時があったんですが、私も貯蔵庫に足りなくなったハーブを取りに行ったんです。チーズも足りなかったし他にも必要なものがあったのでセリスさんも一緒に行きました。その時既にドレッシングは厨房に出来て置いてあったんです。その時でしょうか……?」
「ってことは、全員分のドレッシングに毒が入ってたってことか?」
ロックの呟きにグリンが答えた。
「いつも一番最初に食べ始めるのはダグラスだ。もっと即効性で毒が強いと思っていたなら、全員分のに入れてもダグラスだけを狙ったのかも知れない。又はダグラスがああ反応するのを予想していたのかもしれない。全員を殺すつもりだったのかもしれない。それはわからないな」
グリンの言い分に、ロックは呻り声を上げた。
「これ以上殺す気がないなら市警団が来るまでこのままでいいけどな……」
「っていうか、本当にダグラスを殺す気なら、ダグラスが危なくないか?」
グリンの言葉にロックはハッとなった。
「やっぱりはっきりさせた方がいいな。問いつめよう。悪いけどアニー、セリスについていてくれるか?」
ロックの言葉に、アニーは力強く頷いた。
ダグラスの部屋を訪れると、ヘレンは不在だった。だが隣の部屋からガタゴトと音がする。
「自室か?」
隣にあるヘレンの部屋のドアをノックすると、細く扉が開いた。
「誰?」
「ターナーです。ちょっとお話が……」
一番角の立たないだろうターナーが言うと、ヘレンはムスッとしながら部屋を出た。傍らにロックとグリンもいるのを見て、眉根を寄せる。
「何の用?」
「あんたこそ旦那が毒にやられてるっていうのに、部屋で何やってたんだ?」
ロックの問いに、ヘレンは唇を歪めた。
「ちょっと捜し物よ」
「……もしかして、これか?」
小瓶を取り出すと、ヘレンは目を大きく見開いた。だが取り繕うように、
「なにそれ? そんなものじゃないわ」
あからさまに顔を背ける。
「あんたの部屋から屋根へ出れるな」
ロックは溜息を飲み込んで尋ねた。
「それがどうか?」
ヘレンをツンと顎を上向けて堂々と胸を張る。
「俺は、あんたが犯人だと疑ってるよ。更に、確実にダグラスを殺そうとするんじゃないかと懸念してる」
「なっ……なんて失礼な!」
ヘレンは叫んだが、ターナーもグリンも難しい顔で黙っている。
「あ、あなた達まで私を疑っているの!?」
「セリス将軍が犯人っていうよりは、説得力があることは確かだな」
そう肩をすくめたグリンに、ヘレンはヒステリーを起こした。
「冗談じゃないわ! 今すぐ出て行って! あなたのような人間にここに住んでほしくないわ!」
横暴な言い様に、グリンが言い返す。
「って、ジーンが生きてたら、あんたが決めることじゃなかったけどな。早速、家主気取りか」
「なっ、なっ、なっ……いい加減に……!」
更に叫ぼうとするヘレンだったが、扉が開いたままのダグラスの部屋から聞こえた呻き声に口を噤んだ。
「ダグ?」
グリンが部屋の中を覗き込む。ロックもその後ろから部屋を覗いた。
「ヘレ……ン……?」
ダグのくぐもった声に、グリンとロックはヘレンを振り返った。
「あんたのことをお呼びだぜ?」
ヘレンは深呼吸をして、ダグラスの部屋に入った。
毒が入っていたのがドレッシングだったなら、ダグラスはセリスの半分ほどしかドレッシングを使わなかった。そのお陰で症状が軽かったのかも知れない。
「あなた……大丈夫?」
震えた声で尋ねたヘレンに、ダグラスは掠れた声で答えた。
「残念ながら……」
「何言ってるの。心配したのよ」
泣きそうなヘレンに、ダグラスは鼻を鳴らした。
「……ふん。俺を殺せなくて残念だったな……」
「なっ……あなたまで……!」
ヘレンは驚愕に震えた。ロック達三人は廊下からやりとりを見つめている。
「ジーンを殺したのもお前だとすぐにわかった。お前は一時期催眠術にも凝ってたからな」
「催眠術……?」
思わず呟いてしまったロックに、ダグラスはわざわざ答えてくれた。
「そう。催眠術で屋根まで連れて行ければ、あとは催眠状態の間に殺してしまえばいい。そうだろう?」
「違う。私じゃないわ。どうして私を疑うの?」
ヘレンはまだ否定した。彼女は目尻に涙を浮かべていたが、ダグラスはそれを無視し話を続けた。
「だが、ジーンを殺した理由はわからん。疎ましいと思っていたのは知っていたが、殺すほどだったか?」
「疎ましくなんか……唯一の血縁なのよ」
「血縁なんて大事じゃないだろう。あんたが大事に想ったのは、マックだけだった……」
ダグラスは自嘲するように弱々しく笑った。声に力がないのはまだ毒が抜けきってないからだろう。
「お前を手に入れるために、俺がマックを殺すようケフカに進言したことを知ったんだろう? 今さらどこで聞きつけたんだか。……俺は、殺されてやろうと思ってたんだけどな。殺すなら、ちゃんと殺せよ……」
ではマックが殺されたのはセリスが帝国を抜けたことが原因ではなかったのだ。それを知っていながら、何故ヘレンはセリスに罪を着せようとしたのだろう。ただ偶然、彼女が丁度いい相手だっただけなのか……。
