Speziell Tag ~告白~


「旅に出ないか?戦いが終わったら…その、二人…で」
 そんな事を言われたのは、瓦礫の塔へ乗り込む直前。散歩に誘われた時だった。
 今でも忘れない、その時の彼の顔…自分の心…

 未来を、信じる事ができた。


「さてと、これで買い物は全部か?」
「ええ、重いでしょう」
「いんや、平気」
 道往く人をぬって、歩く二人は互いに荷物を抱えていた。一年の終わりが近付いた街は、何だか忙しない。
 帝国と狂人ケフカに支配された、暗黒の時代は終わりを告げ、誰もが胸を張って自分の「夢」や「希望」を、口に出来る。
 世界がそんな風に、動き出してから三年目の冬。かつての戦士ロックとセリスは、ここサウスフィガロに十日程前から、逗留していた。
 ケフカ打倒の後、世界の復興を手伝いながら、旅を続けていた二人は、毎年様々な場所で新年を迎える。 それが、今回サウスフィガロになったのは、偶然か、必然か…

「ご苦労様、今お茶を入れるわね」
「さんきゅ、あっセリス、身体は平気か」
 荷物をダイニングの隅に置き、続きのリビングへ向かおうとして、ロックは首だけをセリスへ回した。
「ええ、大丈夫よ」
 キッチンのセリスは振り返ることなく、返事を返した。手は止まることなく、お茶の用意をしている。そんな、いつもと変わらない姿に、ロックはソファへ腰を下ろし、灰皿を引き寄せた。
 普段旅を続けている彼らは、もっぱら宿屋での滞在だが、サウスフィガロだけは友人のフィガロ王の厚意で、小さな一軒家を居としていた。
 こじんまりとした家だが、庭もあり冬の花がほのかに甘い香りを、放っている。留守の間はフィガロの女官が時々、掃除に訪れてくれるのでロックたちは、いつも快適な生活を送ることが出来た。
 それでもロックは、考えていた。いつか自分の力で、二人の家を建てたいと…
 
 そういえば、と彼は思う。初めてセリスに出会ったのも、このサウスフィガロだった。
 まだ、帝国の絶対支配の時代。地下牢で、帝国の裏切り者と帝国へ叛旗を翻す者として。数々の拷問によって痛めつけられ、血と埃で汚れた顔はそれでも美しく、ロックの心を捉えた。
「惹かれたのは、俺が先か…」
 トレイを持って、こちらへ歩いてくる彼女を見つめて、小さく呟く。
「なあに」
 隣へ腰掛けながら、聞こえなかったロックの言葉を、聞き返す。
「内緒」
 悪戯っ子のような笑顔で、はぐらかした。セリスはそれ以上聞くことはしないで、自分のカップに手を伸ばした。澄んだ紅茶の香りが、鼻をくすぐる。
「もう一年も終わるのね…」
「そうだな…」
「早かったような気もするし、長かったような気もするわ」
 庭へ繋がる窓の外を、木枯らしが枯葉を巻き上げて吹いていく。
「俺はあっという間だったな」
「そう」
「お前と居ると、時間の経つのが早いよ。もったいないくらい」
 ロックのそんな言葉に、セリスはポッと頬を染める。そんな可愛らしさは、出逢った頃から少しも変わらない。ロックは、そっと肩を抱いた。
 こんな風に、穏やかに過ごす時間が、何よりの幸せだとお互いが感じていた。
 セリスに出会わなければ…
 ロックと出会わなければ…
 愛する喜びも、愛される幸福もみんな二人で築いてきた。一度は離れてしまった手は、魂が呼び合うがごとく再び結ばれ、二度と離すことは無いと誓いを立てた。
 己(おの)が半身。
 君ら二人を表す言葉だ、といったのは陽気な砂漠の国王だったか…
「みんな、どうして居るかしら」
「かわんねーだろ、あいつらの事だから」
 暗黒世界で見つけた光。
 二人にとって先の仲間は、かけがえの無い存在となって、何時までも心に住まうのだ。

「さ、夕食の準備をしなくちゃ」
 セリスは紅茶を飲み干して、立ち上がる。
「んじゃ、俺は明日の用意でもするか」
「お願いね」
 まかせとけ、の言葉と供に奥の部屋へ消えていく、ロックの背を見ながらセリスは、とても幸福に満ちた表情を浮かべた。
「ねえロック、食事が終わったら、散歩に行かない」
 二人ぶんの食器を並べながら、珍しくセリスがロックを誘った。
「いいぜ、広場でカウントダウンもやってるだろ、行ってみるか」
「ええ」
 そんな会話を交して、二人は料理とワインを傾けた。

