絶望と希望


1

できれば知りたくなかった
と言うよりも
真実を知るのが怖くて逃げていただけかもしれない
だけど

いつかはつきつけられる現実・・・




ケフカを倒す為旅を続けていた一行だったが、エドガーの公務があまりに滞っていた為、
数日間フィガロ城に滞在することになった。

「皆、すまない。この大事な時期に・・・」
エドガーは皆に向って本当に悪そうに謝った。
もう離れ離れになったメンバーも全員戻ってきていて、
後は装備やアイテムを整えて瓦礫の塔に突入するだけ、と意気込んでいた矢先の出来事だった為に
他のメンバーの意気消沈を招きかねないと、エドガーは不安になっていた。
「なーに言ってんだよ。気にすんなって」
最初に口を開いたのはロック。
いつもの様に明るい口調で話し始めた。
「だってエドガーは王様なんだから、公務優先なのは当たり前だろ?
 それに、ケフカは逃げないしな。あそこから、ずっと俺たちを見下ろしているんだ」
ロックに促されて一同が視線を向けた先には、
世界中、どこからでも見ることができてしまうくらい巨大な塔。
世界崩壊を招いた張本人のケフカが居城にする為に立てた塔だ。
「ケフカ・・・倒せば全てが終わる・・・」
セリスがつぶやいた。
「俺たちが、死力を尽くしてでも倒さなければならない相手」
ロックも真っ直ぐ瓦礫の塔を見つめていた。
ケフカは気に入らないことがあるとすぐに裁きの光で街を焼き払う。
フィガロ城もいつ標的にされるかわからない。
「できるだけ早く公務を終わらせるよ。
 それまで皆は城で英気を養っていて欲しい」
エドガーは皆に言いながら、城の入り口のドアを開けた。

「へーぇ、これがお城の客室なんだぁ。すっごい豪華ねっ」
ティナとリルムと同じ部屋に割り当てられたセリスが興奮した様子で二人に同意を求めた。
二人もセリスに同感して、キョロキョロと部屋の中を見渡している。
「見てみて、すっごい眺めっ」
開け放たれた窓から、一面の砂漠とはるか遠くに海が見えた。
「本当、凄くいい眺めね」
リルムの横に立ったティナも窓から顔を出して外を見渡した。
「でも・・・」
城の東の方を見たティナの表情が曇った。
「どんなに綺麗な風景があっても、必ずあの塔が写りこんで来るわ・・・」
先ほど外で見た巨大な塔が客室からも見えた。
塔の辺りは怪しげな雲が立ち込め、稲妻も見える。
「早く・・・倒さなくちゃね」
3人はその後、日頃の旅の疲れもあって
各自のベッドに横になると眠ってしまった。

「おぅ、カイエンとストラゴス何してるんだ?」
男性メンバーに割り当てられた部屋の片隅で
カイエンとストラゴスが何やら赤と黒の棒の様なものを移動している。
「おぉ、マッシュ殿。これはチェス、と言うものでござる」
カイエンが駒を動かしながら答えた。
「ふーん、よくわかんないけど頑張ってな。俺、兄貴の様子見てくるわ」
とマッシュは部屋を出て行った。
「そういえば、ロックはどこへ行ったゾイ?」
ストラゴスがふと顔をあげて部屋の中を見渡した。
「さぁ・・・?そんなことよりストラゴス殿、チェックメイト、でござる」

