wish


side : Celes

 振り向いて欲しい。いつもそう思ってたの。
 私の思いを感じ取って、振り返って欲しいと。


side : Lock

 振り向かないでくれ。いつもそう思っていた。
 そうすればずっとお前を見つめていられるから。


 成功率は30%。低いのか高いのかわからない。私の視線がチクチクして気に障るかな?


 気付かないでくれといつも思っていた。本当はまだお前を見つめる資格なんかない。


 不安になるけど見つめずにはいられない。見つめていたい。
 みんなといても、探しているつもりもないのにあなたに目がいってしまう。あなたの姿が見えないと不安になる。


 だけど、気持ちっていうのは勝手に溢れてきて止まらないもので───。気付くと俺はお前を見つめている。
 そのくせお前を想う度罪悪感が俺を苛む。


 私、いつからこうなったんだろう。

 あたたは優しいけど、それは私に特別っていうわけじゃなく誰にでもで……。

 あなたの心を占めるのはレイチェルさんで……。


 お前が他の誰かに微笑む度、俺は苛立ちを募らせる。 そんな風に感じていい立場でもないくせに、結局それで君に八つ当たりしている自分がいる。


 私に向けられる少しの好意も、あなたの傷を拭うための自己満足に過ぎないってわかってる。
 期待したって無駄だってわかってる。
 私みたいな女を、あなたは放っておけないだけ───。


 本当は不器用で泣き方も知らない君を、抱きしめたいと何度も思った。だが、衝動的にそれができるほど、俺は不誠実じゃない。
 その剣を握るには細い腕を掴んで引き寄せるだけでいい、力を入れることもない動作が、俺にはできない。


 あなたを好きになるのに、時間は必要無かった。
 真っ直ぐに心を向けられることに慣れていなかった私は、あなたの真摯な瞳に射抜かれてしまった。
 片思いでも良かった。仲間としてあなたの傍にいられるのなら。


 ケリを付けたいのは、本当はレイチェルのためでも、お前のためでもなく、オレ自身のエゴだった。
 わかっていたけれど、でも、このままじゃ前に進めなくて、そうするしか俺には無かった。
 お前に惹かれていたから、お前と真っ正面から向き合いたくて、どうしてもやらなければならなかった。


 

 でも、あの時───

 


 だけど、あの時───

 


 魔導研究所で、私は勘違いしていたことを知った。仲間としての絆さえ持ってはいなかったのだと。


 俺は決定的な間違いを犯した。お前を信じていなかったわけじゃない。


 あなたにふられてしまうより辛かった。人間としての私さえ、信じてもらえなかった。


 一瞬の驚愕と躊躇。俺の弱さがお前を傷付け、俺から遠ざけた。


 それでもあなたを嫌いになれはしなかった。好きだから苦しくて、嫌いになれずに余計に辛くなった。


 もう取り返しはつかないのか───。二度と後悔したくない、そればかりを願って生きてきたのに、結局俺は後悔ばかりだ。


 再び仲間として迎えてくれたけれど、私は諦めなければいけないと自分を何度も諫めた。
 あなたの優しさが、取り繕うだけのものに思えて。全てが自分と別の場所で進行しているようで───


 お前は戻って来たけれど、明らかに心の傷を増やしていた。まだ少女なのに帝国の将軍として生きてきた人生を振り返っては苦しんでいたのを知っていたのに。


 本当の願いにすら、目をつぶってしまう。自分の本当の願いなど、虚しいだけだから。


 ありのままの心をぶつけられればどんなにいいだろう。でも、まだそれができない。俺が過去に捕らわれたままだから。


 ねえ、私を捕まえて。その手に掴んで離さずにいて。


 本当はいますぐ浚って行きたいよ。お前が傷付かなくていいように、閉じこめてしまいたい。


 本当の願いなど、そんなもの───無意味だ。


 間に合うだろうか。俺がケリをつけたときでも、遅くはないか?


 フと顔を上げるとあなたと目が合った。

 フと横を見ると、お前と目が合った。


 何故か、まだ、大丈夫、そう思った。


 何故だろう、待っていてくれるような、そんな気がした。


 あと、どれくらい? 沸き上がってきた思いは何に対しての疑問なのか。


 そう長くは待たせないよ。俺が、はやくお前を抱きしめたいから。


 私に向かって微笑んだ彼の笑顔は、今まで見たどんな時よりも優しかった。


 俺が微笑むと、彼女は一瞬泣きそうになったけど、儚さと幸福の混じった笑みをそっと漏らした。


「待っててくれ」

 思わず零れ出た言葉。


「え?」

 唐突な言葉に、私は意味が分からない。


 俺はわかっていないままでいいと思い、もう一度微笑んだ。これは俺の問題だから。待っていろなどと言う資格すらないのだから。
 だが、彼女は言った。


「うん、待ってる」
 私は答えた。何の事だかはっきりとわかったわけじゃない。ただ、微笑んだ彼の視線が余りに穏やかで。自然とそう答えていた。


 俺の幸せまで、あともう少しかもしれない───ぼんやりとそんなことを考えた。


 

・ fin ・

 

■あとがき■

 苦手な一人称を対照的に置いて作りました。ぼーっと考え事をしていた二人みたいなシュチュエーションです。
 また、最初と変わってしまいました。いっつも切ない苦悩を書こうとして、結局中途半端しか書けない。キャラを不幸にできないのね、私。(03.03.24)

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