prisoner



~君を見つめてる~


 全く無自覚なんだ。
 自分がどんな風に男から見られているかなんて。
 どんな目で男達がお前を見るかなんて。
 餓えた獣のようなぎらぎらとした渇望が視線の奥に隠れていることに気付きもしない。
 俺がそれをどんな想いで眺めているのかも。
 どこかに閉じこめて俺だけのものにしてしまいたいなんて、愚かな事を考えているのかも。
 信じていないわけじゃない。
 でも、嫌なんだ。
 言葉を交わすのも、お前が微笑み返すのも、お前の瞳に他の男が写ることすら……
 もしお前が知ったら、軽蔑するんだろう───言えるわけがない。
 愚かな独占欲。
 わかっていても、気持ちは溢れて止まらない──────
 お前だけを、お前の全てを求めているから

 

†  †  †

 

 今日は運良く、セッツァーとエドガーがいない。
 ということはだ、俺とセリスを邪魔する奴はいない! はずだったのに……。
 何でこうなってんだ?
 俺は大木を背に昼寝のふりをしながら薄目を開けた。
 すぐそこに広がる花畑では、セリスが微笑みながら座っている。
 傍らにはガウとマッシュ……
 この二人は質が悪い。何故なら下心がない。これで嫌そうな顔をしたら、俺の方がセリスに嫌われるに決まってる。
 だけど、だけど……セリスはあんなに無防備な顔をさらしてるんだ。俺にだってあんな顔はしない。…………警戒されてるのか? もしかしたら全然気付いていないようだけど、本能的に悟ってるのか? そして、嫌なのか? セリスは俺の恋人だぞ!?
 ったって、誰も答えるわけもない。俺の心の呻きだから……ああ虚しい。
「わぁ、ありがと!」
 セリスが感嘆の声を上げた。無邪気な笑顔。
 ガウから受け取った花冠を頭に乗せる。うん、似合ってる。可愛い。けどっ……セリス! 何でガウの頭撫でてんだよ! くそ! 言えるわけがねーしされたらされたで恥ずかしいけど、俺だって…………撫でてもらいたいような気がする。
「セリス! キレイ~!」
 うわっ! しかもガウの野郎っ、セリスに抱きつきやがった!
 思わず叫びそうになって必死に留まる。
 相手は子供だ……そう。子供。ガウは何も知らない純粋な子供なんだ。
 必死に自分に言い聞かせる。何だか危ない人になってきた気がする。
 それもこれも全てセッツァーとエドガーのせいだ。あいつらわざと邪魔しやがる。いい雰囲気になると必ずぶち壊しに来やがって! どっかで監視でもしてんのか!?
 思い出しても腹が立つ。
 今日だってセリスと散歩でもと考えていたら、セリスの方から俺を誘いに来てくれた。と思ったら、
「ねえ、みんなでピクニックに行かない? エドガーが行って来ればいいって」
 だと……。なんて用意周到なんだ。
 邪魔したってセリスが好きなのは俺なんだよ、へへん。
 と言いたいが、残念ながらそれで鼻高々でいられる程、俺も余裕のある男じゃない。
 あげく一人ふて寝と来たら、そのうちセリスに愛想を尽かされるかも……思ったが今更のこのこ仲間に入れてもらいになど行けない。
 大体、セリスは俺がどれだけあいつを想ってるか全然わかってねえ!
 伝えたのかって言われれば、そりゃ言葉には余りしてないけどさ。
 だけど、どこにいても俺の意識はセリスに向いている。とにかく、いつでも彼女を全身で感じていたいんだ。
 俺の心は彼女に囚われてしまったから
 そう、相当前に。もしかしたら、出会った時に───
 情けないとは思わない。全身全霊をかけて誰かを愛することができる素晴らしさを俺は知ってるから。
 でも不安になる。俺は自信がないんだ。彼女に愛し続けてもらえる自信がない。
 だからどこかに閉じこめておきたいだなんて、支離滅裂な事まで想像しちまう。
「はあ……」
 ため息をついて再び草原を見やると、セリスが立ち上がろうとしている所だった。
 と、ずっと炎天下座っていたため立ちくらみか、彼女がよろけそうになる。
 俺が腰を持ち上げた時には、マッシュがすかさず彼女を支えていた。
「────────────」
   うが─────────────────っ!
 叫びだしたい。
「ご、ごめん。ありがと」
 恥ずかしそうにはにかむセリス。
 ダメだ。俺、おかしくなりそうだ。かぶりを振ってがっくりと腰を下ろすと、
「悩め青年!」
 後ろから声がした。
「いしし……」
 この笑い方。リルムだ。
「お前どこで何やってたわけ?」
「うん? ずっとここにいたよ。面白いドロボウさんの百面相見てた」
「………………」
 もう怒る気も起きない。
「あんまし貯め込むとそのうち切れるよ~?」
「………………」
 んなこたぁわかってる。
「セリスだって、ロックの事気にしてるのになあ」
「えっ!?」
 リルムに言われて思わず反応してしまった俺は、彼女のイシシ笑いにハッとした。騙された……思ったのだが、
「ロック気付いてないんだ? 案外、セリスの事よくわかってないよね~」
 なんでこいつはこんなにクソ生意気なんだ! なのに憎めないのは何故だ!
「自信、ないんだ?」
 面白そうに尋ねられて、俺は頬を引きつらせた。こいつは一体、どんな大人になるんだ? こんな小さい時から井戸端会議してるおばさんじゃねーか!いや、それすらかわいく思えるほどだ。
「あるわけねーだろ」
 俺はふてくされたように答えると、再び目を閉じた。寝てしまいたい。だが、眠れる気分じゃない。
「きっとさ、セリスは、ロックのこと余裕たっぷりの大人だって考えてるよ」
 リルムの言葉に、俺は片目を開けた。小柄な少女は大木の脇に立っていて捕らえられない。
「セリスって大人っぽく見えてもロックより7つも下じゃない? んでセリスは恋愛経験なんてないだろうし」
 リルムの言葉に「そうかもな」と答える。所でお前はいくつだ? もうすぐ12歳じゃなかったか? まあ、ませた女の子ってのはどこにでもいるもんだが。
「だから、きっと、セリスの方が自信ないんじゃないかな? 今だって、本当は不安に思ってるんじゃないかな~」
 うへへへへ、とでもいうような笑い方に、こいつの言っていることの信憑性が薄れていく。が、一理あるかもしれない。
「ロックって情熱家かと思えば意外に素っ気ないよね。なんで?」
 しかも変な事聞いてくる。自分でわかるわけない。
「そんなの俺が知るかっ」
「ふーん。でも、本当は我慢してるだけでしょ?」
 上から顔を覗き込まれ、俺はぶち切れそうになる。
 あー、そうだよ。我慢してるだけだよ。悪かったな!
「────────────」
 だけどタガが外れれば止まらなくなる。セリスを傷付けてしまうかも知れない。俺は自分の感情を完全にコントロールできる程大人じゃない。
「女なら一度くらい、情熱的に愛されてみたいかもよ~? ずっとだと疲れるけど」
 リルムの言葉に俺はギョッとして少女を見た。へへん、と笑っているが、一体、こいつの精神年齢はどーなってんだ? ストラゴスは苦労するだろうな。で、絶対、かなりの年上の男と付き合うんだろう。俺だってついていけん。
「ご忠告どうも。頭の片隅にでも置いといてやるよ」
 俺が言うと、リルムは、
「あんまし内に溜めてると、むっつりすけべって言われちゃうぞ」
 人差し指を立てて釘を刺し、俺が怒り出す前に駆けだした。
「私も花の冠欲しい~!」
 そう言いながら楽しそうな輪の中に混じっていく。
 むっつりすけべで悪かったな。別にそういうんじゃねーと思うけどな。全然大人とは言い切れなくても、衝動に身を任せて行動できるほど若くもないだけだ。
 年を取ると臆病になるって、マジなんだな……。
「はあ……」
 俺は下らない思考を中止して、空を見つめた。
 木漏れ日と青い空。
 隣にセリスがいればなあ~と思う。
 ぼーっとしていると、
「ロック」
 名前を呼ばれた。しかもセリスの声?
 俺が顔を下げると、セリスが坂の途中に立っている。
「リルムが呼んでるっていうから……どうかした?」
 ゆっくりと小さな丘を登ってくるセリスを見て、俺は何だか情けなくなってイライラしてくる。
 リルムの奴、余計なことしやがって。
「いや、別になんでもないよ」
 苛立ちを押し殺し静かに笑うと、セリスは少しだけムッとして、
「何でもないのに呼んだの?」
 なんて言う。ちょっとひどくねーか。だって恋人なんだぜ! 用がなくて呼んだっていいじゃねーかよ(本当は呼んでないけど)。
 ここで「そばにいたかった」とか言えればいいんだろうけど、言えないだろ? 普通。俺はエドガーじゃねーんだ。二人きりなら言える時もあるだろうけどさ、リルムが見てんだよ、こっちを!
「リルムの勘違いだろ」
 俺はすげなく言ってしまう。ああ、俺の馬鹿。
「なにそれっ」
 セリスは更にムッとすると、途中で引き返して行ってしまった。
 リルム~! マジ、いらねーことすんな!
 くっそ! 俺は仕方なくふて寝に徹することにした。
 一応、眠れるときに眠っておく癖は付けてある。深呼吸を繰り返して気分を落ち着けて……。

 

†  †  †

 