一方その頃ロックは、城内にある託児所にいた。
フィガロ城には多数の女性が働いている為、その子供を預かる託児所があった。
リターナ組織とフィガロ城を情報交換の為にしょっちゅう行き来し、
そのたびに子供たちと顔をあわせていたので、すっかり顔なじみになっていた。
「あ、ロック兄ちゃん」
「久しぶりー」
「おみやげはー?」
ロックが託児所のドアを開け、顔を覗かせた途端
子供たちの元気な声が一斉にロックに向けて発せられた。
「おー、みんな元気にしてたか?」
ロックは1人1人の頭を撫でてやりながら、
トレジャーハンティングで手に入れたささやかなお土産を
子供たちに手渡していった。
「コレ何ー?」
「それはコインだ。昔の人が使っていたお金だぞ」
「ふぅーん」
子供たちに一通り声をかけ終わると、託児所の責任者の女性の元へ向った。
「フィリスさん」
奥の部屋で書類とにらめっこしていた女性が顔をあげた。
「まぁ・・・ロックさんではないですか。いついらしたの?」
フィリスは30代後半の女性で、茶色い髪をひとまとめにして結い、
メガネをかけている。
フィガロ地方伝統の衣類を身に付けたフィリスはゆっくりと椅子から立ち上がり、
スカートの裾を踏まないように気をつけながらロックに近づいてきた。
「つい、先ほどです。城についたら真っ先にここに来ようと思って・・・。
 そういえば、今子供たちに声をかけてきたんですけどルイとハルナがいなかったみたいですが・・・」
その言葉を聞いた途端、フィリスの顔が曇った。
「ルイとハルナは亡くなりました・・・。あの子達はモズリブ出身なのです。
 里帰り中、丁度裁きの光の襲撃にあって・・・」
フィリスの背後にある棚の上には、二人の写真がかざってあった。
ルイは男の子。こげ茶色の髪の毛で元気いっぱいで運動が得意な男の子だった。
ハルナは女の子。金髪を二つに結い上げた、目の大きい笑顔が似合う女の子だった。
「・・・そうですか・・・・・・」
ロックは二人の写真に近づくと、手を合わせた。
そして、二人の写真の前にもお土産を置く。
「ほら、ルイ、ハルナ。お土産だぞ。お前たちにも後で土産話をしてやるよ。
 ケフカを倒した時の話をな・・・」
その言葉を聞いたフィリスが驚愕の表情になった。
「ロックさん、まさかケフカを倒すおつもりですかっ?」
「・・・あぁ。俺やエドガー、マッシュ、それと仲間達。必ずケフカを倒してみせる」
フィリスは目に涙を浮かべた。
「あぁ、ロックさん。なんて無謀なことを・・・。あのケフカを倒すだなんて・・・。
 でも、もしそれが出来るならばお願いします。あの狂った男を倒してください!」
「・・・必ず、倒します」
そう言い残して、ロックは託児所を後にした。

「エドガー様。コチラの書類に判子を」
「エドガー様。この国の今年度の予算についてですが」
「国王様、サウスフィガロの貴族の屋敷の者たちの処罰についてですが・・・」
エドガーは公務室に閉じこもったまま、山のように机に積まれた書類に目を通していた。
長い間留守にしていた為、締め切りが迫ったものも多かったし
本日中に決断を下さねばならぬものもあった。
家臣たちも又、この日を逃すまいと仕事をいくらでも持ってくる。
「エドガー様、リターナから書簡が届きました」
「陛下、フィガロ城周辺の砂漠の緑化計画についての案なのですが」
「王様、税金を安くしろとの国民の声があります・・・」

結局、エドガーが開放されたのは夜中だった。
「ふぅ・・・」
自室に戻る為に公務室から外に出ると、空は満月だった。
「おぉ、見事な満月だな・・・」
しばらく月を眺めてから、別のドアを通り抜けて図書室の前を通りかかった。
「エドガー様、夜中に申し訳ありません。少し・・・よろしいですかな?」
ふいに声をかけられ振り向くと、先王の時からフィガロ城に務めている
研究者が分厚い古文書を片手に立っていた。
「あぁ、すまない。明日にしてもらえないか?」
流石のエドガーも疲れ果てているので、手を振って下がらせようとした。
「・・・できるだけ、早くお話したいのです。誰もいない所で」
研究者のただならぬ様子に、エドガーの顔が険しくなった。
「とりあえず、どうぞこちらへ・・・」
研究者は誰もいない図書室のドアを開けた。

