秋の風物詩


季節はいつの間にか移り変わって
つい最近までTシャツで歩いていた人々が
段々セーターやコートで厚着をして歩いている季節になった。

この街を歩いている人たちも例外なく、
元々北の方にある街なだけに、朝晩の冷え込みは激しくて
今みたいに夕方近い時間になると、みんな白い息をして足早に通り過ぎてく。
私はそんな中ぼぉっと、空を見上げていた。
まだそんなに晩い時間じゃないのに、もう空は少し薄暗くなって
段々星の瞬きが強くなってきている。
星の瞬きが強くなるほど、寒さも増してきて
いつの間にかこの商店街で買物をしている人たちの数も
疎らになってきていた。

私はさっきから、商店街に買物に行ったロックを待っていた。
この街はケフカが倒されてから新しく建てられた街。
この世界が新しい一歩を踏み出すきっかけに建てられた街。
帰る場所がなかった私とロックが新しい人生を踏み出した街。
名前はホープシティ、希望の街。

一緒に買物に来たのはよかったんだけど、
ロックが「買い忘れたものがある」とか言って
商店街に戻って行っちゃったんだよね。
別に急いでいたわけでもないし、天気が悪いわけでもないからいいんだけど。
でも、流石にちょっと寒いかな。早く戻ってきて欲しい。
私が立っているのは街のシンボルの大きなモミの木の下。
そのモミの木では、来週の点灯式の為に飾りつけが行われている真っ最中。
そういえば、もうすぐクリスマスなんだよね。
そしたらすぐに大晦日が来て、今年も終わりか。早かったな・・・。
何て考えながらまたぼぉっと空を見上げる。
一度日が暮れ始めたら真っ暗になるのは早くて、
もうすっかり日が暮れていて、いつの間にか街灯が辺りを照らしていた。
ロックってば、いつまで待たせている気なんだろう。
首を180度動かして今度は下を向いて、深いため息をついた・・・と
突然、頭の上に何かがどさっと覆いかぶさった。
「きゃっ」
私が両手を頭に近づけて、頭を振って頭の上の物を振り落とそうとすると、
突然頭が軽くなって、同時に声がする。
「お待たせセリス、遅くなっちまって悪かったな」
顔をあげると、そこには満面の笑みを浮かべているロックがいた。
「もぅ、遅いじゃない。一体何を買っていたの?」
腰に手を当てて上目遣い、ちょっと起こった様な仕草をしてみたけど
そんなんで動じるロックじゃないことは、わかってる。
「あはは、ゴメンな。折角今日は天気がいいみたいだし、やりたいことがあってさ」
「やりたいこと・・・?」
「ほら、これなーんだ?」
ロックが差し出した袋は、野菜屋さんの袋だった。
茶色い紙袋に、籠に入った野菜が描かれている可愛い袋なのでよく覚えている。
差し出されたその袋の中を覗きこんでみると、
紫色の細長いものがいくつか入っていた。
「・・・さつまいも?」
「大当たり」とロックはさつまいもを取り出し、空高く放り投げて、
クルクルと回転させながらキャッチしてみせた。
「ほら、セリス前にやきいもがしてみたい、って言ってたろ?」
「あ・・・」

そう、それは数日前のこと。
たまたま雑誌に『秋の風物詩』と言うタイトルの特集が組まれていて、
その中に、落ち葉を集めて火をつけて、そこにさつまいもを入れて焼く
やきいも、と呼ばれるものを発見したのだ。
やきいも売りの人がよく家の前を通って行くが、もうできたやきいもを売っているだけだし、
自宅で作るにも、オーブンで作っていたので、
薪で作るやきいもに凄く興味を引かれていたのだ。

「ほら、丁度落ち葉もたくさんある時期だし、
 今日位しか天気がいい日はないらしいからさ。どうしても今日やりたかったんだ」
ロックは少年のように目を輝かせている。
「ロック、わざわざさつまいもを買いに戻っていたの?」
驚きと、感動が入り混じって上手く言葉にならない。
「あぁ。早く帰って準備しようぜ」
そう言って差し出された手を取って、私たちは足早に自宅へと向っていった。

私たちの自宅は商店街から徒歩5分。
二人暮しにしては少し大きい、二階建ての家。
ケフカ討伐の旅をしていた時の余りのお金と、
エドガーの計らいで立派な家を建ててもらった。
本当は自分たちの力で建てたかったんだけど、
お互い家族も職もなくて経済的に厳しかったので断念した。
快く援助を申し出てくれたエドガーに感謝。
今ではロックはトレジャーハンティングをしていた時の手先の器用さをいかして、
工場で細かい部品を組み立てる仕事を、
私は近くの園芸屋さんで花売りの仕事をしている。
毎日とても忙しいけど、とても充実した生活を送っている。