 広場は既にたくさんの人々で込み合い、手を繋いでいてもはぐれてしまうのでは無いかと、思うほどだった。
「大丈夫か、セリス」
 無言で頷くセリスを引き寄せ、肩を抱くように広場を抜けた。
 二人は街から少し離れた草原を訪れた、あの人の山にもみくちゃにされながら、新年を迎える気にはとてもならなかったのだ。
「風が、気持ちいいな」
「すごい熱気だったものね」
 常ならば、冷たいと思う風も、今は心地よい。セリスは草深い空気を、思い切り吸い込んだ。
 その時、地響きと供に大空に大輪の華が咲いた。新年を告げる大花火。
「すごい…」
「花火、初めてか」
「こんな近くで、見るのは…」
 空から目を離せず、セリスはじっと夜空の花畑を、眺めていた。ロックは、子供のように目を輝かせて、花火を見つめるセリスをじっと、見ていた。
 やがて、光の華が終演を迎えると、辺りは宝石をちりばめた星空へ姿を戻した。
「ロック…新年、おめでとう」
「ああ、セリス。おめでとう、今年もよろしくな」
 言葉を交して、どちらかとも無く口付けを贈りあった。見つめ合って、ほんのりと頬を染めたセリスが、美しく微笑む。
「今年は、どこへ行くか」
 夜空を見上げ、独り言のように呟くロックに、セリスは思いつめたような目を向けた。
「ロック…あのね」
 いつもと違う声のトーンに、ロックが心配そうな顔を見せる。
「どうした?」
 ロックの大きな手が、セリスの白い手を握り締め、そこから伝わってくる暖かさに、セリスは顔を上げて口を開いた。
「あねの、ロック…私…赤ちゃんが、できた…の」
 その途端、世界が止まった。それからゆっくりと、ロックの視界がぼやけセリスの顔が滲んだ。
「ほん、と…に」
 こくりと頷くセリス。ロックは握っていた手を、そっとセリスのお腹へあてた。
「俺の…子供?」
「うん…」
 言葉無くセリスを抱き寄せた。何をどんな風に言えばいいのか、何も浮かばない。とにかく目の前の女性が、愛しくて堪らなかった。
「ロック、苦しい…よ」
 そんな言葉に、ようやく彼は抱きしめた腕を緩めた。
「俺とセリスの、子供…あ、ありがとう、セリス」
「ロック…」
 涙が零れた。
 今までの自分であれば、決して感じることの出来なかった幸福を、彼は与えてくれた。
 そして、真珠のような涙をはらはらと流すセリスを、ロックは抱きしめ瞼を口唇で塞いだ。
「最高の宝を、見つけた」
「宝?」
「ああ、家族っていう俺だけの宝」
 涙は出ない。全身を包み込むのは、温もり。満ち足りた、光り輝く明日。


 そして、数ヵ月後。
 港町アルブルグに二人は、小さな家を建てた。自分たちの力で…
「さて、部屋も片付いたし、休憩するか」
「お茶、煎れるわね」
「ああ」
 そう言って、ソファへ腰を下ろしたロック。キッチンから漂ってくる、紅茶の香りを楽しむ様に、そっと目を閉じた。
 
 テーブルに灰皿は無く、そこには編みかけの小さな白いくつしたと、古くなった青いバンダナ。

 

・ fin ・

 

■桔梗太夫さんのあとがき■

 新年 明けまして おめでとうございます
 お待たせしました、FF6お年賀小説をお届けします。
 何とか、元旦にUPできて一安心。といっても年の始めからこんなじゃね~いやいや、がんばりますよ!はい
 旧年中は、本当にお世話になりました。今年も、パワー全開で取り組んでいきたいと、思います。
 どうぞ、「橘や」と桔梗太夫を、よろしくお願い、申し上げます。
 二〇〇四年一月一日 桔梗太夫

■お礼の言葉■

 桔梗さんは本当にマメな方です。セリス誕生日フリーすら忘れていた(少し前までは書くつもりだった)私は、なんとも情けないモード;;
 ということで、素敵なフリーを頂いて参りました。半年も前のものなんですよね。アホォな私は気付いてなかったという。すみません~。この頃、窺うのも間があくような状態で、本当に申し訳ない限り。
 私はお世話になりっぱなしみたいな感じで、桔梗さんの書くロックに励まされています。だっていつでもかっこいいんだものw
 年を越したロックとセリスは、新しい家族にも恵まれ、時を重ねていくんでしょうね。なんだか脳裏に浮かぶようで、ほわ~んとしちゃいました。
 また素敵なフリーを楽しみに待ってます!

 

当サイトからはフリーとして持っていくことはできません。転載禁止となっています。(20.10.10)

【この頁で使用させて頂いた素材サイト様】 ClipArt:Salon de Ruby