§螺旋の欠片§
サウスフィガロへ向かう船の中、甲板から静かな海を眺めながらセリスは何気なく尋ねた。
「ねえ、ロックのお母さんって、どんな人だったの?」
凪に入ってしまい船の速度は落ちている。この客船も他の軍艦のように風がなくても動くがやはりパワーが違うのだ。
「ん~、俺が小さい頃に死んじまったから、あまり覚えてねーんだけどさ。元気な人だったな。明るく笑ってて前向きって感じだ」
「覚えてないっていう割に、覚えてるじゃない」
首を傾げるセリスに、ロックは鞄の中から数枚の写真を取り出した。
それを受けとったセリスは楽しそうに眺める。ロックにそっくりの男の人はバンダナを巻いた黒みがかったブロンドの髪と優しい茶の瞳をしている。隣で幸せそうに笑う女の人は黒髪に紺の瞳だ。両親なのだろう。男の人に抱かれた小さい男の子が微笑んでいた。ロックは髪の色を父親から、瞳の色を母親から受け継いだらしい。顔の輪郭は母親似、口元が父親似だ。
「素敵な両親ね」
「ああ。母さんのこと覚えてないって言ったけどさ、俺が7歳になる前だったかな、会ったことがあるんだよ」
「会ったことがある?」
不思議な言い回しに、セリスは頭を捻った。ロックの母親が死んだというのはいつなのだろう?
「母さんが死んだのは俺が3つの時なんだ。でも、その俺が7歳のある日、ばーちゃんのために薬草を採りに森に入ったんだ。そこで俺は……」
† † †
「ばーちゃん、大丈夫?」
ロックは、床に伏せる祖母に一生懸命声を掛けた。
祖母は夕べから風邪をこじらせて寝込んでいる。母は既に亡く、トレジャーハンティングに勤しむ父親もほとんど不在のロックにとっては、祖母は自分を慈しんでくれる大事な人だ。
「ああ。大丈夫だよ」
祖母は優しい声でロックの頭を撫でてくれるが、すぐに咳き込んでしまう。
「ばあちゃん、ゆっくり寝て早く治してね」
力強いロックの言葉に、祖母は小さく頷いて目を閉じた。
祖母が静かな寝息をたて始めたことを確認したロックは、親しい隣家のおばさんに様子を見ることを頼んで、森へ出掛けた。
おばさんはしきりに「一人で大丈夫?」と心配していたが、ロックは胸を張って「俺の父さんはトレジャーハンターなんだよ? 俺だって一人で平気だよ!」一人前の口をきいたのだった。
祖母は薬草に詳しく、よくロックも一緒に連れて行ってもらった。子供だからそれほど詳しいわけではないが、一般的に有名な咳止めや熱冷ましの薬草ぐらいは知っている。
去年の誕生日に父親にもらった短剣を持ち──バンダナは普段から巻いている──意気揚々と森へ踏み込んだロックだが、薬草の採取できる近くまで来た時、突然、雷が鳴って大雨が降り始めた。
葉が生い茂る森の中は通常なら雨に濡れにくいが、その日は大粒の勢いある雨で凌げる場所はなかった。
「やっべぇな……」
書き置きは残してきたが祖母が目覚めたらひどく心配するに違いない。
既にびしょ濡れになった身体でどこか濡れない場所を探していると、小さな木の洞があった。大人には入れないほどに狭く、チビの部類に入るロック一人がやっとの大きさだ。
「丁度いいや」
ロックはそこに入って雨が止むのを待つことにした。夕立に似たようなものだろう、きっとすぐに止むと思って。
いつの間にか眠ってしまったのだろうか。気付くと雨は止んでいた。
「くしゅっ」
小さなくしゃみをして、洞から出た。そして呆然する。
雨が止んでいたどころか、そこは森の中ではなかった。出てきたはずの洞を振り返ったが、存在しない。石の壁があるだけだ。
「って……これ、夢?」
ロックは状況を理解できずに呟いた。
そこは朽ちかけた石造りの建物の入り口だった。その周囲を取り巻くのは一面の砂。砂漠だ。黄金の海原というものでなく、所々に荒削りの大きな岩がごろごろ転がっている荒砂。コーリンゲン砂漠も北の方がそんな感じだと聞いている。
「……俺、森に薬草とりに行ったんだよね?」
自分自身に確認してみても、他に答えがない。頬をつねってみたが痛い……てことは、現実!?
「ここって……父さんが行くみたいな遺跡かなぁ?」
大きな石が積み上げてある建物は入り口が塞がっている。ちょっと冒険してみたいという気持ちが浮かび上がったが、それより祖母だ。
「ど、どうしよう? ここって、コーリンゲン砂漠でいいのかな? ここから砂漠に出るにはどっちに行けばいいんだろう? 俺の思ってる場所でいいなら南側に抜けるのが砂漠を出るにはいいんだろうけど、俺の足で水もなしに砂漠を越えられるかな? かといってここにいても干涸らびちゃうし……。でも南に出たところで、村に戻るのは……何日もかかるよな」
小さなロックは途方に暮れた。やんちゃ坊主のロックだけれど、無謀なことをするつもりはない。
「ここにいるよりは歩いてみるべきかも……」
考えた挙げ句、南に向かってみることにした。太陽の向きからすると、建物の背後が南になるんだろう。影になっていた場所から出ると砂漠の太陽は眩しい。
この中で水も飲まずどれぐらい歩けるだろう? 想像して挫けそうになったが、諦めたらそこで終わりだ───父親がいつもそう言っている。幼いながらに自分を叱咤して体力を消耗しないようゆっくり歩き始めた。
すると、すぐに遠く向こうに人影が見えた。チョコボに乗っているようだ。蜃気楼では……ない?