「ロック!」
 呼ばれている。身体が揺さぶられる。
「ねえ! 起きてよ!」
 セリスだ。すぐ近くにいる。彼女の髪が頬に触れる。甘い香りが鼻孔をくすぐる。
「ロックってば……」
 うっすらと目を開けると、困った表情のセリスがいた。
「あのね、もう夕方になるから戻るの」
「ん……」
 俺は結構深い眠りにいたため、まだ寝ぼけている。
「みんな先に帰っちゃったんだよ? 早く戻ろう」
 そーか、二人きりか……そりゃいい……。
 俺は寝ぼけたままセリスの腕を掴むと、引っ張った。
「きゃっ! ロック!」
 立て膝で俺を覗き込んでいたらしいセリスがバランスを崩して倒れ込む。俺はそれを抱き留めて、うーん、気持ちいい。
「ちょっと、戻るのよ?」
 セリスは困惑したように俺の顔を見る。
「………………え?」
 何故か、突然、頭の中が晴れた。やっと脳が覚醒したようだ。
「だから、戻るの」
 セリスの心細げな声がかわいい。俺はもう寝ぼけていなかったが、彼女に回した腕に力を込めた。
「もう! ロック!」
 彼女は非難の声を上げたが、
「一日分」
 俺が囁くと、俺の肩に頭を乗せて大人しくなった。
 俺の中に彼女に対する愛しさが溢れて(無論普段から溢れそうだが)、止まらなくなる。
「みんな、心配するよ」
 セリスがポツリと呟く。彼女はこの状況がもしかして嬉しくないのだろうか……。
「離さない」
 俺は意地悪く言う。
「俺の事放っておいた罰」
「なによそれ。ロックが勝手に一人で昼寝してたんじゃない」
 セリスは腑に落ちないようだ。確かにその通りだから当然だろう。
「でもいいんだ。それとも、セリスは嫌か?」
 尋ねると彼女は黙ってしまう。
「嫌だったらそう言わないと、離してやらないぞ」
 何も言わないから嫌じゃないのだろう。彼女は照れ屋だから言葉にするのは苦手なのは知っている。
「お前、全然わかってないもんな」
「何が?」
 きょとんとした彼女の身体を少しだけ引き上げる。
 何がったって、それを言葉にできる程、俺もプライドが無いわけじゃない。
「こういうこと」
 言うなり、彼女の唇を奪った。彼女は突然で少し驚いたようだが、それだけだ。
 俺が彼女の甘い吐息を求めて、深く、深く口づけると、彼女は俺に縋るようにしがみつく。
 桃色の艶やかな唇も、喘ぐような吐息も、その全てを蹂躙するように執拗に空気を求めて逃れようとする彼女を追う。
 俺のシャツを掴んでいた彼女の手から力が抜けていく。
 それに気付いた俺はやっと彼女を解放した。
「わかったか?」
 酸素を欲して呼吸を乱すセリスに、俺は尋ねる。
 正直、少し荒っぽかったかもしれない。今までは優しいキスしかしなかった。彼女のペースを考えて。
「わから……ないよ……」
 セリスは潤んだ瞳で俺を見た。とろんした溶けてしまいそうな視線。アイスブルーの瞳にいつもの冷たさは微塵もない。
 くっそ、やべえ。何て目で俺を見るんだ。そうさせたのは俺だけど。
 その事実が更にたまらない。俺が彼女の仮面を剥がして、女の顔をさせている。
 このまま彼女の全てを俺で満たしてしまいたくなる。
 だけどまだ、その時じゃない。大体、ここは外で、草原だ。もし俺の部屋とか彼女の部屋だったら勿論、頂いている。彼女には悪いけど、それで押さえられるほど強い理性なんて持ち合わせていない。
 今だって、彼女を壊してしまいたいほどに求めているんだから。
「ま、俺も急がないようにするさ」
「?」
「帰るか」
 言うと彼女は不思議そうな顔だったが立ち上がった。
 まだ足りないと言ったら、彼女はどんな顔をするんだろう。
 ゆっくりと足を進めながら、俺はそんなことを考えていた。

■あとがき■

 はやさんの5000hitキリリク! 「セリスが口説かれたりしてるのに全く気づかないから、ロックが子供みたいにヤキモチやきまくって最後にはものごっつラブラブ」になります。
  3部編成で、今回の1部は単なるお友達相手にヤキモチを妬くロック。まだセリスは口説かれおりませんが、大丈夫。次は別パターンとなります。3部目でやっとリクに答えられる感じかもしれません。ごめんなさい。なんだか引っ張ってばっかりで。わざとじゃないんです。こう構成した方が面白いかもって考えてると、長くなっていくんです。すみません。一応独立した話としても読めるようになります(少しは繋がるけど)。ロックが一人悶えて妬いて最後にはラブラブパターンの予定。
 悶えさせるためにロックの一人称にしたら、少し壊れ気味になってしまいました。段々、ロックが壊れていくと思います。でも私的に余りひどくは壊したくないみたいで、壊しきれません。中途半端でごめんなさい。ロックって、ゲーム中も、直情的なくせにさらっとした態度だったりする所があるけど、それって情熱家なんだから思っていても出さない部分、押さえている部分が大量にあるんだろうな~と。だから、態度は素っ気ないけど中身は暴れまくりです。本当に不器用な人ではないかと……。今回はロックの一人称でヤキモチをメインにしたため、もう、ロックは留まることを知らずに思っていることをぶちまけてくれるでしょう。他の話では話自体の流れと雰囲気にそぐわなくなるため余りロックの心中を入れすぎることができません。でも、きっと、余裕ぶっこいた態度の裏は焦りでいっぱい……ということにしておいて下さい。
 今回もおませなリルムが出張ってます。こういう事言う生意気な子供っているでしょ?(多分) 他の人に言わせるとなんか違うのでリルムです。ちょっとメロドラマ見過ぎ?
 しかも最後は、ラブラブすぎでしょうか……書いていてなんだか楽しくなってきて、いつもどこで止めるかすごく迷います。最初からハイペースだと後に悩むんですよね。でもものごっつラブラブってことなので。まだあと2部あるけど……
 題名の「prisoner」は捕虜です。愛の虜って意味で付けました。背景も同じ意味で囚われた感じの心をイメージしてます。副題は1部~3部を分けるために付けてます。今回は長沢智さんのマンガより頂きました。
 何故か今回、アトガキすげー長いですね。リクのため答えられているかどうか不安で、言い訳をたくさん書いてしまいました。最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。次は2週間以内にお届けする予定です。 (03.7.13)

~愛してると言ってくれ~


 お前からの言葉が欲しい。
 勿論、俺だっていつも言葉をあげられるわけじゃないけれど───。
 一度でいいから。
 たった一言でいいから。
 お前に愛されているという言葉が欲しい。
 なのに───
 お前は平気で他の男にも微笑む。
 お前を浚っていこうと画策している男の真意にも気付かず、お前は信頼した笑顔を見せる。
 俺にはそこまで束縛する権利などないから、俺は願うことしかできない。

 

†  †  †

 

 マッシュ、カイエン、ガウがシャドウを迎えに行った。
 一緒に魔大陸に臨んだ仲間だ。奴が一匹狼を気取ろうと、やはり一緒に闘って欲しいと俺も思う。
 で、俺は、セリスを探していた。
 船内に見あたらないから甲板に出ると、彼女の姿を見付けた。けれど───なんでエドガーがいんだよ。いや、いたって本当はいいんだろうけど、よくない。全然、よくない。
 二人は笑いながら話をしている。
 何を話しているのか気になって、俺は見つからないように声が届く距離まで近付いた。
「君はドレスなんて嫌だと言うけれど、マリアに扮した時、すごく似合っていた」
 にこやかなエドガーに、セリスは呆れたように言い返す。
「エドガーってば、誰がやってもそう言うじゃない。大体、似てるなら似合っても普通じゃない?」
 エドガーの誉め言葉は女性に対しての最低限の礼儀らしく挨拶代わりだが、セリスに言っているのはやはり余り面白くない。
「だが私は君とマリアを間違えたりはしない。どっかのギャンブラーみたくね」
 俺だって間違えねーよ。俺は内心呟く。
「当然でしょ? 女性を間違えるエドガーなんて想像つかないもの。それも礼儀、なんでしょ?」
 セリスは笑って言う。うーん。エドガーが全く相手にされていない。これは見ていて逆に面白いかもしれん。少しだけいい気味だと思う。
「私は君を最初口説かなかっただろう?」
「そうかもしれないわね」
「何故だと思う?」
 エドガーの質問に、セリスは首を傾げて暫く考えると、
「帝国の元将軍で警戒してたから? 大体、そういう場合じゃなかったし」
 普通に答える。あの時はナルシェに帝国が進軍していたから、さすがのエドガーだって口説いているヒマなどなかったはずだ。
「本気になりそうだったからだよ」
 エドガーは静かに微笑んだ。何言ってやがんだ、と思ったが、何故かセリスは不思議そうな顔をしている。
「どうして?」
 そこでどうしてって質問は、俺も変だと思う。案の定エドガーは面食らった顔で、
「どうしてって……」
 口ごもる。セリスはもしかしたらわざと惚けているのかもしれないと思うほど、鈍感だ。
「本気になりそうだとどうして口説けないの? 本気になったらいけないの?」
「ティナみたいな質問だな」
 エドガーは苦笑いを浮かべる。
 どうやらセリスにとっては、エドガーが本気になりそうだったという事実などどうでもいいみたいだ。
 うしし……俺は内心リルムみたいに笑う。
「私が恋愛に疎いって言いたいの?」
 セリスは少しムッとしてエドガーを見た。
「いや、どうだろうな。それはロックが知ってるんじゃないか?」
 ん? 俺?
 セリスはかあっと頬を染める。悔しそうにエドガーを睨んでいる姿が可愛い。照れてるらしい。
「ロックはきっと……私の事、子供だと思ってるわ」
 セリスは呟いた。全然そんなことねーのに。
「背伸びしようとしても、それすらどうやっていいのかわからないんだもの」
 なんて可愛いことを言うんだ! 今すぐ出ていきたい。が、このタイミングでは出ていけない。
「子供ね」エドガーが含み笑いをもらす。「それはどうだろうね」
 くそっ、何が言いたいエドガー!
「どうしてそう思うんだ?」
「だって……何となく……。あなたやセッツァーは子供扱いしたりしないと思うし」
「それなら、ロックなんてやめておくかい?」
 何言ってやがる! 俺は出ていこうとして踏み止まった。彼女は断るに決まってる。何て断るだろう。「ロックが好きだから」それが一番聞きたいのだが───。
 セリスは首を振って、
「あなたのことそんな風に見れないわ。それに本気には見えないし。冗談言って、私のこと元気付けようとしてくれてるんでしょ?」
 そんな事を言った。エドガーの頬が引きつり、俺もずっこけそうになる。つーか、断るならきっぱり断れ!
 ため息をついたエドガーはおもむろにこちらを向いた。隠れ損なった俺はばっちり目が合う。
 やべ……。エドガーはにんまりと笑いやがった。
「やあ、ロック。どうしたんだい?」
 声を掛けられ、俺は諦めて出ていく。
「いや、セリスを散歩にでも誘おうかと思ってさ」
 俺も笑って答えた。互いに笑顔がひくひくしている。
「ロックってば、いつからいたの?」
 セリスが顔を赤くして言った。
「え? 別に……」俺が答えようとしたのをエドガーが遮る。
「相当前からだよな。いくら泥棒だからって盗み聞きはいけない」
 この男~。気付いていたのか、はったりか……。
「やだっ! ロックの馬鹿!」
 セリスはべーっと舌を出すと、走って行ってしまった。
「ちょっと、おい!」
 俺の声に振り向きもしない。
「エドガー……」
 俺は半眼でエドガーを見た。エドガーはいつもの余裕の笑みを浮かべ、
「どうせ幸せなんだろう?」
 なんてのたまわったのだった。