ヘレンは泣き崩れた。
「あなたがいなければ……マックは………………!」
ダグラスに対する恨み言を漏らしていたヘレンだったが、響いていた嗚咽は徐々に弱くなった。
そして気付いたときには、彼女はダグラスのベッドに突っ伏していた。
泣き疲れて眠るのはよくあるが、様子がおかしい。
「ヘレン……?」
ダグラスがヘレンの肩をゆすると、彼女の手がだらりと落ちた。
「ヘレン!?」
彼女は事切れていた。無造作に投げ出された手に填っている指輪の蓋が開いている。
「毒か……? 身に着けてたのか……」
ロックは複雑な表情で呟いた。
† † †
翌日にはセリスも回復し、疑いの晴れた彼女は吊り橋が治り次第、ロックと共に屋敷を後にした。
「ったく、災難だったな……」
町までの道のりをのんびり歩きながら、ロックは不満げにボヤく。
犯人と思われるヘレンが自殺してしまったため、多少わからないことが残っているがそれは謎のままだ。
「でも、私はロックが私のこと心から信じてるってわかったから、すっごい嬉しいこともあったわ」
セリスはふふっと笑みをもらす。
ロックは「それならいいけどな……」と呟いてから、足を止めてセリスを見た。
「俺はお前がどれほど将軍としての罪を後悔しているのか知っている。あの時、魔導研究所で信じてやれなかった。二度とそんなことはないよ。俺は二度とお前を疑ったりしない。お前が抱えきれない罪に苦しんでるから、それ以上何かに苦しむことがないよう、俺が守ると決めてるから……」
ロックの言葉に、セリスは胸が熱くなる。
「あなたがいるから生きていける……」
そう呟くと、セリスは涙を溢れさせた。ホッとして気が緩んだのだろう。
「あなたがいてくれるから、生きていたいって思える……」
「セリス……」
ロックは困ったような顔で、セリスを抱きしめた。
「辛くても、きっと、あなたがいれば大丈夫」
「ああ。ずっと傍にいるよ」
ロックは心をこめて囁いた。
「いつまでも、傍にいる……」
・ fin ・
■あとがき■
まずは、忙しいという勝手な都合で遅れてすみませんでした。完結まですごい時間が掛かってしまった……;;
とにかく完結しました。完結できてよかった~!
でも、謎解きなんてものがない……ので、ウィルさんの期待していたものとは違うかもしれません。精一杯書いたので、どうか許してください。あとラストのラブラブ度が足りないかな? ラブシーンはないですが、二人の愛の深さでいうと自分的には気に入ってます。いかがでしょう?
プロットを作って書いたものなのですが、プロットはかなりおおざっぱ。「これって矛盾しない?」とか「どうすればこんな展開にもってけるの?」なんてことが書いてあるプロットのため、足を引っ張っている部分も(笑) でも複雑なストーリーはプロット無しには書けませんね、やはり。
さて、次回の連載は切ない系です。久々なので、切なくできるかどうか不安。
キリリクお待ちの皆様、相変わらず更新遅いですが、のんびり待っていてくださいねw (06.05.04)
【この頁で使用させて頂いた素材サイト様】 ClipArt:SilverryMoonLight
ジーン・ジャスパー |
ベクタ近郊出身 18歳。亡き父から継いだ大きな屋敷に暮らしている。遺産を持っているせいか横柄で傲慢なところがある。遺産のために優しくしてくる叔母夫婦を嫌っている。去年亡くなった父親が、帝国兵の生き残りのために屋敷の部屋を貸し出していたせいでたくさんの人が暮らしている生活に嫌々している。 |
ヘレン・ホルゲイト |
アルブルグ出身 40歳。殺された前夫マックを今でも想っている。死んだ妹夫婦の屋敷に夫ダグラスと姪ジーンと共に暮らしている。 |
ダグラス・ホルゲイト |
ベクタ出身 48歳。ヘレンの現在の夫。マックの親友だった。マックを亡くしたヘレンに優しく言い寄って再婚にこぎつけたが世界崩壊後豹変。女好きで酒浸りの日々を送っていた。誰にでも言い寄るため女性からは嫌われている。 |
マック・ヨーランド |
ベクタ出身 ヘレンの死んだ夫。セリスの部隊の副隊長で、セリスが帝国を裏切って逃げた時責任をとらされてケフカに殺された。 |
ターナー |
ベクタ出身 58歳。帝国兵(レオの部隊で小隊長だった)の生き残り。冷酷な将軍だったセリスを嫌っていた。妻はケフカの粛正により殺された。 |
アニー |
ベクタ出身 21歳。ターナーの娘で館に暮らす唯一のメイド。 |
ウッド |
ベクタ出身 26歳。帝国兵(レオの部隊)の生き残り。ニヒルな男。孤独なジーンを気にかけている。 |
グリン |
ベクタ出身 31歳。帝国兵(ケフカの部隊)の生き残り。根明でおしゃべり。ケフカが嫌いだったが配属されて仕方なく従っていた。 |
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