だがいい人だとは限らない。警戒しながら、ロックはその誰かに向かって歩くことにした。武器になるようなものは父親からもらったダガーだけだ。大人相手に自分が立ち回れるとは思っていないが、ないよりはいい。
チョコボに乗った人物も、ロックに気付いたのかまっすぐこちらに向かってくる。外套を纏いフードを被っているため、どんな人物かはまったくわからない。少し小柄だという気はしていたが目の前まで来てロックは言葉を失った。
「どうしたの? こんなところで」
フードを取ってチョコボから降りたのは、20歳前後の女性だったのだ。だが、驚愕の理由は───耳の下で切りそろえたさらりとしたショートボブは漆黒で、小さな顔の中の大きな瞳は紺色。写真でしか知らない自分の母親にそっくりだった。
「母さん……?」
ロックは震える声で女性を見上げた。小柄といえど6歳のロックよりは遥かに大きい。
一方、突然「母さん」などと言われた女性は目を丸くして、
「え? えーと……こんなところで迷子なんてわけないよね。私はこんな大きな子供なんかいるような年じゃないぞ。まだ19歳で結婚もしてないんだから」
腰に手を当ててロックの顔を覗き込んだ。しかし見ればみるほどそっくりだ。ロックは不覚にも涙ぐみそうになる。
「俺は……」
言いかけたロックを制し、外套を脱ぐと、
「とりあえずこれ着て、乗って」
ロックに外套を被せる。母親に似た人の好意をロックは有り難く受けとることにした。再びチョコボにまたがった女性はロックを引き揚げてくる。
「えーと、私はあの遺跡に行こうとしてたんだ。とりあえず、あそこは影になるし、ここで事情を聞くよりはいいでしょ」
女性は明るく言った。こんな得体の知れない子供を拾ったというのに、随分くったくない人だと思った。
先程ロックが気付いた建物──800年前の遺跡らしい──までくると、女性は改めて名乗った。
「私はニナ・ブランシュ。遺跡の調査とかを仕事にしてるの」
快活に自己紹介するニナを、ロックはまじまじと見つめた。そう。母親の旧姓もニナ・ブランシュだったのだ。そして父親と共にトレジャーハンターをしていた。
偶然?
必然?
ロックの母親は既に亡くなっているし、会えるはずがない。それに亡くなった時、母は26歳だったはずだ。もし生きているなら、今は29歳になっている。
「俺はロック・コール。コーリンゲンの村に住んでて、風邪ひいたばーちゃんのために薬草をとろうと森に入ったんだ。そこで雨が降ってきたから木の洞で雨宿りしようとしたら寝ちゃって……気付いたらここにいた。嘘じゃないよ。本当なんだ」
必死に説明するロックに、ニナは首を傾げた。
「コーリンゲンのコール? ……ロルフの親戚?」
「!! それ、俺の父さんだよ!」
顔を輝かせて言ったロックに対し、ニナは眉根を寄せる。
「ロルフの子供ぉ!? ……ってことは、隠し子?」
胡乱そうにロックを見るニナに、ロックは表情を暗くする。
「俺の父さんはロルフ・コール。母さんは旧姓ニナ・ブランシュ。本当なんだ……。ただ……」
「ただ?」
訝しげな表情をしながらもニナは先を促した。嘘を言っているようには見えなかったから。
「母さんは俺が小さい頃死んじゃった……」
「……信じがたいけど、坊や……ロックにとっては、それが本当なのね?」
ロックは涙を堪えて頷く。このニナは母親とは別人かもしれないけれど、でも切なかった。
「確かに坊やはロルフに似てるかも。髪の色にバンダナなんとか特に。しっかし、どうなってるのかしら。イアモルドの小説にあるみたいな平行世界の移動? ……まさか、時を飛んだってことはないわよね。ロックは、何年生まれ? 今日は何年?」
石の床に座り込んだニナの問いにロックは首を傾げながらも、
「星歴975年生まれだよ。今は981年」
自分も腰を下ろし素直に答えた。
「…………うーん……。うーん……。あのね、今は968年なの。本当に時を飛んだのかしら? だけど……私とロルフが結婚っていうのは、ちょっと……信じがたいわ」
「時を飛んだ? 俺が?」
お伽噺では聞いたことがある。だけどあれは想像の話でしかないはず───。
「そういう可能性もゼロじゃないってことね。それどころかついでに世界すら違うかも。それって、私の現実逃避なのかしら」
「えと、ニナさん、は、俺の言うこと信じてくれるの?」
「うーん、そうね。信じがたいけど、こういうことやってると、色々不思議な体験したりするのよ。だから、鵜呑みにはできないけど、嘘だとも思ってないわ」
曖昧な笑みを浮かべたニナは肩をすくめた。
「それにしても、違う世界かもしれないとは言っても、私とロルフがねぇ……。あいつってば、そんな素振りも見せないけど……」
「母さ……ニナさんは、父さん……えと、ロルフさんが好きじゃないの?」
ロックの純粋で素朴な疑問に、ニナは顔を真っ赤にして慌てた。
「わ、私が? いや、別に、嫌いってんじゃないのよ。だけど、なんていうか……そう、よき仲間ね。そうよ。あんなイマイチはっきりしない男、仲間以外の何者でもないわ」
自己完結しているニナを、ロックは不思議そうに見つめる。もしニナの言うとおりこれがタイムトラベルであり、平行世界でないとしたら、自分が過去に来たことで未来が変わってしまいやしないだろうか───ロルフとニナが結婚しなくなり、ロックが生まれないことになったり……。第一、先程、ニナが早くに死ぬことを言ってしまった。彼女が平行世界だと思って気にしなければいいけれど……。
ロックの中で様々な不安が渦巻く。知られてしまったことは取り返しがつかない。第一、帰れるのかどうかすら怪しい。
「ところで、俺、どうすればいいのかな」
しょぼんとしているロックの頭を、ニナはわしゃわしゃと撫でた。
「大丈夫。帰れなかったとしても、私が育ててあげるから」
優しい手に、ロックは不覚にも涙が込み上げるのを堪えられなかった。
「でも、ばーちゃんが……。父さんはトレジャーハントで余り帰ってこないし、俺がいないと……」
必死に涙を我慢するロックに、ニナは考え込んでしまう。 とりあえず彼が帰るべき場所に帰してあげたいと思う。しかし、どうすればいいのだろう?