 

†  †  †

 

 その日、夕食の後、俺はエドガーとチェスに興じていた。
 俺は、賭けとかこういったゲームが苦手そうに見えるらしいが、断じてそんな事はない!
 いや、正直に言ってしまえばポーカーは下手だ。俺はえんえん表情を顔に出さないなんてできない。腹のさぐり合いみたいなことは苦手なんだ。だから麻雀も駄目だ。
 だけどチェスやオセロは違う。
 エドガーやセッツァーと対戦したって、俺が勝つ方が多い。
 いっつも信じられないって顔されんだよな。俺が頭悪そうってことか? 知的じゃないって言いたいのか? それはまあいい。
 で、チェスをやってるわけだが……俺はいまいち、いや、全然集中できずにいた。
 向こうでセリスとセッツァーが二人で話をしてんだよ!
 俺とエドガーがいるのは飛空挺のパーティールームの比較的中央で、床に腰を下ろしている。
 セリスとセッツァーがいるのは入って右奥のソファだ。一人がけの椅子が斜めに並んでいる。
「お前の番だぞ」
 言われてハッとする。見てなかった。一体エドガーはどれを動かしたんだ? ルークを右へ四つか……?
 んじゃ、俺は、ナイトを右前へだな。牽制だ。
 チェスの駒を見つめている間も、すっごく向こうを気にしている。つーか、全身の神経があっちに向いてしまっている。
 セリスの楽しげな笑い声が聞こえるから余計だ。
 会話は途切れ途切れにしかわからない。何を話しているのか気になる。
 俺はちらりと横目で盗み見た。なんだかさっきより近付いてないか? しかも声を潜めてやがる。
 すうっと視界の端でエドガーの腕が動いた。俺のポーンを取っていく。とりあえずそんなの捨て駒だ。
 だが、このままじゃ負けは見えていた。全然集中できねえ。
 投げやりな気分で次の駒を進めた。
 考えている暇さえ惜しい。俺はそれどころじゃねーんだ。
 つーか、あいつらいつの間にか酒飲んでるよ。しかもありゃテキーラじゃねーか? 何でセリスは断らねーんだ。普段全然飲まねーじゃねーか。
「ロック」
 エドガーに呆れ顔で促された。
「悪い」
 俺の気のない謝罪に失笑すると、エドガーはちらりとセリスを見る。
 ああ、そーだよ、気になるんだよ。大体お前は昼間、口説いてたくせに気にならねーのかよ。
 ぶつぶつ呟きながら、一応考えて──腑抜けた思考でだから意味無いが──ビショップを動かした。
 そういやそれ以前に、エドガーがどんな手で来たかも確認しなかった。だめだこりゃ。
「ちっ」
 舌打ちして、再びセリスの方に神経を向ける。顔はチェス盤に向いているから、見にくいのだがあからさまに見ることはさすがにできなかった。
 セッツァーは何かを囁くと手を伸ばし、髪留めを付けていないセリスの髪を指で耳に掛けた。セリスは不思議そうに首を傾げ、「そう?」とか言ったようだ。
 つーかマジで! 何やってんだよ! 気易く触んな! セリスも触らせんな!
 何だかセリスが無防備に見えた。
 桃色に上気した頬。テキーラが効いているのかもしれない。
「セッツァー!」
 さすがに我慢できなくなって、俺は叫んだ。
「それ以上飲ませるなよ」
 睨み付けてやると、セッツァーは片頬を緩めニヒルな顔で肩をすくめた。それからセリスをうかがう。
「子供じゃないんだから、大丈夫よ」
 セリスはしれっと言う。俺は一瞬面食らったが、
「普段飲まないんだから明日辛いぞ」
 諭すように言う。しかしこの保護者面が逆に気に入らなかったようだ。
「何よ、大人ぶって! セッツァーだってエドガーだって絶対にそんな風に言わないのに」
 なんて吐きやがった。これには俺もカチンとくる。元々気の長い方じゃないんだ。
「だったら勝手にしろ!」
 言い放ち、やりかけのチェスもエドガーも無視して、パーティールームを出た。
 途端、後悔が込み上げる。が、既に遅い。今更だ。
 一瞬悩んだが、「もう知るか」呟いて部屋に戻った。

 

†  †  †

 

 ロックに怒鳴られたセリスはぽかんとしていたが、
「勝手にするわよ」
 言い放ち、自分のグラスの中身が空であることに気付くとセッツァーの飲みかけのテキーラを一気に呷った。
 泣き出しそうな、悔しそうな、複雑な表情で目を潤ませているセリスを前に、二人が喧嘩して嬉しいはずのセッツァーは何故か罪悪感を覚える。
 チェスを片づけたエドガーが、
「セリス、さすがにもう止めときなさい」
 優しく言った。だがセリスはムッとして、「どうして!?」と食ってかかる。
 エドガーはセッツァーと顔を見合わせ肩をすくめると、小さなため息をき、
「それとも動けなくなるまで飲んで、私達に弄ばれたいのかな?」
 意地悪く言った。ギョッとしたセリスは顔を真っ赤にし、
「な、な、何言って……」
 エドガーとセッツァーを交互に見やる。何で「達」なんだと、セッツァーはエドガーを睨んだが、エドガーは知らん顔だ。
 全く考えていなかったと言えば嘘になるとは言え、あの言い方では単なる変態みたいではないか。
「酒は思考も身体の自由も低下させる。わかっていながら飲んでそういう姿を無防備にさらすということは、何をされても文句を言えないっていうことだよ」
 にんまりと笑うエドガーに、セリスは身体を縮こまらせた。突然、二人を恐いと思う。
「そんなつもり……」
 唇をわななかせながら呟くと、
「だから、ロックは止めたんだろ?」
 セッツァーが言う。いつも邪魔ばかりしているが応援していないわけじゃない。セリスがロックしか見ていないのはわかっている。ただ悔しいからロックをからかって憂さ晴らししているだけだ。
「だって……そんなの…………わからなかったもの……」
 セリスは俯いて涙を浮かべる。
 慰めてあげたいところだが、セッツァーもエドガーもお互いの出方を窺って何も言わない。二人きりでなくて良かったのかもしれないが。
「謝ってきたらどうだ?」
 エドガーが言った。セッツァーにはそこまで言ってやれる寛容さはない。
「でも……」
 セリスは躊躇う。許してくれなかったらどうしようと思う。どう考えてもわかってなかったのは自分のようだから。
「ちゃんと謝ればわかってくれる」
 優しく告げるエドガーと、それを苦い顔で見ているセッツァー。
「う……ん。ありがと」
 はにかんだセリスはよろよろと立ち上がる。
「おい、大丈夫か?」
 セッツァーが腰を浮かせて声をかける。
「うん……多分」
 セリスは恥ずかしそうに言う。くそっ、可愛い。セッツァーは内心臍を噛む。セリスの部屋までなら送ってやりたいが、ロックの部屋まで送ることはさすがにできない。
 セリスは心許ない足取りで、部屋を出て行った。
「せかくのチャンスだったかな?」
 セリスが座っていたソファに腰掛け、エドガーが目を細める。
 セッツァーは心底嫌そうな顔をして、「見損なうな」言い放った。
「俺がここでつけ込んだって、セリスの笑顔が二度と見れなくなるかもしれない。そんな分の悪い賭けをする気はねえよ」
「ほう、意外だな」
 エドガーは余裕たっぷりに微笑み、テキーラをグラスに注いだ。
「飲むだろ?」
 セッツァーに瓶の口を向け、グラスを持つことを促す。
「あんたの余裕ないところが見てみたいよ」
 セッツァーはため息をついて、グラスを手にした。

 

†  †  †

 