「ん・・・?」
夜中になってからセリスはふと目が覚めた。
そして、散々砂漠を歩いて汗びっしょりだったのに
そのまま眠ってしまっていたことに気が付いた。
「うわ、ベタベタ・・・。お風呂入ろう」
眠っているティナとリルムを起こさないようにそぉっとベッドを抜け出すと
セリスは浴室に向った。
フィガロ城の客室には風呂がない。
砂漠の真ん中と言う水に不便しやすい場所にある為、
個別に風呂を用意することができないのだ。
セリスはフィガロ城の長い廊下を歩いて浴室に向った。
エドガーの部屋の近くを通ったが、まだ戻ってきてはいないらしい。
その代わり、公務室の明かりが窓から見えた。
「まだ仕事してるみたい・・・王様って大変ね・・・」
脱衣室には誰もいなかった。
セリスは一応周りを見渡して、本当に誰もいないか確認してから服を脱ぎ始めた。
セリスが服を脱いでいくうちに、帝国兵時代の痛々しい傷跡が見えてきた。
太ももにつけられた数字の入った刺青。
恐らく、まだ将軍になる前に帝国で教育を受けていた際につけられた
管理番号なのであろう。はっきりと「09」と刻まれていた。
セリスはタオルでその刺青を隠すと、大浴場の中へ入った。
もう夜中なので、水の節約の為に風呂の中心にあるお湯の噴水は止められ、
ジャグジーも動いていなかった。
セリスは汗と砂でベドベドの体を洗い始めた。
砂や汗は洗えば落ちるけど、決して消えることのない刺青。
そこを指でなぞると、他の部分とは違うざらついた感触。
人間の肌のものとも思えない。ぞっとしたセリスは手を離してお湯を流した。
顔や髪も洗い終えると、セリスは浴槽につかった。
噴水は止まってしまったが、お湯はまだ温かかった。
砂漠の夜は寒い為、セリスはしばらくぼーっとお湯に浸かっていた。
「・・・この戦いが終わったら、どうしよう」
今はまだ、ケフカを倒すと言う目標があるし、それに伴って居場所があるけど
ケフカを倒して、みんなもとの日常に戻ったら、私はどこにいけばいいの?
「・・・元々帰るところなんてないし。おじいちゃんも死んでしまった。
 私、どうすればいいんだろ・・・」
結局、結論が出ないままセリスは風呂を出た。
フィガロの客室に用意してあった部屋着に着替える。
「うゎ、さっすがエドガーの趣味って感じね・・・」
真っ白いワンピースなのだが、所々にレースやリボンがついている。
苦笑しながらも、セリスはそれを身に付けた。
汗でべとべとになった元の服を着るつもりはなかったし、
それに、こういう服が嫌いではない。
「昔は・・・スカートなんてはかせてもらえなかったしね」
ヒラヒラした服なんて闘う時に邪魔だから、いつもボディスーツかパンツだった。
パンツも動きやすいデニムなどが主で、オシャレな要素があるものは
一切支給されていなかった。
それに、禁欲主義の帝国において数少ない女性兵士であるセリスは
男の帝国兵たちの性の対象になりかけた為、あまり刺激しないようにと言われていた。

先ほど来た道を戻っていくと、途中で図書室の前を通った。
その時、中から話し声が聞こえた気がして、セリスはそっと中を覗きこんだ。

「・・・それは本当か?」
「はい。エドガー様のお仲間のセリス様とティナ様はケフカを滅ぼした後、
 ケフカと共に消えてしまう可能性があります」
「・・・何故だ?」
「セリス様とティナ様は魔導の力をお持ちです。
 人工的に魔導の力を注入されたセリス様と、幻獣とのハーフのティナ様は
 我々が研究した結果、同じような存在なのです」
「それがどうして、二人が消えることになる!それに我々だって、魔石を使って魔導の力を得ているぞ!」
エドガーは顔を真っ赤にして立ち上がった。
今にも研究者に掴みかからんとしている。
「エドガー様たちの力はケフカを倒して魔導の力が消えれば、それと一緒に消えてしまいます。
 だが、セリス様とティナ様は長い間魔力と共に生きてきました。
 その体に、魔導の力が染み付いてしまっているのです。
 現に、エドガー様達は魔石を持っていなければ魔法を覚えることはできませんが、
 彼女たちは戦闘を重ねて行くにつれ、魔石を持っていなくても魔法を覚えていくでしょう?」
確かに、魔石を装備していないのにティナはファイガ、セリスはブリザガを覚えた。
「しかし、そんなことを言ったらストラゴスはどうなのだ!?
 彼は魔大戦で魔法を使っていたものたちの子孫で魔力を持っているぞ!」
「彼らの魔法は、1000年もの長い月日を得て若干変化しております。
 彼らの魔法はティナ様やセリス様のものとは違いますし、血が薄いです
 ですので、彼らが消える可能性はきわめて低いでしょう」
「・・・・・そうか」
エドガーはがっくりと肩を落とし、椅子に座りなおした。
その時、ドアの影に金髪が見えたような気がした。