「仕方ない。ロルフに頼るか。今日の遺跡調査はやめやめ」
肩をすくめて立ち上がったニナを、ロックは慌てて見上げる。
「ロルフさんに頼るの?」
「うん。いいでしょう? 父親かもしれないんだし。あ、ところでいくつの時の子供?」
「え? 母さんは23で俺を産んだんだって。って、それより、もし俺が本当に時を越えたんだとしたらさ、余りこの時代の人に関わるのってよくないんじゃないの? エリオット・イアモルドの小説は、ばーちゃんが好きで、よく俺にわかりやすい言葉にして聞かせてくれたけど、それでも書いてなかった?」
「あー、うん。そうだねぇ。有り得ないことだとしても、可能性がゼロじゃないから危険かなぁ。でも、一刻も早く帰りたいでしょ?」
「うん、でも……」
ロックが迷っていると、タッタッタッ……軽快な足音が聞こえた。チョコボだ。こんなところにまた人が来たのだろうか?
ニナと顔を見合わせて二人は音のした方を見る。薄汚い外套を被った男のようだ。
「……ロル、フ……?」
ニナは眉根を寄せて呟く。ロックはギョッとしてニナを見た。彼女は小さく首を傾げ、
「……うーん、どうして奴がここにいるのかしら?」
肩をすくめた。
チョコボに乗って現れた新たな人物は、ニナの言う通りロルフだった。
「どうしたんだこの子?」
ニナと一緒にいたロックを見て、ロルフは変な顔をした。当然だろう。こんなところに子供がいたらおかしい。
「話せば長いんだけど、それよりあんたは、なんでこんなところにいんのよ」
微妙な表情のニナが問う。嬉しそうだがそれを我慢しているように見えた。
「だってお前さ、ここは危険度が高いから一人で行くなってっつったのに、一人で行っちまうんだもんなぁ。慌てて追いかけてきたよ」
ロルフは呆れ顔だ。父親の若い頃を見て、ロックは「あんまり変わってないなぁ」なんて思う。
「そ、そんなの、私は一人だって平気よ」
怒鳴るように言ったニナだが頬が赤い。かなり素直じゃない性格のようだ。
「一人で大丈夫だとしても俺は心配だったの。で、この子は? っていうか、俺に似てねぇ?」
まじまじとロルフに見つめられ、ロックは恥ずかしくなって俯いた。
「あんたの子、らしいわよ?」
ニナは悪戯っぽい瞳でニヤニヤとロルフを見た。ロルフは怪訝そうに首を傾げる。
「俺の子? 一体、俺がいくつん時の子だよ」
「あれ? ロルフがいくつの時の子だっけ?」
ニナに尋ねられ、ロックは言いにくそうに小声で呟いた。
「25……のはず」
「はぁ? あのなぁ、俺は21だぜ? 頼むよ、坊主」
ロルフにがしがしと頭をかき回され、ロックは思わず泣きそうになる。いつも父親がしてくれる仕草と同じ。
「いい? よーく聞きなさい。本人曰く、この子が生まれたのは975年なの!」
「……は?」
ぽかーんと間抜けな顔をしたロルフに、ニナは先程ロックと話したことを詳しく聞かせる。胡乱そうな表情をしていたロルフだが、次第にそれはニヤけた笑顔に変わった。
詳しく説明したと言っても、ニナは一つだけ言わなかったことがある。ロックの母親が若くして死んだこと───真実であるならそれは本来知るべきことではない。
「そうか! ニナと俺の子が! 偉いぞ坊主!」
意味不明なことを言って、再びロックの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。めちゃくちゃになってしまった頭からバンダナを取って、ロックは二人を見上げた。
「俺、どうすればいいの?」
「どうすればいいっつったってなぁ……」
「うわ、頼りなっ」
ニナは心底嫌そうな顔をする。ロルフは頭を掻きながら、
「つーか、お前は俺に厳しすぎねーか?」
横目でニナを見る。ニナは憮然として、
「あんたが情けないからでしょ」
きっぱり冷たく言った。なんだかんだ言って似合いだとロックは思うが、そんなことを悠長に思っている場合ではない。
「とりあえず、この遺跡を頼るっつー選択肢もあるが、子供連れは危険だからなぁ」
ボヤいたロルフを、ロックは不思議そうに見上げた。遺跡を頼る? ってなんだろう。
「この遺跡は時を越える力を持つ神が祀られてたって話だろ? だからこそ、この子……」
「ロック」
「ロックも、ここに連れて来られたのかもしれないし」
「連れてこられたって誰によ」
ニナに突っ込まれて、ロルフは閉口する。
「誰にだっていいだろ。そんなのわかるはずないんだからさ」
「俺、帰れるなら一緒に挑戦する」
話の進まない二人に、ロックはしっかりとした言葉で告げた。
「そりゃ、トレジャーハンティングも1回しか連れてってもらったことないけど、俺だってトレジャーハンターの卵だもん」
力強く言うと、ニナは目を輝かせて、
「んもぅ。可愛い~!」
ぎゅうぎゅうロックを抱きしめた。
「うわっ」