   カツカツカツ……
 ベッドに腰掛けた俺は、薄暗闇の中、苛立たしげにサイドテーブルを指で叩いていた。とにかく落ち着かない。
 自分も勿論悪いのだろうが、あそこで二人と比べられたらたまらない。
 酔っているからというだけで許せる程、俺は寛容じゃなかった。
 今は多少の後悔もあるけど、それを無理矢理怒りにすり替える。俺は悪くない、と。
 だからよけいにイライラしている。
 自分の不器用さにも嫌気がさしていた。感情に任せて物を言うからこうなる。何度後悔しても、カッとなったその時には忘れてしまうのだ。
 セリスはどうしただろう? あれから更に飲んで、セッツァーにお持ち帰られたりしていたら──考えて胸がじくじく痛んだ。酔ったセリスが、セッツァーに犯されているところを想像して、胸焼けがする。くそっ、俺は何を考えてるんだ!
 ああっ、イライラする!
 バンダナをむしるとその辺に放る。下りてきた前髪がうざったくてかき上げた時、扉が鳴った。
 俺は眉をひそめる。誰だろう。セリスは来ないだろう。彼女は何故怒鳴られたかもわかっていないのだろうから。
 俺は思ったのだが、もう一度ノックされ、
「あ? 起きてるよ。何だ?」
 ぶっきらぼうに言うと、
「ロック……?」
 扉が少しだけ開いた。セリスじゃねーか。あの二人がよく解放したと思った。
「なんだ?」
 俺は苛つく気持ちを抑えて、低く尋ねた。
 セリスは黙って部屋に入り扉を閉めると、
「……ごめんなさい」
 俯いて告げた。ごめんなさい? セリスが気付いたというのだろうか。人の心に鈍感なセリスが?
「何に対して謝ってんだ?」
 冷たく尋ねる。八つ当たりだろうけれど、今は優しくできる気分じゃない。
「その……飲み過ぎるなって言ってくれたのに……。ごめんなさい。エドガーに言われるまで気付かなくて……」
 申し訳なさそうに言うセリス。
 ああ、やっぱ自分で気付いたわけじゃねーんだ。大体エドガーはどういうつもりだ? あいつはさっぱりわからねえ。
「で、エドガーに言われて謝りにきたわけだ?」
 俺の咎めるような口調に、セリスはますます俯いて小さくなる。
「……………………」
「お前って、ほんと何もわかってないよな」
 俺は呆れたように嘆息した。わかってる。もう許すべきだ。だけどいい加減たまっていた。俺は元々辛抱強い大人じゃない。エドガーみたいに余裕たっぷりでいることは不可能なのだ。
「……ご、ごめんなさい……」
 セリスの声が掠れる。泣かせてしまったかもしれない。
 しまったと思って立ち上がると、彼女が涙に濡れた顔を上げた。
「もう、嫌いになった……?」
 え? 突然、何を言ってるんだろう? 俺が彼女が何を言いたいのかわからずにいると、
「嫌いにならないで。───ロックが、好きなの。すごく」
 彼女は続けた。
「!」
 俺は目を見張る。彼女が言ったのは幻聴、では、ない?
 セリスの口からそういった言葉を聞くのは初めてだった。
「こ、こどもで、私、何もわかってないかもしれないけど、でも、ロックが、好きなの」
 言って、彼女は顔を覆って泣き出した。
 ああ、くそっ。そんな風に言われたら、止められなくなる。
「泣くな」
 俺はそれだけ言って、彼女を抱きしめた。
「俺も悪かった。嫌いになったりはしないよ。お前が好きだから、泣かないでくれ」
 俺が囁くと、彼女は頷いたが、涙はなかなか収まらなかった。

 彼女が泣きやむと、俺はベッドの傍らに彼女を座らせて顔を拭かせた。
「泣きやんだか?」
 尋ねると、恥ずかしそうにコクンと頷き、上目遣いに俺を見た。
「許してくれるの?」
「怒ってねーよ。ただちょっとイライラしてただけだ。悪い」
 俺が言うと、セリスはふるふると首を横に振る。
「ごめんなさい。いつも可愛くないことしか言えなくて」
「んなことねーよ。俺こそ、余裕なくてごめんな」
 彼女の髪を撫でると、彼女はそっと俺にもたれ掛かってくる。
「余裕、ないの?」
「ねーよ」
「うそ」
 セリスは拗ねたように言い、俺から身体を離した。
「いつも余裕でいるじゃない。私ばっかり想ってるみたい……」
 呟く彼女は可愛い。そりゃめちゃくちゃ可愛い。そんな風に想っていてくれたなんて、もう、全てがどうでもよくなる。
「それは俺が言いてーよ」
「どうして?」
「お前が思ってる程、俺は大人じゃねーってことだ」
 俺の言葉に、彼女は首を傾げる。
「どこが大人じゃないの?」
 全く面倒なことを聞いてくる。なんて説明すりゃいいんだろう。
「あー、まあ、結構無理してるってことかな」
「無理?」
 だからどこまでも突っ込むな! 俺は頭をかきながら困ってしまう。
「そうだな、我慢してるってことだ」
「何を?」
 ここまで聞かれたら実行してやるしかない。そのつもりだっただろうって? 勿論そうだ。計画的ってほどじゃないが、このシュチュエーションなら誰だってそのつもりになるさ。
「こういうこと」
 囁いて、彼女を抱き寄せると、唇を重ねた。
 彼女の唇はしっとりとしていて柔らかい。口づけの合間の吐息まで奪い尽くすように、彼女の唇を貪る。
 このまま何も考えずに溺れたい───
 戸惑っていた彼女が、辿々しく俺のキスに答え始める。
 何度も何度も、気が済むまで彼女の甘い唇をついばむ。彼女が喘ぐように唇を開くと、俺はそっと舌を絡めた。
 彼女の全てが知りたい。
 彼女の全てが欲しい。
 理性で押し止めていたものが、一気に弾け飛び、俺は欲望に促されるままに行動した。
 彼女の唇を堪能したまま、ゆっくり組み敷く。
 一度顔を上げると、
「ロック……?」
 彼女が掠れた声を出す。とろんとした柔らかい青の瞳で俺を見ている。
 もしかして………………眠たそう?
「なんか、気持ちいいね」
 ふにゃっとセリスが笑う。
 ………………やっぱり眠たそう?
 俺の一瞬の躊躇が命取りだった。
「セリス……?」
 気付くと彼女は既に寝入っていた。
「マジかよ」
 俺はげんなりする。それはないだろ? な?
 だけど相当飲んでいた。眠くもなるだろう。これで起こせば明日の二日酔いがもっと酷くなる。そんなことはできなかった。
「やっぱり俺って、微妙な所で大人?」
 ここで彼女を心配をしてしまうのは、若くないからなのか───。
 欲望だけに正直になれない自分に、ため息をついた。

 

†  †  †

 

 次の日、目を覚ました俺は幸せな気分でセリスを見つめていた。
 安らかな寝顔がとても愛しい。久々によく眠れた気がする。
 好きな女が隣で寝ているから眠れないなんて程に若くはない。昨日は諦めてさっさと眠ってしまった。
 起きたら彼女はどんな顔をするだろう。
 相当酔っていたから覚えていないのかも知れない。
「だとしたら、何言っても怒るんだろうな」
 そう呟きながらも、俺は満足げに微笑んだ。
 まず最初に、「おはよう」と言って口づけることに心に決めていた。

■あとがき■

 なんだかもったいぶってます? 3部で少しずつ進展させようかと……えへ。
 ところで、こういうラブシーンの表現にやっぱり困ります。語彙が少ないせいです。が、限られてるよね? しかも甘く見せる、変に卑猥にはしない、という制約付き(勿論この制約は自分で課したものです)。もうネタ切れです。表現に。毎回似たようなのになってしまうのは仕方がないのかしら? 頑張ってるけど、いっぱいいっぱい。もっとラブラブな二人が仲良くっつーのは、また別で書けるけど、ロックが一方的にっつーのに、言葉が出てきません。ちなみに次は更にラブラブ。えへ。
 第2部ではセッツァーに妬きます。エドガーは微妙な人なので。でも、セッツァーを悪人にしきれないので、難しいです。
 次は誰に妬くんでしょう。前後編とかになるかもしれない予感。
 はやさんごめんなさい。何故か、口説かれているのに鈍感なセリスにヤキモチっつー構図がうまくできません。次でも頑張るけど、微妙に求めているものと違うかもしれないです。リクに答えるっていうのは本当に難しいものだと痛感しました。とりあえず精一杯頑張っているので許してくださいね。 (03.7.19/03.7.23追加修正)

~言葉じゃ足りない~

〔前編〕

 

 お前が初めて言葉をくれた。
 俺を好きだと言ってくれた。
 なのに、俺は前よりもお前を求めている。
 だから、俺は前よりもお前を求めてしまう。
 恋は人を欲張りにする。
 もう言葉じゃ足りない。
 心も、身体も、全て───
 俺のものにしてしまいたい。
 なのに、お前は俺のそんな欲望には気付かない。
 そうやって、他の男に気を許すんだ。
 言葉じゃなくて、俺に示してくれ
 その全てを、俺に捧げてくれ────

 

†  †  †

 