(・・・うそ。消える?私が・・・?)
セリスはドアの影に隠れて震えていた。
なんとなく、予感はしていた。
長い間、魔力に依存して生きてきた自分が魔力がなくなった後どうなるか
考えてみなかったわけでもない。
「・・・だけど・・・」
「・・・セリス?」
急に話かけられて、心臓が飛び出るかと思った。
驚いて振り返ると、不思議そうな顔をしたロックがたっていた。
「何してんだ、こんなとこで」
「え・・・」
部屋着姿で廊下から図書室を覗き込んでいるんだから、
不信がられてもしょうがない。
「あ・・・ううん。なんでもない」
セリスは逃げるようにその場を立ち去っていった。
「?なんだあいつ」
ロックが不思議そうに図書室を覗き込もうとした時
「おや、ロックじゃないか。どうした、こんな時間に」
中からエドガーと研究者が出てきた。
「では、私はこれにて・・・」
研究者はエドガーに一礼すると、セリスが向ったのと反対方向に歩いていった。
「んあ?こんな時間まで仕事してたんか?」
「・・・ん?・・・あぁ、そんなところだ」
「へぇ。大変だな。そういえばさ、今セリスがここにいたんだけど、様子が変だったんだ。
 何か、よそよそしいって言うか、焦ってるというかさ。何か知らない?」
(・・・やはり聞かれてしまったか)
エドガーは心の中で舌打ちをした。
いつかは本人たちに言わなければと思ったが、言葉を選んでからにしようと思っていた。
だが、その機会を持たぬまま、セリスに聞かれてしまったのだ。
「・・・エドガー?」
「あぁ、すまない。・・・悪いが、明日にしてくれないか?
 私は朝から公務で疲れているんだ」
エドガーはこれ以上その事実が口外するのを恐れ、足早にその場を去っていった。
「なんなんだよ、どいつもこいつも・・・」
その場に残されたロックもまた、ぶつぶつつぶやきながらも寝室に向っていった。

逃げるように部屋へ戻ってきたセリスは、そのままテラスへ出た。
空には相変わらず満月が明るく砂漠を照らしていた。
そして、遥か彼方に小さく瓦礫の塔が見えた。
瓦礫の塔は一切外に明かりが漏れてこない為、夜間は真っ暗だった。
「ケフカ・・・私たちが倒さなければならない相手・・・」
そうつぶやくとセリスは腰を折り、手すりに手をつき、顔を埋めた。
「でも・・・奴を倒した時、私はっ・・・」
「どうしたの?」
背後から優しい声と同時に、ストールがかけられた。
「ティナ・・・」
いつの間にかティナも風呂に入ったらしく、セリスとお揃いの部屋着を着て
まだ髪の毛が湿っていた。
「今戻ってきた所だったんだけど、窓が開いていて外にセリスが見えたから・・・。
 そういえば、図書室の前にいたよね?何してたの?」
ティナの笑顔を見た瞬間、我慢していた涙が堰を切って流れ出した。
「ティナッ・・・私・・・私たち・・・・っ。
 ケフカを倒したら、消えちゃうかもしれないんだってっ」
セリスはさっき、エドガーと研究者が話していたことを全てティナに話した。
ティナはただ、「うん、うん」と相槌を打ちながらセリスの話を聞いていた。
そして、セリスが一通り話し終わったところで、セリスを抱き締めた。
「ティナ・・・?」
「セリス、私たち・・・消えちゃうかもしれないけど、それで世界は元に戻るのよ。
 魔導の力なんて、この世にあってはならないもの。
 私たち魔法使いなんて存在も、この世にいてはいけないの」
ティナはまるで初めからわかっていたかのように語る。
「ストラゴス達サマサの人たちみたいに、隠れて、村以外の人を拒否する様な生き方、
 私にはできないから・・・。帝国の魔導戦士って肩書きは、帝国に大好きな人を
 殺された人たちから見たら、一生許せない存在よ。例え力を失っても」
ティナは3分で50人の帝国兵を殺し、遺族から非難を浴びていた。
「だから、私の命でこの世界が救われるなら、私はそれでいい」
そういうとティナはセリスを離した。
ティナは相変わらず優しい笑みを浮かべている。
「ティナ・・・」
「それに、私たちが消えちゃっても皆の記憶の中に私たちは残るでしょ?
 誰かが私のことを覚えていてくれればそれでいいわ」
そういうと、ティナはきびすを返した。
「ほら、セリス。もう寝ましょう?こんな冷たい砂漠の風に当たってたら
 風邪引いちゃうよ。最終決戦も近いんだから」
セリスの手を引き、ティナは部屋へ戻った。
薄暗い部屋を月明かりが照らす。
その月明かりに照らされたティナの顔は強く、儚く、悲しげだった・・・。

 

+ + + + + + + + + +

 

■あとがき■

連載物の第一弾となります。
この話はまだ書いてる途中ですが、一番好きかもしれません。
恋愛要素ゼロでしたね・・・・・(汗。
次回は結構、ラブラブ&非恋が一番強い回だと思われます。
03/16/2006 風峰夏代

2

結局 私の存在は否定されるべきもので
この世には留まっていてはいけない存在で

私たち魔法使いの存在は
1000年前の悲劇を思い出させるだけで

だから・・・



結局、昨晩は全く眠れなかった。
と言うより、眠りたくなかったのかもしれない。
もしも最終決戦の後、消えてしまうのならば
それまでに少しでもこの世界を見ておきたいと思う。