驚いたロックはどうしていいかわからず、なすがままになっている。
「……危険だとは思うが、他に方法もない、か……。仕方ねぇ。俺達の言うこと、よく聞くんだぞ」
「はい!」
かくしてロックは、大人でも危険なほどの遺跡に挑むことになったのであった。
■あとがき■
ロック誕生日フリー創作です。去年、「来年はSecondTryかな」なんて言ったけど、そうなりました。
ロックの母親がどんな人だったか。想像するのは難しいけど、私の中のイメージはこうです。
お持ち帰り自由なので、よかったら こちら を読んで去年の『First Try』と一緒に持ち帰ってご自分のHPにアップしてくださいw うちのフリーに期限はありません^^
っていうか、1話が長い。しかしフリーは1話完結にしたいので、分けませんでした。実はいつものように書き途中でアトガキも書いているんですが……このままだと「冒険」ってほどのものはせずに終わりそうかも。「時を飛んだ」ことが「冒険」と言える気もするけど……もっと、母親と冒険させるつもりで書こうと思ったのに……。すっげぇ、長くなる? なんか冗談抜きに前置きだけですっごい長くなって、本文(冒険部分)まで書くとどれぐらい長くなるんだ? って状態です(現在、書き途中)。どうしよう……。既にフリー用短編っつー長さではない;; 前後編にするしかないのか……( ̄
 ̄;) うーん やっぱり前後編にしよう! FQサイト様で持ち帰りフリーなのに連載モノあるサイト様も見かけたことあるしw 許されるよね?(誰に言ってるんだ)
今回、壁紙のみでクリップアート使ってないんですが、どっちも使用っていうとイメージに合うものがなかったの;; クリップアートも「お~、これよくない?」っていうのがあったんですが、この壁紙には合わない……。難しいことです。ただ、クリップアートのみの壁紙ナシは寂しいかなぁということで、壁紙のみになりました。
しかし書いていて思ったのは、6歳の子供は「どれぐらい頭が回るのか?」ということです。ロックは幼い頃から頭がよかった、という贔屓目で見てください、はい^^; TVとかで見てると、子供でもすっごい頭が回って生意気な子っているしw
よく小説家の方が「もったいなくても余分なエピソードは削った」とか言います。難しいですよね。今回の話は会話の内容が堂々巡りで話が進んでない(今回だけじゃなくて、私の話はそういうの多いです)。それがもっとコンパクトになって、状況描写や風景描写を丁寧に書けるといいんでしょうね。満足できるような話を書ける日はいつなのか…… (04.11.24)
「じゃ、入るか」
ロルフは二人に向かってウインクを寄越した。ニナは知っているのかもしれないが、ロックは取っ手すらない分厚そうな石の扉をどうやって開けるのかわからなかった。
懐から小さな鏡を取り出したロルフは、石造りの遺跡の影から出て眩しそうに太陽を見上げると、鏡で太陽を反射させた。
キラリ
思わず眩しくて目を細める。光は観音開きの扉の境目にある丸い文様に当たった。すると、荘厳な音を立てて扉が開いていく。
「かぁっこいい~」
思わず呟いたロックに、ロルフはにやりとする。
こういう得意げな表情は父親そのままで、ロックはドキリとした。
「だろ? だからやめられない」
ニナはそれを聞いて小さな笑みをもらした。「確かに」聞こえないほどの声で同意する。
遺跡に足を踏み入れると、まず長い通路が延びていた。
どういう仕組みなのか、手前から順に灯りが点いていくと、石造りの無骨な通路は奥にムカって緩やかに傾斜しているのがわかる。灯りはぼうっと白い光を発していて、炎ではない。
「さすが手つかずの遺跡。綺麗ねぇ」
ニナが子供のように目を輝かせて呟いた。
ロックはニナの服の端を掴み、キョロキョロと好奇心を剥き出しにする。
三人がゆっくり歩き出すと、背後で石の扉が重たい音を立ててゆっくりと閉じていく。ロックは驚いて振り返ったが、ニナとロルフは見向きもしない。
「扉、平気なの?」
不安に思って尋ねると、
「多分な。帰る時にゃ、開くだろ。なんとかなるさ」
ロルフはニカッと笑う。そんなにおおざっぱでいい加減でいいのだろうか? ロックの疑問に気付いたわけではないだろうが、ニナがロルフを小突いた。
「適当なこと言って……。いざとなったらまた吹き飛ばす気でしょ?」
また? ってなんだろう。ロックは子供ながらに呆れてしまう。
入り口から伸びる通路が終わると、広いホールに出た。異様に天井が低いのは地下だからなのか……。ロルフが飛び跳ねたら頭をぶつけてしまうだろう。外壁から入り口通路は荒削りの石面だったが、ホールの内壁はよく磨かれた鈍い黒光りした石だ。見たこともない幾何学模様が彫り込まれていて、規則性のない文様は呪いのようでもある。
ロルフとニナは暫く周囲を眺めていたが、
「ここには仕掛けはなさそうだな」