 それはサウスフィガロから帰る途中だった。
 俺とセリス、マッシュ、ガウの4人でチョコボに乗り(ガウはマッシュと一緒に)、フィガロの砂漠を渡っていた。
 気怠い熱気にうんざりしていると、突然ガウが大声をあげたんだ。
「ござる!」
 この『ござる』っつーのはマッシュのこと。何故かガウはマッシュのことをござるって呼ぶ。語尾にござるを付けるのはカイエンなんだけどな。
「なんだ?」
 マッシュが目を丸くしてガウを見る。俺達もチョコボを止めた。
「ガウガウ! あそこ!」
 ガウはチョコボの上で身軽に飛び跳ね、遙か彼方を指さした。
「へ?」
 俺達は揃ってそちらを見たけど何もない。
「???」
 顔を見合わせると、
「人! 人!」
 ガウは尚も叫んだ。
「人!?」
 言われてみれば黒い点がある。
「行ってみるか」
 別に少し道を逸れるだけのことだ。本当に人がいるなら行ってみてもいい。
 チョコボを向け、近付くにすれてその姿がはっきりしてくる。
 砂丘の中程で俯せになっている誰か。
「ガウの視力は一体いくつだ……?」
 俺は思わず呟く。後に興味本位で測定したら6.0だった。さすが野生児だ。
「生きてるのかしら?」
 すぐ傍まで行くとセリスが呟く。確かに死んでいても全くおかしくない。
 先に飛び降りたガウが、
「息! してる!」
 俺達を呼ぶ。俺達は駆け寄ってその人を仰向けにした。
 推定年齢は20代後半といったところか。薄汚れた服にボサボサの頭。生やしっぱなしの無精ひげの男は浮浪者にも見える。
「大丈夫か?」
 俺が肩を揺らすと、男は目を開いた。意識はあるらしい。それほど時間が経ってないのか……。
「水、飲めるか?」
 マッシュが水の入った革袋を差し出すと、男はよろよろと手を伸ばした。
「ゆっくり飲め。むせるぞ」
 そう言ったが、砂漠で倒れていた人間に水をゆっくり飲むなんてできるはずがない。案の定、男は思いきりむせた。
「大丈夫?」
 セリスは男の背をさすりながら綺麗なタオルを差し出すと、それを受け取って顔を拭いた男は、
「…………? 貴女は…………」
 そう呟いた気がした。そのまま気を失ったからわからなかったけど、セリスはなんだか変な顔をしていた。
「どうした?」
 俺が尋ねると、
「どっかで見たような……」
 そう首を捻った。
 俺は男をチョコボに乗せると、再びフィガロへと向かった。

 

 

†  †  †

 

 女官長に男を任せ、俺達が再びフィガロを訪れたのは三日後だった。
 男はまだ床に着いていたが、食欲も出てきて元気になったようだった。
「本当にありがとうございます」
 照れたように笑う男はアレクスと言った。髭も剃りこざっぱりして、髪は無造作に後ろでくくっている。人の良さそうな男、それがちゃんと彼を見た第一印象だった。
 どうやらフィガロで機械技師になりたいらしい。どこも苦しいしそれはフィガロも一緒だが、最もマシだと言える。唯一機能している国だしな。
 10分程すると、セリスがお茶を持ってきた。
 その姿を見てアレクスは絶句する。
「どした?」
 俺は不思議そうにアレクスに問う。彼女が綺麗だから見とれたとかそういう次元の反応には見えない。驚愕、その表現が正しいんじゃないだろうか。
「セ……セリス将軍」
 アレクスは確かにそう言った。
 サイドテーブルにお茶のトレイを置こうとしていたセリスは、キョトンとしてアレクスを見、トレイを落としそうになる。慌てて置き直すと、
「アレクス・スライク……!?」
 呆然と呟いた。微妙に気まずい雰囲気が漂う。俺一人理由がわからない。二人が知り合いらしいことだけが察せられる。
「生きて、いたのね……」
 セリスが呟いた。悲しげな微笑だったが、ホッとしたようにも見えた。何故彼女はそんな顔をするのか。俺の心に影が差す。
「将軍も……ご無事だったんですね」
 アレクスの返事にフと気づく。セリスを将軍と読んでいる。帝国の軍人だろうか。彼女にはシド博士とレオ将軍以外に親しい人間はいないと言っていた。それなのに───。
「とりあえず、冷める前にお茶を飲んで」
 湯気の立つカップを差し出したセリスが言った。他に何を言って良いかわからなかった感じだ。
「頂きます」
 アレクスは戸惑いながらもカップを受け取った。
「ロックも飲むでしょ?」
 気まずそうに声を掛けられ、俺は複雑極まりない。どういう関係だと問うことは憚られた。あからさますぎる不信感を剥き出しにするのは情けなさすぎる。
「おう。……お前が入れたのか?」
「いけない?」
 セリスがにっこりと俺を威圧する。何で怒ってんだ?
「別にいけないなんて言ってないだろ。珍しいからさ」
 なんて言うと、セリスはべっと舌を出した。子供っぽい仕草に俺は思わず笑みを零す。ちなみにアレクスは目を丸くしていた。
 俺はできるだけ普通にお茶を飲むことにした。強がりだが、何もわからない内からじたばたするのはみっともない。
 セリスも一口お茶を飲むと、
「何であんなところで?」
 答えを促す。将軍口調ではないが、多少の威圧感を含んでいた。アレクスははにかむと、
「水の入った袋を魔物に破られてしまいまして……」
 困ったように頭をかいた。セリスは呆れ顔になり、
「相変わらずね」
 肩をすくめると俺を見た。
「彼は私の副官だったの。サウスフィガロに攻め入る直前までね」
 ちゃんと説明してくれた。「へえ」としか俺には返しようがない。
「レオ将軍の親戚で、信用できる人間が一人ぐらいは欲しいだろうって寄越したの。だけどアレクスは闘うことに向かなかった。辞して、姿を消したの」
 セリスは全く気にしていないようだったが、アレクスは居心地悪そうに小さくなっていた。
「優しすぎたのね」
 儚げな笑みを漏らすセリスを見て、俺の胸がちりちりした。過去を懐かしむだけの瞳なのか? 将軍時代に思い出せることなど無いと言っていたのに。
「俺は、弱いだけです」
 アレクスはため息混じりに呟いた。落ち込んでいるようだ。
 多分コイツは人を殺したりできないんだろう。戦争は個人的な殺人とは違う。やっていることは一緒だが、己の意志と別の所で動かなければいけない部分がたくさんある。殺さなければ殺される。敵だけでなく味方からも殺されるかもしれない──裏切り者として。あのケフカならそうするだろう。
「弱いことは罪じゃない」
 セリスは言うと空になったカップを俺達の手から取り、トレイに載せた。
「もうすぐ全てが終わる。これからはお前のような優しさが必要な世界になるだろう」
 将軍口調で告げ静かに微笑むと、部屋を出て行った。逃げ出したようにも見えた。
「瓦礫の塔にいる……ケフカに挑むんだそうですね。女官長さんに聞きました」
 アレクスは俯いて言う。さっき自分を弱いと言っていた。気にしているんだろう。
「あのさ、俺も弱いことは罪じゃないと思うぜ。セリスもそうだし俺も弱い。俺は弱いから自分を正当化してる。守るための戦争だから人を殺していいことにはならない。結果的に多くの人の命を救ったことになっても、だから許されるわけじゃないからな。それでも俺は他に方法を知らない。だから、正当化してるよ。開き直ってる。それは強さとは違うよ。受け止めてるわけじゃない。俺はそう割り切ってるけど、セリスは今でも気にしてる。将軍時代にしてきたことを。あがないたいんだろう。でもその方法が見つからない。存在しないんだから当然だろうな。半分背負ってやりたくっても、不可能な話だ。結局、苦しむしかないんだよ。彼女もそれを知ってる」
「………………やっぱり僕は弱いんだと思います。割り切ることからも逃げているから」
 力無く首を横に振ったアレクスは、話題を変えるように俺に質問した。
「将軍の、恋人、なんですか?」
「まあ、な」
 複雑な気持ちで頬をぽりぽりとかく。
「刺々しい空気が全然なくなってるから。あんな子供っぽい顔もするんですね。……よかったです」
 彼は心底ホッとしたような笑みを零す。笑うと更に柔らかい印象だ。体は結構がっちりしている。俺より背も高い。が、線の細い印象が消えない。纏う雰囲気のせいだろう。
「将軍はずっと無理されてたんで……。でも……将軍は辞めたと言って下さったけど、僕は、逃げ出したんです。サウスフィガロへの遠征が決まって、また人を殺さねばならないのかと思うと───耐えきれずに逃げ出したんです。その後、風の噂で将軍がサウスフィガロで裏切り逃亡したと聞いて……。僕が残っていたとして何ができたとも思えないけれど、それなりに後悔しました。…………生きていてくれて、本当によかった」
 アレクスは泣き出しそうだった。
 俺は更に複雑な気持ちで、
「とにかく今は休め。余り興奮しない方がいいぞ」
 言い残して部屋を出た。

 もやもやした何かを払拭できず、セリスの部屋に行く。
 彼女はベッドに腰掛け惚けていた。
「昔……アレクスの優しさが恐かった。どんなに心配されても、全て突っぱねたわ」
 セリスは静かに言う。俯いていて表情は見えない。
 俺は彼女の隣に座ると肩を抱き寄せた。誰にでも過去がある。自分に言い聞かせて。
「一度優しさに慣れてしまったら、将軍である自分に戻れなくなりそうで、恐かった。でも彼にも無理をさせていたわ。私の副官として鋭利な顔を作って、兵士達にはずっとクールに振る舞ってた。だから彼がいなくなった時、どこかホッとした。同時に、初めて気づいたの。その人の存在は私をすごく支えてくれていたんだって……。そして私は帝国を裏切った。本当に一人になって、無理してまで生きている意味がないことに気づいたから。あなたに助けられた時も諦めてたの。将軍をやめるには、帝国を抜けるには死ぬという方法しかないと思ってたから」
 セリスは少しだけ顔を上げて俺を見た。
「ロック?」
 不機嫌そうな面だったんだろう。セリスは不安そうに俺の顔を覗き込む。
 セリスは気付いてないみたいだけで、あの男が好きだったんじゃ……? そんな考えが過ぎり、ああ胸くそ悪い。
 俺は何も答えずに彼女の唇を奪った。突然でびっくりしたようだが、試したくもなる。
 俺が彼女の柔らかい唇を堪能していると、両手で胸を押された。
「何よ、いきなり」
 少しムッとしている。照れているのとは何か違う。
「イヤなのか?」
「そうじゃないけど~」
「けど?」
「…………」
 セリスは頬を染めて俯いた。これは照れている反応だ。が、何故答えないのだろう。恥ずかしいだけじゃないから、だろう。
 アレクスに再会し戸惑っている。何故戸惑う必要がある! 俺は問いただしたい程に苛立ちを募らせ、
「イヤならそう言やいーだろーが」
 八つ当たり気味に言い放った。一瞬呆気にとられた彼女は、くしゃっと顔を歪め、
「な、なんでそういう言い方するの?」
 呟く。やべっと思って、素直に「悪い」謝ったが、彼女はそれには答えずに立ち上がった。
 そのまま部屋を出て行こうとするから、このままじゃ後悔しそうで、俺は立ち上がって腕を掴む。
「悪かったって言ってんだろ。怒るなよ」
 そう言って抱きしめると、彼女は小さく頷いた。