「セリス、ほうき持って来てくれ」
ロックが軍手をはめてほうきで落ち葉を集めている間に、
私はアルミホイルでさつまいもを一つずつ丁寧に巻いた。
アルミホイルで巻くのは、さつまいもが焦げ付かないようにする為みたい。
全てのさつまいもにアルミホイルを巻き終わった私は、
それを持ってロックの待つ裏庭に出て行った。
「お、ナイスタイミング。ほら、丁度落ち葉が集め終わったところだ」
てんこ盛りの落ち葉を指差して、ロックが誇らしげに笑う。
ロックはほうきを片付けると、集めた落ち葉に日をつけた。
「・・・温かいね」
まだ火は小さいけど、冷え切った外の温度で冷たくなった体には
その微かな火の温度も暖かく感じた。
「そうだな・・・」
ロックも火を見つめながら、つぶやいた。
しばらくして、火が大きくなったのでさつまいもを放り込んだ。
「しばらくして火から取り出して、竹串をさしてみて、
 柔らかくなったらできあがり。お好みでバターを塗っても美味しいぞ」
「え、バターを塗るの?」
私は今まで、やきいもには何も塗らずに食べていたから、
バターを塗ると美味しい、と言うロックの意見にびっくりした。
「あぁ。甘いさつまいもにほんのり香るバターの香りがいいんだよ」
「へぇ。あ、じゃぁ、バター持ってくるわね」
私が小走りでバターを取りに行く姿を、ロックは微笑ましそうに見つめていた。

待つこと数十分。
「よし、そろそろいいかな」
さつまいもを取り出して竹串をさしていたロックが嬉しそうに言った。
「ほら、セリス。熱いから気をつけろよ」
そう言って私にやきいもを投げてよこした。
「大丈夫、軍手してるしっ」
何て余裕かましていたら、軍手の上からでもわかるくらい、
熱い蒸気がアルミホイルを取ったやきいもからでてきて・・・
「あつっ」
やきいもを取り落としそうになってしまった。
「だから熱いって言ったろ」
ロックが苦笑しながら言った。
気を取り直してアルミホイルを慎重に全部外して、
やきいもを二つに折った。
美味しそうに黄色く色づいた中身が顔をだす。
最初は何もつけず、一口かじる。
じんわり甘い味が口の中に広がって、思わず笑みが浮かぶ。
「美味しい~。幸せっ」
そんなセリスの様子を見てから、ロックもやきいもを頬張る。
「ん~。やっぱ秋と言ったらやきいもだよなぁ。たまんねぇっ」
そしてバターをたっぷりつけて再びかじりつく。
セリスもマネをして、バターをつけてかじってみた。
甘いやきいもに、バターの塩味が混ざり、なんとも言えない絶妙な味がする。
「な、美味しいだろ?」
「うんっ」

やがて焚き火が消えかかった頃、やきいもも全部食べ終えて、
ロックとセリスは2人、空を見上げていた。
「空が綺麗だね・・・」
「あぁ・・・」
「ねぇ、ロック」
「ん?」
「また・・・やきいもやろうね?」
ちょっと恥ずかしそうに言ったセリスが可愛くて、ロックはセリスを抱き寄せた。
「あぁ。やきいも食べてるセリス可愛かったしな。毎日やったっていいくらいだ」
そのセリフに、セリスは頬を朱に染めた。
「セリス・・・」
呼ばれて顔をロックの方に向けたセリスの唇に、
ロックは自分のそれを重ねた。
唇が離れる間際に、ロックはセリスの唇を舐めた。
「・・・やきいもの味がする」
「バカ・・・」

それから天気のいい夜、セリスとロックはやきいもを作ったとか、作らなかったとか。
真実は満点の星空のみぞ知る。

 

・ fin ・

 

■あとがき■

お持ち帰り専用小説第一弾となります。ロクセリ小説。
つっても、ラブラブなのは最後の数行だけでしたが;;
久しぶりに小説書いたので、あまり変な文章にならないようにするのがいっぱいいっぱい
内容が薄いってのは思っても言わないってことで(殴。
お持ち帰り後は、自由にいじってやってください。
特にレイアウトは、私は苦手なんで、皆様のお好きなように、美しくしてやってください。
11.11.2005 風峰夏代

■お礼の言葉■

サイト閉鎖は残念でしたが、こんな素敵な持ち帰りフリーが頂けるなんて……本当に嬉しいです。
ほんのりラブラブなところが、なんだか照れてしまうぐらい甘くて、こんなほんわかした小説が書けるなんて本当に夏代さんはすごいです。
新しくできた希望の町っていうのもいい (≧∇≦)b 秋の小道を歩く二人の姿を想像して、幸せな気持ちになれました。
第一弾とうことで、5本アップの予定と聞きました。素敵なお話を期待しています^^ (08.08.29)

 

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