「そうね」
確認しあって歩き出す。ロックは二人の後にくっついて歩きながら首を傾げた。
「ねえ、どうして触りもせずに見ただけでわかるの?」
「長年のカン、かな?」
ロルフがニヤリと笑うと、再びニナに小突かれる──今度は小突かれたというよりは、叩かれていた。
「まーた適当なこと言って。床も壁も天井も、全く隙間無く綺麗でしょ? それに複雑に石が組み合わされてる。だから、かな」
ニナは優しく教えてくれる。多分それ以外にも細かく注意するべき点はあるのだろうが、ロックにわかりやすいものをあげてくれたのだろう。
「そか」
ロックはわかったとばかりに頷いた。
冒険とは、もっと突っ走ればいいのかとばかり思っていた。どうやらそうではないらしい。
ホールを抜けると短い通路があり、その先は螺旋階段だった。
「遺跡に螺旋階段って珍しいわね」
ニナが呟く。ロックにとっては、螺旋階段自体が初めて目にするものだ。
「螺旋階段は場所をとらないためのものだからな。地下だから掘る範囲を省くためか……。しっかし、本当に罠とか何もねーな。仕掛けを作る価値あるものはこの辺にはないってことなのか……? 伝説じゃかなり奥まである遺跡だっつー話だけどなぁ」
「罠自体が存在しないのかもしれないわね。財宝を守るために罠を置く遺跡も多いけど、そういった目的じゃなかったってことかしら」
階段は随分と長かった。どれくら深く潜ったのかはわからないが、平屋三件分はあるだろう。
目が回りそうな階段が終わると、やたら広い場所に出た。コーリンゲンの村がすっぽり入るかという程に広く、天井もものすごく高い。所々に柱が立っていて、真ん中の柱にだけぽっかりあいた入り口があった。
「さーて、どこから見るかね」
遊びに行く子供のようにワクワクしながら言うロルフに、ロックはとても親しみと覚える。本当の──元の時代にいる──ロックの父親であるロルフはいつも落ち着いている大人に見えるから。
「二手で見ましょう。私とロックは壁沿いにある部屋を見るから、ロルフは柱を見て」
てきぱきと指示するニナに、ロルフは肩をすくめ「はいはい」と返事をして柱の方に行ってしまった。
ニナはロックの手をとると、
「離れないでね」
そう言って、一番手近な入り口へ向かう。ニナの手はひんやりしていたがとても柔らかくて、ごつごつした父親の手と骨を皮だらけの祖母の手しか知らないロックはとてもびっくりする。
扉もない入り口から、ニナは手鏡で部屋の中を覗く。薄暗いため奥までは見えないだろうが、
「変な気配はしないし、大丈夫かな」
呟くと、ニナはロックの手を離して部屋に踏み込んだ。 柔らかく優しい手が離れてしまったことを残念に感じたロックだが、同時にちょと恥ずかしくなる。男は甘えちゃいけないという気持ちが、小さいなりにあるからだ。
カンテラを点けて部屋の中を照らすと、壁際にはびっしりと本らしきものが詰まっていた。石をくり貫いた作り付けの棚のため、地震等で倒れることもなかったんだろう。
ニナは何気なくその中の1冊を手にとろうとした。羊皮紙の本は分厚い。丈夫そうな糸でとめてあり、引き抜くのも大変そうなほどに詰め込んであるから散乱したりもしなかったようだ。その簡単には抜けない本を、ニナは無理矢理とる。
「ファリア王朝のリアン文字かな……? うーん、でも、トゥーベデルタ文化の方が近い気も……」
ぶつぶつと呟くニナの言っている言葉の意味が、ロックにはさっぱりわからない。元の時代に帰って父親に聞いて知ったことだが、ニナはトレジャーハンターというよりは考古学者を目指していたということだ。
「とりあえず、すぐに読めないことに変わりはない、か」
何冊かをパラパラとめくっていたニナは、その中の1冊を鞄に入れた。
「もらうの?」
ロックの問いに、ニナは苦笑いを浮かべる。子供に聞かれると、盗みを咎められているような気がしたからだ。
「本当は全部持って帰りたいぐらいだけどね。スポンサーなくしちゃって、調査に人手が足りないんだ。とりあえず、これから何があるかわからないし、1冊で我慢かな」
「ふうん?」
よくわかっていなかったロックだが、とりあえずわかったように頷いた。
最初に見た壁側の部屋は全てが本を所蔵してあった。
「これだけの量の文献って思ったけど、もしかしてこれ、全て同じ内容じゃない?」
ニナは首を傾げて、先程鞄に入れた1冊と別の部屋で手にした1冊を見比べる。
「やっぱりそうだ。筆記体で書いている人が多いし、筆跡にかなりばらつきがあるから全然違う文章に見えたけど……祈りの写本とかかしら?」
しかしいくら不思議に思ったところで中身は読むことが出来ない。解読は帰ってからだろう。
向かいの壁際の部屋を見る頃には、柱を確認し終わったロルフも一緒になった。