 夕食の後、セリスはさっさと姿を消した。
 いや~な予感が過ぎる。あの男の所に行ったに決まっている。
 勿論ただ懐かしいだけかもしれないが、それだけとも思えず、穏やかな心中ではいなれない。
 不満げな顔でアレクスの部屋の前まで行く。ちなみに廊下ではない。テラス側だ。
 盗み聞きが行儀の悪いことだということぐらいわかってる。どんなに非常識で失礼なことがかも承知している。が、やらずにいられなかった。
 それぐらい、今の俺はヤバいと感じていた。
「何度言ったらわかるの? 将軍はやめて」
 片方だけ開いたテラスへのガラス戸からセリスの声が聞こえた。
「すいません。くせで……」
「あなたも変わらないわね」
 セリスの呆れたような声。だが楽しそうだ。
「将軍……いえ、セリス殿は変わりましたね。あの頃よりずっと少女らしく、綺麗になった」
「な、何言ってるのよ」
 多分、セリスは顔を真っ赤にしているだろう。胸がムカムカする。
「あの頃の貴女は、儚い刺々しさを纏っていて、氷のように美しいけれど冷たさを放っていた。でも今の貴女はとても幸せそうだ」
「…………ありがとう。でも、難しいの。普通なんてわからないし。頑張りたいと思ってもどう頑張ればいいのかすら、よくわからないの」
 俺はセリスの言葉を意外に思う。何を頑張りたいというのか。
「優しそうな恋人じゃないですか。きっと貴女が輝いているのは、彼のおかげなんでしょうね」
 お、アレクスいいこと言うじゃねーか。
「そ、そんな……」
「本当です。僕も強くあれたら…………いえ、何でもありません」
 あれたら、の続きはなんだ? おい。
「アレクス、優しさと弱さは違うわ。それに私はあなたの存在にずっと救われていた。一緒にいた時はそんな風に感じる余裕なんてなかったけど、確かに支えられていたの。だからあなたがいなくなって、帝国で無理しているのが馬鹿らしくなっちゃったのね」
 俺はセリスの言葉を聞きながら拳を握り締めた。まるで愛の告白じゃねーか。
「でも貴女は死刑になるところだった」
「今生きているんだから、そんなことを言う必要はないわ」
「僕は……何度も後悔しました。貴女をさらってでも逃げなかったことを……」
「アレクス……」
 セリスの声が掠れる。涙を我慢している時の声だ。
「ありがとう」
「貴女を守れたらと、ずっと願っていました。まるで死を願うように戦闘に立ち傷付くことを厭わない姿が痛くて……。なのに、僕は逃げ出した。なんて奢ったことを考えていたんだろうと思います。そんな器じゃない」
「そんなことない。ちゃんと守られていたわ。私の心を、あなたは無理をしてずっと守っていてくれた。耐えきれなくなるまで無理をさせてしまったんだと、私も後悔したもの」
 セリスはどんな顔をしてそれを言っているのか。多分、今、この瞬間、俺の存在は彼女の心にないのだろう。
 なんだか泣きたくなってくる。聞かない方が良かったかもしれない。
「セリス殿……」
「甘えすぎていたと思う。その時は自分の事で精一杯だったけど……。あなたがいてくれたから今の私があるわ」
  それを聞いていた俺は、ついに耐えきれなくなりその場を離れた。

 途中、セッツァーとすれ違い、多分察したのだろう。俺はすぐ顔にでるから。
「セリスのこと、信用できないのか?」
 声を掛けられ振り返った。
「……あんたが俺の立場だったら、どうだ?」
 俺は問い返す。セッツァーは口元を歪め、
「考えたくないな」
 どういう意味なのか。一言もらし行ってしまった。
 俺は城の塔の一つに登る。見張り塔より頭一つ低いものだが、何のためにあるのかは不明だ。フィガロ城は謎が多いから、そんなことどうでもいいんだが。
 半月より少しだけ大きい月が、ぽっかり浮かんで俺を照らした。砂漠で見る月はすごく大きく見える。初めて見たときはすごく感動した。だが今は自然を見て綺麗だとか感じる余裕はゼロ。
 信用していないんじゃない。わかっていてもイヤだった。
 子供じみた独占欲だと知っているけど、彼女の瞳が他の男を映すのはイヤだった。とくに今回は、セリスの昔の男に近いものがある。話を聞いていると互いに好意を持っていたようだ。その時に気付かなかった想いが再燃することはよくあるだろう。
 でも、あの男にはセリスを渡したくなかった。誰が相手でも勿論イヤだが、セリスを一人置いて逃げたなんて───考えながらハッと気付く。
 アレクスのことを言えた義理だろうか。セリスに好きだと言っておきながらレイチェルに拘り続け、あげく魔導研究所で彼女を裏切り者だと思った。たくさん傷付けている。その分幸せにしたいと思ってきたけど、そんなの俺の勝手な自己満足だ。幸せにすることで罪が薄れるなどと思っているだけの欺瞞だ。
 考え始めると更に沈みそうだった。
 俺にどんないい所がある? 彼女に愛してもらえるだけの何かがあるだろうか。彼女に対する気持ちは誰にも負けない自信がある。必ず彼女を幸せにしたいと思っている。それだけだ。それを十分と人は言うだろうけれど、そんなのストーカーだってそうだろう。思いこみに過ぎない。
 無論、彼女が俺を好きだと言ってくれる限り、俺が自分の魅力なんぞについて悩むのは無駄で無意味な事だとわかっている。でもそれは余裕にはならない。感情と理屈は完全に別だから。
 もっと大きく包んであげられればいいが、こと、彼女に他の男が近付くことに関しては、微塵も寛容にはなれないんだ。気にしていないフリをするのが精一杯で、結局は我慢が溜まり八つ当たりのようにイライラした態度になる。それじゃ我慢している意味がない。
「はあ……」
 石の分厚い手すりにもたれ、盛大なため息をついた。

 

■あとがき■

 やっぱり前後編になってしまいました。シリアスです。オリキャラ登場。こういうのもアリかと思って。セリスはこれから出会う誰にも心惹かれることは有り得ないでしょうから、こういう形でライバルを出現させてみました。なかなかいい設定じゃない?
 しかし相当中途半端なところで切れています。他に切るところがなかったので……。後編はこのすぐ後から続きます。
 このままロックが彼女に八つ当たりを続けていれば本当にセリスはアレクスの元へ行ってしまう……!?(予告っぽいですが、書いてみたかっただけです)
 ちょっとロックが落ち込みすぎですね。悶えるどころか、沈んでます。シリアスすぎたのかも……。後編で全てが明らかに(なんてほどのものはなんにもありませんが) (03.7.25)

〔後編〕

 

 お前を失うかも知れない───
 それが俺にとってどれほどの恐怖か、お前は知らないだろう。
 レイチェルを失ったときに、一生で一番だろう絶望を味わったつもりだったけれど
 お前がいなくなることを考えるだけで体が震える。
 籠の中に閉じこめてしまいたい。
 守りたいと同時に俺は破滅的なことを考える。
 鎖を付けて、羽をもいで、飛び立つことが出来ないように───
 そんなことできるはずがないとわかっているのに。
 俺はお前を想う。
 失いたくない。
 俺だけに微笑み、俺だけを愛し、俺だけに見せてくれ
 まだ誰にも見せたことのない、お前の素顔を───

 

†  †  †

 