こちらは本ではなくそっくりの形をした壺がしまわれていた。本のようにぴっちり詰まって置かれているわけではないため、結構な数が床に落ちて割れた壺が散乱してしまっている。零れている中身は最初、砂かと思ったがどうやら灰のようだ。
「骨壺……か……」
ロルフが難しい顔で呟く。遺跡が墓である場合は少なくないが、これだけの人数分のものが納められているというのは稀だ。
「生きているうちにこれを書いて、死ぬ時に共に捧げる……こんなところかしら? まあ、あの本棚の詰め込み具合は『捧げた』ようには見えないけど、今の私達の価値観じゃ計り知れないものね」
ニナが先程の羊皮紙の本をパラパラ振りながら肩をすくめた。
「ここに奉られてんのが本当に神なら、死んで神の元へってか」
ロルフは頭をかいてあっけらかんと言う。
「隠し扉二つはどっちも罠だった。あやうくギロチンってとこだったよ」
「よく調べなさいよ!」
呆れ顔でニナが噛みついた。
「大体いっつもあんたってそう! 『大丈夫だろ』みたいな安易な気持ちでさ! 運がいいだけで、下手すると死んでるんだからね!!!」
ニナに詰め寄られたロルフはたじたじだ。苦笑いでロックを見ると、
「おっかねぇよな」
ボソリと小声で呟いた。かなり小さな声だったのだが、しっかり聞きつけたニナは、
「だーれーが、恐いって?」
仁王のような表情でロルフを睨んだ。
ロルフとロックは目をぱちくりとさせ顔を見合わせると、
「あ、は、は……」
空笑いをする。
父さんてば尻に敷かれてたんだな、と思ったけど、これ以上ニナを怒らせたくなかったので、ロックは心のなかでこっそり思うに留めた。
「で?」
気まずくなった雰囲気を打開するようにニナが促した。ロルフは取り繕うように頷き、
「あ、ああ。罠は全部解除したし、ここにはこれ以上なさそうだ。右の隠し階段は、途中から崩れてて嫌な臭いがするから行く価値はないだろうな。左はわからん。どうする?」
ニナに指示を仰いだ。元々、彼女がここに来ようとしていたから彼女を立ててるのか、ただ頼りないだけなのか……ロックとしては前者であってほしい。
「う~ん、今日はロックもいるし、左は見て来てよ。私達はここで休んでるから」
有無を言わさぬ迫力でにっこり微笑んだニナに、ロルフは肩をすくめた。
「じゃ、ちょっくら行ってくるよ」
軽い口調で言うと、これまた軽い足取りで歩き出したロルフは、今し方見てくると言ったはずの目標である左の柱には見向きもせずに、最初に降りてきた螺旋階段の方へ向かう。
建物の壁は石が組み合わされており、その中で螺旋階段裏にある石の一つを両手で「ふんっ」と力を込めて押した。
ガコンッ
軽い地響きを伴って、柱にぽっかりと穴が空く。扉部分が下に吸いこまれたような見えたが、重そうな石がどうやってずれたのかはロックにはさっぱりわからない。
「見た目ではまったくわからない綺麗な隠し扉よね」
ニナが感心して呟き、ロックはそれに同意する。
「ほいじゃ、見てきますか」
ニカっと笑って見せたロルフは、入り口に頭を突っ込む。ギロチンとか言う罠は外してあるのだろう。あのままロルフの首が落とされて転がってきたりしたら、発狂モノだ───本当に両親なのだとしたらこんなところで死んでいるはずがないが。
しばらく覗き込んだままの姿でごそごそやっていたロルフは、かがみ込んで足を踏み入れた。両手が使えるようカンテラを荷に下げたロルフの姿が、ゆっくりと見えなくなっていく。
丸い空洞の中は梯子が付いているようだ。ロルフが梯子を降りる音が聞こえなくなると、ニナが柱を見つめたまま口を開いた。
「ねえ、ロック」
「ん?」
ロックがどうしたのかとニナを見ると、ニナは暗い表情で目線を下げていた。
「ロックのお母さんは、死んだ時幸せだったかな?」
小さく笑みを浮かべたニナは勝ち気な今までとはまったく違ってひどく儚げで、ロックはぎゅうと胸が痛む。
ニナが未来においてロックの母かもしれず、だとしたら若くして死ぬかも知れないなど……言うべきではなかった。だが考え及ばなかったのだ。ロックが幼い故でなく、過去に来ているなどと思いつくはずもなくて。
それが可能性の話だとしても、気丈に振る舞っているニナにも笑い飛ばせる話ではない。
「う、ん……。俺はあんまり覚えてないけど、いつも笑ってくれたよ。父さんは母さんの話とか余りしないんだ。ばーちゃんは、好きすぎていつまでもひきずってるんだって言ってた。父さん、母さんが死んだ時ずっと母さんに向かって『ありがとう』って呟いて泣いてたんだ」
今さら取り繕うこともできず、ロックは正直に言った。
正直、ロックにとってのニナの思い出は多くない。母親が死んだ時ロックは余りに幼く、おぼろげなイメージとしてしか覚えていない。顔すら写真が残っているから判別できたのだ。
ニナは目を潤ませて呟く。
「ロックのお父さんのロルフは、お母さんのニナを大事にしていたんだね」
さっきまで明るく元気だっただけに、急に小さく見えたニナにロックは狼狽える。
「あのね、父さんは俺が意地張るといつも『素直であれ』って言うんだ。自分が長いこと素直になれなかったからって」
ロックから見ていても、今一緒にいるニナとロルフは似合いだ。口げんか──というよりはニナが一方的に責める──ばかりしているように見えるが、ロルフがニナに向ける視線は優しい。父親が死んだ母の写真を見つめる時の視線と同じに思えた。
「素直、か……。私も素直になるべきなんだろうなぁ」
しみじみと呟くニナは、自分にも思い当たることがあるのだろう。ロックの目から見ると強い女性に見えるが、実は違うのかもしれない。
「私ね、今日、ロックに会えてよかった」
ニナは優しく笑った。自分が若くして死ぬかもしれないと知ったにも関わらず、悲しみは微塵も持ち合わせていない。
ロックはなんて言っていいかわからずしばらく言葉が出てこなかった。過去の母親かもしれない相手に、様々な感情が浮かぶ。自分は帰るべきであり、帰れないかもしれず、ニナと一緒にいたいとも思う。
「俺、も、かあ……ニナさんに会えてよかった」
言葉を詰まらせてもどかしげに言ったロックの頭を撫でて、ニナは笑みを零す。
「母さんって呼んでいいんだよ。君みたいな素敵な息子ならね、大歓迎」
そう言って、ニナはロックをぎゅうっと抱きしめた。
「わぷっ」
驚いてもがくロックに、ニナはくすくすと笑い抱きしめる力を強める。
そこへロルフが戻ってきた。
「……おいおい、楽しそうだな」
呆れたようなふてくされたような声に振り返ると、埃まみれのロルフが何かを手にして柱から出てきた。
「おっかえり。収穫あり?」
何もなかったかのようにロックを離したニナは、ロルフの右手に注目する。
「一応な、これが隠されてた」
ロルフが差し出したのは、黄金の小さな神像だった。身長30㎝ほどの神像は、青に緑のまだらの宝石を抱いている。
「わお、珍しい。これってアズライトじゃない。こんなに大粒で……こういう風に使われることって余りない石よね」
「宝石としての価値はさほどないからな。このまだらが時の象徴?」
「私的にはイメージじゃないけど、ま、そうかもしれないわね」
ロルフとニナの話している内容は、ロックには半分ほどしかわらかない。どうやら丸く不思議な色合いの石が“アズライト”という名前らしいことはわかった。
じいっと神像を見ていたロックに、ニナがそれを渡してくれた。思ったよりずっしりと重い。本当に金でできているのだろうか。ロックはしげしげと眺めていたが、ニナの声に我に返った。
「とありえず先に進みますか」
実はロックがいるせいで大分ゆっくりな行程になっている。ロルフもニナも、それもたまにはいいとも思うが、食料や水も大量に用意しているわけではないので長居はできない。
ロルフは、ロックから受けとった神像をリュックに無造作に突っ込み、ニナに頭を叩かれた。
「そんなぞんざいに扱わないの! ったく」
ニナは神像をひったくると柔らかそうな布にくるんで自分の鞄に入れて、元々柱に開いていた入り口に歩き出した。
一際大きい柱の中はまた螺旋階段だ。しかし大きい柱とは言え所詮は柱。人一人がやっと通れる程度の狭い螺旋階段で、ロックは下りているうちに目が回ってきた。
「螺旋階段も時の象徴って感じよね」
呟いたニナの声が狭い空間に響く。
「ああ。時の螺旋とかけてるってことか。じゃ、この螺旋階段を下りるってことは過去に向かってる?」
「まっさか。それじゃ困るわよ。ね、ロック」
「う、うん」
未来に帰れないのなら、これ以上過去に行こうと大して変わらないのだがロックはとりあえず頷いた。時間移動的概念からすると、時の差が大きくなるほど時の移動は難しいらしいのだが、時の移動自体が非現実的なのでその辺の話については半信半疑だ。
長い長い螺旋階段を下りると、先程よりも更に広い空間が待っていた。カンテラの灯りだけでは周辺だけしか照らせず、一体どうなっているのかさっぱりわからない。
「……これって……」
ニナの呟きに、ロルフは同意した。
「消してみるか」
二人がカンテラを消して、何を言っているのかやっとロックにはわかった。
漆黒の空間は、見上げると星空が広がっていたのだ。実際には本物の空ではない。天井で星が瞬いているように見えているだけだ。
「宇宙と時の関係か」
詳しいことは現在も何も解明されていないため、より神秘的に見える。
「吸収するべき光もないのに、何が光っているのかしらね……。虫じゃないことを祈るわ」
ニナが肩を震わせて呟いた。背が光る虫も存在するが、ここではどうやら違うらしい。
しばらくぼうっと見とれていた三人だが、ニナが自分の鞄から漏れている光に気付いた。
「あれ?」