 延々沈んでいく不快な思考の中、何も目に入らず、何度目になるかわからないため息をついた。
「どうしたの?」
 俺は完全に塞ぎ込んでいたから、突然掛けられた声にめちゃくちゃびっくりする。
 少しだけ振り返った。声でわかっていたが、そう、セリスだ。
 正直今は、本当に余裕がない。
 彼女を無理矢理ものにしてめちゃくちゃにしてやりたいとさえ思う。
 それを感情に任せて実行するほど馬鹿じゃないが、話をするだけで傷付けそうだった。
「悪い、頭冷やしたいんだ。一人にしてくれないか?」
 できるだけ静かな口調で告げると、彼女はギョッとしたように目を見開いた。低くて威圧感のある声になってしまったかもしれないが、これで一杯一杯だ。
「……?」
 ぽかんと呆気にとられるセリス。どうして突然そんなことを言い出したのかわからないのだろう。
「ど、どうしたの? 頭冷やすって……」
 心配そうに近付いてくる。
 大体、彼女は鈍感すぎやしないだろうか。単なる嫉妬だよ。そう、嫉妬。ヤキモチ! つーか、気付いて自重するとかねーのかよ。
 また八つ当たり思考になりつつある。
 俺は自分の気持ちを持て余していた。
 多分留まることを知らないのだろう。情熱と呼べば聞こえがいいが、稚拙な独占欲は押しつけでしかない。
 それは───愛じゃなくて恋だからだろう。俺は彼女に恋をしている。二十六にもなった男が、二十歳にもならない少女に。
 恋に余裕があるはずがない。レイチェルの時の方が余程愛に近かった。
「何でもないんだ」
 ため息混じりに呟くと、彼女は俺に触れる寸前で立ち止まり俯いた。
 気まずい沈黙。
 セリスがすぐ近くにいるというのに、俺の気分は微塵も浮上しない。ますます落ち込むだけだ。
 彼女を抱きしめたいとも思わない。今はできれば触れたくない。近寄りたくない。俺の中の凶暴な獣が顔を出しそうになるから。
 なんか、突然、気付いちまった。
 俺は大人のフリをしてるからイライラすることになるんだと。
 彼女にカッコ悪いところを見せたくなくて、いい男でありたいから、正直無理してるんだと思う。結局空回ってるんだ。
 素の俺を見たら彼女はゲンメツするかもしれない。大人のフリをしている俺を好きになったんなら、全然あり得る。
 つーか、全く何も我慢せずに生きてる人間はいない。そしたら世の中が成り立たないから。結局、どこまで他人が許容できるかを見きわめてみんな行動している。それが常識の範囲内ってやつだ。
 多分、俺が思いのまま行動したら、常識の範囲内を逸脱する。間違いなく道を外れる。加減してやればいいのかもしれないが、そんなの今更無理だ。ここまで溜め込んでしまったら、爆発寸前なのだから。
「戻るな」
 セリスが動かないのなら俺がいなくなるしかない。
 ここまで切羽詰まってるのは、正直自分でも珍しいと思う。
「え……」
 セリスはまた呆然とする。が、悪いが気遣う余裕は本当にない。
 が、俺が階段を下りようとするとセリスが追ってきた。
「待ってよ。あの、本当にどうしたの?」
 どうしたもこうしたもねーよ! 今すぐここでやらせろ!
 そりゃもう非常識なことを怒鳴りつけてやりたい。無論、本気かというと、違うのだが……。
 ただ怒りを消化するために彼女を傷付けたいだけだ。
「なんでもねーよ。暫く放っておいてくれ」
 俺は吐き捨てるように言う。
「な、なんで? どうしたの? あの、何か……怒らせるようなことした?」
 セリスは泣きそうな顔で言う。
「別にお前は何もしてないよ」
 そう。セリスは何も悪いことなどしていない。別に浮気したわけでもない(あの後何もなければだが)。
 ただ俺が気に入らないと勝手に思っているだけだ。いつの間にか自分の対する怒りも加わって、感情を消化できないだけだ。
「お前は悪くないんだ。ただちょっとイライラしてるんだ。悪いな」
 俺は冷たく言って、立ち尽くすセリスを置いたまま部屋へ戻った。
 眠ってしまえばいい。そしてこんな感情など忘れるべきだ。
 言い聞かせて、ベッドに横になった。

 

†  †  †

 

 セリスはわけがわからないまま置いて行かれ、はらはらと涙を零していた。
 ロックはああ言ったが、なんか今日は変だと思う。
 食事の時も無口だったし、不機嫌そうだったかもしれない。
 正直、アレクスに再会したことで、気にしている余裕がなかったけれど……。
 こういう時、誰かに相談すればいいのかもしれないけど、誰に相談していいのかわからなかった。
 エドガーならいいアドバイスをくれそうだが、今は訪れる気にならない。この間酔っぱらった時に言われた事を少しは気にしていた。今回は「こんな夜に泣きながら部屋に来るとはどういうつもりだい?」とか言われそうだ……。
 セリスは必死で涙を押し止めると、結局、アレクスの部屋に向かった。

 

†  †  †

 

 あれからすぐ寝ることができた。ふて寝は得意だ。
 が、明け方目が覚めてしまった。時計は4時半を指している。
「…………眠くねえっ」
 がっくりして体を起こした。
 が、イライラは引いていた。今日はセリスに謝ろうと思う。昨日は冷たい態度を取りすぎただろう。
 朝の一服でもしようかと、俺は着替えて部屋を出た。