鞄を開けると、光が溢れ出す。光源は先程の神像だ。胸に抱かれた大粒のアズライトが青と緑の光を放っている。強い光なのに眩しいという感覚はなく、優しい光だった。
「何の仕掛けだ?」
ロルフも首をひねった。ロックはただ驚いて感動して言葉など出てこない。これがトレジャーハントなら、やめられるはずもない。
溢れた光によって、広い空間が見渡せるようになった。そして向かい側に大きな神像があることに気付く。
「同じものだな……」
光を放つ神像がそのまま大きくなったものだった。こちらは銀色の像だ。しかしアズライトを抱いてはおらず、神像の手は胸の前で組み合わされていた──まるで祈りを捧げているように。
三人は誰からともなく大きな神像に向かって歩き始めた。
本来無防備に歩いていくなどトレジャーハンターにあるまじき行為だが、この時は三人ともまるで神像に呼ばれているような気がしていたのだ。
「本当に神が宿っているの……?」
呆然と呟いたニナは神像の前まで来てハッとする。そして鞄の中から輝く神像を取り出しロックに持たせた。
「時の神様なのよね」
小さく笑ったニナに、ロルフは皮肉っぽく返した。
「神様が俺達にロックを会わせるために仕組んだ?」
「きっと、私に残された時間を有効に使えって忠告してくれたのよ」
ニナの言葉にロルフはハッとした。しかしその瞬間、ロックの持っていた神像の輝きが増し、眩しさに三人は目をつぶった。
† † †
「んで、気付いた時には戻ってたってわけだ」
ロックの長い話を聞き終えたセリスは、ほうっと嘆息した。
「素敵な話ね」
「まあ、目が覚めた俺はどうやら高熱で倒れててさ、ばーさんの看病どころじゃなくなって、二人して寝込んだよ」
照れているのかなんなのか、ロックは肩を竦めてから頭をかいた。
「だから、夢だったのかもしれない」
「お父さんに話さなかったの?」
「……なんか話せなくってさ。もし本当なら俺が過去に行ったことで、母さんが若くして死ぬことを知って、それでも結婚したってことだろ? まあ、いつか聞きたいって思ってたけど、その前に親父が行方不明だからな」
「でもロックが過去に行かなかったら、二人とも素直になれずに、ロックが生まれる前にニナさんは死んでたかもよ?」
「さあ。ま、不思議な話だよ」
どうでもよさそうな口振りの割に、ロックの表情は満足そうな笑みを浮かべていた。
・ fin ・
■あとがき■
05年ロック誕生日フリー創作でございます。
とは言っても、去年の続き……;; 結局、後編のお届けが1年後となってしまい申し訳ありませんでした。しばらくは「アップしなきゃ」と思っていたんですが、そのうち書く時間がとれなくなって「1年後のロック誕生日フリーでいいやw」となってしまいました^^; しかしロックの誕生日が来ても体調不良に陥って……結局、更に遅れてのお届け。重ね重ね申し訳ありません。
しかし冒険モノは読むのは好きでも書くのは大変。しっかも、トレジャーハントとかって難しいよねぇ。特に遺跡なんかはさ。手元にオーフェンの小説とかあれば参考にするのに……実家に行かないとないんです。
半分は既に書いてあったもので、残り半分は10月に入ってから書きました。なんでそれまで書いてなかったのか? ただ単に難しさに断念していたんです。でも書かないわけには行かなくなって、四苦八苦した挙げ句なんとか書き上げました。
ちょっといい加減でショボい遺跡ですが、小さなロックの母親との邂逅はいかがでしたか? ロックの両親の若かりし頃、なかなか気に入ってます。ニナが「考古学者を目指していた」ってのもね。トレジャーハンターだったロルフと知り合ったけれど、考古学者を目指すニナとしては墓荒らしと変わらぬロルフと喧嘩ばかり……みたいなねw
来年は「third try」になるかな。冒険モノは考えるのが大変で苦手なので、わかりません。最近、ネタ切れでフリー少ないので、ロック誕生日フリーだけは続けようとは思っていますが。
前編とセットでお持ち帰りされる方、こちらをお読みください。 (05.12.10)
現在はフリーという扱いをしていませんのでご注意ください。転載禁止となっています。(20.9.21)
【この頁で使用させて頂いた素材サイト様】 ClipArt:トリスの市場
ロルフ・コール |
コーリンゲン出身。トレジャーハンターをしているロックの父親。 (他の登場小説「FirstTry」) |
ニナ・ブランシュ | ジドール出身。ロックの母親。ショートボブの黒髪に紺の瞳。前向きで明るい人。ロックが3歳の時に病死している。考古学者のタマゴで、とある遺跡調査でロックの父親であるロルフと知り合った。 |
エリオット・イアモルド | タイムトラベル小説を書いた昔のフィクション作家。 |
あなたもジンドゥーで無料ホームページを。 無料新規登録は https://jp.jimdo.com から