 フィガロ城の外に出るにはアレクスの部屋の前を通る。客室は同じ並びだから当然だが、そこで俺は信じられないものを見た。
 セリスがアレクスの部屋から出てきた。ドアの隙間から微笑みかけると、照れたように破顔してから扉を閉める。幸せそうな笑顔だった。
 俺の方へ歩いて来ようとして彼女が固まる。俺も一瞬固まった。
 何故、こんな時間に……? こんな明け方まで何を?
 一つしか思い浮かばない。有り得ないと 思いたいけれど……他の何かが浮かばなかった。
 おさまっていたはずの痛みと怒りが同時に復活する。昨日の数百倍で。
 俺は戸惑っている彼女に向かって早足で近付いた。
 彼女の前で立ち止まると半眼で視線を向ける。彼女は少しだけ俯きがちにしていたが、先に口を開いた。
「あの……こんなに早くどうしたの?」
「別に目が覚めたから煙草でも吸おうかと思っただけだが?」
 俺は抑揚のないでも威圧感を含んだ口調で言った。見下したように。
「…………少し、話してもいい?」
 その言葉に俺は眉をひそめた。彼女からそんなことを言ってくるとは……。「さようなら」か?
 俺は何だか急に怒りが冷めて虚しくなった。終わりとはこんな唐突に訪れるものなのかもしれない。
「余り聞きたくねーけど、なんだ?」
「えと……、ここじゃ、ちょっと……」
 セリスはきょろきょろと周りを見回す。薄暗い明け方だが、兵士や女中はもう起きている者もいるだろう。確かに別れ話なんて、他人に聞かれたくねえ。
「ロックの部屋でいい?」
「……別に」
 俺が答えると、彼女は胸の前で組んでいた手に力を入れて歩き始めた。
 俺の部屋は一番端だ。逆の隣がないから声も聞かれないだろう。
 部屋に入ると彼女は背を向けたまま俺が扉を閉めるのを待っていた。
 俺はある決心をしてなるべく音を立てないように扉を閉める。
   パタン
 その音を聞くと、セリスは唐突に口を開いた。
「あの…………」
「あ゙?」
 俺の異常にぶっきらぼうな返事に、彼女は向き直って顔を上げた。必死に痛みに耐えている表情。
 人をフるのは勿論、フラれる方は当たり前だがフる方も大概は痛い。ましてやこれからもまだ仲間でいなければならないのだ。
 が、そんなことはどうでもいい。
 俺はこれから更に彼女を傷付けるだろう。俺を愛さなくなってしまった彼女の心など、守る気はもうなかった。
 今までの俺だったらそんなことはなかっただろうけれど、それだけ俺の怒りは深く、心は壊れかけていた。
 どうせどんなに傷付けたところで、あの男に慰めてもらうのだろう。俺の行為は二人の絆を深めるだけのことかもしれないが、どうでもよかった。
「別に、そんなつもりじゃなかったの」
 セリスが言った。何が「そんなつもり」なんだ!
「じゃあ、どういうつもりだったんだ?」
 俺は怒りに満ちた顔で彼女に近付いた。いつもよりも小さく見える彼女は、震えながら必死に言葉を探す。
「ただ懐かしくて……」
 答えた彼女に首を傾げたくなる。彼女は俺が怒っていた理由に気が付いたのだろうか。なんだか釈然としない。が、今はそれもどうでもいい。
「へえ? で? 朝帰りか?」
 俺が言ってやると、彼女はカアッと顔を朱に染めた。
「な、なに言って……」
 俯いて先程より小さい声で動揺したように呟く。
 俺の中で様々なものが崩れていく。愛なんてすごい下らないものかもしれないとまで思った。そのうち壊れすぎてケフカみたいになるかもしれない。
 自分が可哀想だとは思わなかったけど、ちょっと自己悲嘆に浸りすぎていたと後で思った。大体女に裏切られたぐらいで世界を壊すなんてどう考えたって発想が飛躍しすぎている。時間が経って冷静になってみれば、甘ったれたことを考えていた自分が恥ずかしくなったが、その時は相当参っていたらしく、すべてを投げやりに考えていた。
「その……ちょっとロックのことがわからなくなって……相談しに行っただけじゃない」
「ふーん。それで? 慰めてもらった?」
「だから、どうして……」
 顔を上げて俺を見た彼女は固まった。俺は相当剣呑な目つきだったろう。獰猛な狼のようだったかもしれない。俺は今まで彼女にこんな顔を向けたことはなかった。怒るのだってムッとする程度だった。
 彼女は涙を溢れさせて怯えたように縮こまる。
「どうして? 当然だろ?」
 俺は更に彼女に近付いて腕を取った。
「い、痛いよ」
 嘆いたが知らない。優しくするつもりなど毛頭ないからだ。
「奴は優しかっただろう。優しい奴の方がいいよな」
 自嘲しながら、そのまま腕を引き彼女の体をベッドに投げ出した。
「きゃっ。……ロック……?」
 俺はバンダナだけ外すと、彼女を組み敷いた。
 彼女は視線を逸らさずに、怯えながらも不思議そうに俺を見つめている。
 どうしてそんな目をするんだ? 俺がこれから何をしようとしているのかわかってるのか?
「ロック、私のこと信用できないの? 私が他の人とそんなことするなんてあると思ってるの?」
「…………俺は壊れてるんだよ」
 俺は己を鼻で笑った。そうでなければこんなことできるはずがない。
「私のこと、抱きたいの?」
 随分率直に聞いてきた。真っ直ぐに向けられた視線に、俺は一瞬怯む。
「そうだって言ったら?」
「…………いいよ……」
 彼女は強張らせていた体から力を抜いた。俺は意外な行動に面食らう。いい? いいってなんだよ。
「抱けば、わかるでしょ?」
 ぽろぽろと涙を零し始めた彼女の言葉に、俺は急激に頭が冷えるのを感じた。残ったのは巨大な虚無感。
「……悪かった」
 俺は彼女を離すと、背を向けてベッドに腰掛けた。
 何を考えていたんだろうと深く嘆息する。
「いいよ。戻れよ」
 俺は力無く告げる。自己嫌悪と後悔でいっぱいだ。非常識にも程がある。溜め込んだ結果がこれだった。
「……俺はこういう奴なんだよ。多分、お前には相応しくないんだ」
 そう言ったのは強がりだった。見損なったと言われる前に、自分で言ってしまった方が楽だったから。
「ロック……」
 セリスが体を起こすのがベッドの軋みで分かった。彼女の顔を見ることはできなかった。
 また傷付けた。散々傷付けて、今度こそ絶対に守ろうと誓ったのに……!
「泣いてるの?」
 セリスに言われて気付いた。俺は泣いていたらしい。
 自分が情けなかった。自分の馬鹿さ加減に嫌気がさして、たまらなくなって、涙が止まらなかった。
 俺は愚か者だ。きっと天国でレイチェルが怒っているだろう。背中を押してくれたのに……。
「ロック…………」
 不意に背中から腕が回った。温かく柔らかなぬくもりに俺はギョッとする。俺は戻れと言ったはずだ。
「ごめんね」
 セリスが呟く。何故彼女が謝るんだろう。
「私、鈍感だから、全然気付かなかった。アレクスに笑われちゃった。……嫉妬、してたの?」
「………………ああ」
 今更隠しても仕方がない。足掻いたってどうにもならないんだ。
「そっか……」
 彼女の声が柔らかくなり、俺の胸に回している腕に力が入る。
「あのね、ちょっと……恐かったけど、でも、嬉しかったよ」
 彼女の声が甘く聞こえる。何故彼女は未だにここにいるのか俺にはわからない。
「……何が?」
「ん? だって……ロックがヤキモチ妬いてくれるなんて思わなかったもの」
 俺が大人っぽいフリをしていたから、だろう。
「お前は、怒ってないのか?」
「え?」
「がっかりしてないのか? 俺は……お前が想像してるより遙かにガキだ」
「そう?」
 彼女が首を傾げたらしいのがわかる。なんだかその返事に拍子抜けだ。
「でも、前よりロックが身近になったみたいだわ。何考えてるか余りわからなかったけど、少しだけ知ることができた。ヤキモチってことは、その……私を……独占したいって思ってくれてるってことでしょ?」
 彼女は恥ずかしそうに言う。俺は彼女の腕を外して振り返った。
「思ってるよ。いつも思ってる」
 俺は諦めがちな表情で言った。全てをさらけ出して告げるのは勇気がいるが、諦めてしまうとどうでもよかった。
「私には……ロックだけ、よ」
 伏し目がちに頬を染めるセリスは可愛らしい。与えられた言葉に、俺は少しだけ沈んでいた心が浮上する。
「さっき、ごめんな」
 素直に謝ることができた。セリスは首を横に振り、
「ううん。びっくりしたけど…………でも、本当に嫌じゃなかったの」
「…………え?」
「だから……その……八つ当たりだとしても…………その、抱きたい、なんて思ってくれてるのが…………嬉しかったの。……女として、そんな風に見てもらえないかもって……思ってたから」
 彼女の声が尻窄みに小さくなっていく。俺は俯いている彼女を抱きしめた。
「さっきは確かに八つ当たりだったけど、でも、いつも思ってるよ。お前が欲しいって」
「──────どれくらい?」
 なんつーことを聞くんだ!
「多分聞いたら引くぞ」
「……知りたい」
 何で知りたいんだ! くそっ、そんなの言いにくいんだ。
「閉じこめて一晩中……いや、三日でも一週間でも、ずっと離したくないぐらい、か。多分、もっとだな。……何度も、無理矢理にでも抱いちまおうと思ったよ」
 結局俺は言った。彼女の反応が見たかったからだ。
 セリスは顔を真っ赤にして小さくなる。
「無理矢理になんかならないよ」
 そして呟いた。俺は頭がくらくらして、ちょっとやばいと思う。
「……所で、お前は何してたんだ?」
「え? その、相談に行って……グ、グチを延々零してしまいました。頑張れって言ってくれたけど呆れてたと思う」
 俺が醜い嫉妬にかられていたことがバレバレ。はあ、奴とは顔を合わせたくない。セリスは何を言ったんだろう。
「てことは、寝てないんだろ?」
「うん……」
 じゃ、駄目だ。あああ、せっかくのチャンスなのに。恐ろしく残念だ。急ぐ事なんてないかもしれないけど、今(本当は常にだが)、彼女が欲しい。
「それなら少しでも寝た方がいい。もう5時過ぎだぞ」
 あと2時間ほどなら眠れるはずだ。
「う、ん……」
 俺が彼女を解放すると、彼女はアイスブルーの瞳を俺に向けた。冷たいはずの氷色が、潤んで熱を帯びているように見える。
 だから、そんな目で……。
 ハタと気付く。きっと彼女は望んでいてくれているのだ。俺と同じように。
 だが今日の昼間絶対に疲れが出る。調子が悪くなるかも知れない。ここで彼女を眠らせるのが常識人だろう。せっかく彼女が望んでくれているのに……俺の中で相反した気持ちが葛藤する。
 あと四日でケフカに挑む。それまで暫く予定は入っていない。準備期間だ。それならセリス一人が寝ていたところで大丈夫かもしれない。などと俺は都合良く考え始めた。
 ここで我慢できれば、俺も大人なのかもしれないが別に構わない。大人じゃなくたってそんな世間一般はどうでもいいさ。
「眠いか?」
「余り眠くないわ」
「ふーん。じゃ、あと1時間もすれば眠くなるよ」
「???」
 俺はにっこり笑うと、彼女を素早く組み敷いた。
「……な、なんでニコニコしてるの?」
「そりゃ嬉しいに決まってるだろ?」
 俺は彼女にキスの雨を降らす。そのうち彼女もくすくす笑いだした。
「なんだよ?」
「ううん。嬉しいの」
 そう言った彼女を目を合わせ、二人で微笑んだ。

 指を絡ませ、俺は深い口づけをする。たどたどしく答える彼女が愛しくて、柔らかい唇を割って舌を絡ませた。
 彼女の熱い吐息を貪って、そっと頭を撫でる。

 全てを忘れて彼女に全神経が集中する。募る愛しさが溢れ出て、どこまでも深く彼女を求めた。
 甘い吐息が可憐な唇から漏れる度、俺は更に彼女に夢中になる。

 ぎこちなく答え、恥ずかしそうに俺を求める姿を前に、俺に理性は残っていなかった。

 ただ愛しくて愛しくて、白い肌に俺の印を刻み込んだ。

 もう、俺のものだ───
 何があっても、誰にも渡しはしない。

 心も体も一つになって溶け合ってしまえばいい。
 このまま全てが混じり合って、永遠に離れられなくなってしまおう。

 お前を傷付けられるのも、守るのも、俺だけだ───

 

†  †  †

 

 目が覚めたのは陽が高くなってからだった。
 誰か起こしに来たのかもしれないが、まあいいや。
 俺は隣で幸せそうに寝息を立てる恋人を抱き寄せ目を閉じた。
 もう一眠りしよう。
 次目覚めたときも、きっと幸せだ。

 

・ fin ・

 

■あとがき■

 はやさん、いかがでしたでしょうか。ロックはブルー入りすぎだったかもしれません。が、相手はそれだけの強敵にしてみました。このオリキャラ以外には考えつかなかったです。全てにおいて強敵かな、と。
 基本的に、celes's story以外では、セリスはケフカを慕っていなかったことにしてます。決裂した理由を考えるのが大変だとか色々ありますが、私的にはケフカはきっと最初からとんでもない奴だったと思います。最初は優しかったとは思えない……。だってあれは壊れすぎだもの(ケフセリ否定派なわけではありません。その前提で話を書くのが苦手なだけです)。なので、その前提でいくと、こんな強敵オリキャラも出てきました。レオやシドよりも更に近くにいた人です。表面上の触れ合いがゼロだった分、プラトニックでちょっと悶えるでしょ? なんて……すいません。調子に乗りました。
 私は男の人が悶える内心を書くのがめちゃくちゃ好きです。一人称でないとなかなか書けないのですっごく楽しかったです。もっと悶えろ~って感じですよね。オリジナル小説は他人の内心ばかりってわけにはいきません。ですが、二次創作は設定や過去にあらかじめ下地があるので、えんえん悶えでもOKで、もう、幸せです!
 ただ、最後は子供っぽいヤキモチにはならなかった……。すいませんでした(謝ってばかりですね)。大人っぽいヤキモチでは全然ないけど、年齢で言うなら高校生とか? 可愛くないヤキモチでした。ちょっとノイローゼ気味だったということで、あんなひどいことをしようとしてしまったと……え? 鬼畜っぽい(ごめんなさい。本当にごめんなさい……反省します)? 有り得ない? ですよね。でもたまには壊れたロックもいいな……と。ドキドキするでしょ?(←開き直るな!) 結局リク通りの話は2番目だけかも……本当に申し訳ありません。私の力不足です。
 つたない作品ではありますが、これをもって、はやさんに捧げさせて頂きます。素敵なリクをありがとうございました! これからも万象の鈴の桜をよろしくお願いします☆ (03.07.27)

【この頁で使用させて頂いた素材サイト様】 ClipArt:Salon de Ruby

Original Characters

アレクス・スライク

ベクタ出身。将軍時代のセリスの片腕をしていた男。優しすぎるため、サウスフィガロ制圧の前に逃げ出した。フィガロの砂漠で行き倒れになっているところを助けられ、セリスと再会する。

※「Retry」のアルフレッドとは似てるけどちょっと設定違います。