「おっはよー・・・ってあれ!?セリスどうしたの?目の下真っ青だよ!?」
ベッドの上でぼーっと座っていた私は、いつの間にかリルムもティナも起きたことに気付かなかった。
「えっ・・・あ、うん。なんでもない・・・」
「セリス・・・」
ティナの悲しそうな顔が目に入ってきた途端、思わず目をそらしてしまった。
今はティナの顔を見ることができない。
見るのが怖かった。自分も消えてしまうかもしれないと言うのに
どうしてティナは平然としていられるのか。
まるで当たり前のようにそれを受け入れる覚悟ができているのか。
到底理解できなかった。
「えー、大丈夫じゃなさそーだよ?色男に頼んでお医者さん連れてこようか?」
リルムが元気のないセリスに向ってドアに向って走って行く動作をしてみせた。
「ううん。大丈夫。ちょっと考え事してただけだから・・・」
フラフラする体をどうにかベッドから離す。
そして、ノロノロと着替えを始めた。
「あ!セリス待って!今日はエドガーの提案でみんなお揃いの洋服着ようって」
リルムが折角セリスが着替えた服を無理矢理脱がせた。
「えっ・・・ちょっとリルム!返して!!」
リルムは「嫌だよー」と洋服を持って部屋中を駆け回り、
ティナが笑顔でティナたちとお揃いの服を手渡してきた。
「今日は男性陣もお揃いの格好をしているんですって。楽しみね。
 早く着替えて見に行きましょう」
リルムは相変わらず部屋の中を駆け回っていて、服を返してくれる気配はない。
セリスは諦めて、ティナから渡された服を身に付けた。
薄いピンクのワンピース。両肩の部分は可愛いレースになっていて、
胸元には大きなリボン。裾は段々になっていて暑い砂漠ではとても快適な衣装だ。
「さぁ、着替えたわよ。リルム、いい加減洋服を返して頂戴」
未だ部屋を駆け回っていたリルムに声をかける。
リルムはセリスがワンピースを着たことを確認すると、
ようやくセリスに洋服を返した。
そのままセリスが洋服を仕舞うのを確認している。
セリスが洋服を仕舞い終わると、リルムは出口に向いだした。「さー、朝ごはんにレッツゴー!」
ようやくご飯が食べれるのでリルムはご機嫌だ。
ティナとセリスはリルムに促されるようにして食堂へと向った。

「おう!やっと来たか、ねぼすけども」
食堂に入るなりいきなり茶々を入れてきたのは勿論セッツァーだ。
「しつれーなっ。そんなに遅れてないでしょーっ?」
先頭で入っていったリルムがセッツァーの腹を叩いた。
「5分は立派な遅刻だぜ?乱暴なおチビ様」
片手で腹を抱えながら方をすくめて見せた。
その様子を見てティナはクスクス笑っていたが、セリスは笑う気になれなかった。
その場に呆然と立ち尽くしている。
「おぅ。どうしたセリス?腹でも痛いんか?」
二度目のリルムの攻撃を喰らったセッツァーが、両手で腹を押さえながら言う。
セリスは我に返ったかのように、慌てて弁解した。
「あ、ご・・・ごめんなさい!ちょっと考え事してて・・・」
セッツァーは不信そうな顔をしたが「そうか」とそれ以上つっこまなかった。
「やあやあ、みんなお揃いかい?」
セリスの後ろから、エドガーが顔を出した。
「ふむ。皆揃っているようだね。じゃぁ食事にしようか」
エドガーが手を二回叩くと、メイドたちが料理を運んできた。
朝と言う事でシンプルで栄養がとれるものがメインだ。
「おーっ。うまそう!」
マッシュがせかせかと大皿から自分の皿へと料理を移して行く。
「城の飯は久しぶりだからな。たらふく食わないと」
マッシュがあまりにもたくさんの量を取るので、一同は唖然としてマッシュを見つめていた。
「ん?どうした、みんな食わないのか?」
マッシュがキョロキョロと一同を見渡す。
「いや・・・お前凄い食うのな・・・」
隣に座っていたロックが呆れたように言う。
「このままぼうっとしていたら、マッシュ殿に全部食べられてしまうでござる」
「うむ。ワシらも頂くとするゾイ」
ストラゴスの一言で、一同は我に返ったかのように食べ物を自分の皿へ移しだした。
「ん~っ、美味しい!」
リルムは一口頬張って、恍惚の笑みを浮かべた。
「幸せ~」
それを見ていたセッツァーがニヤニヤしながら
「お前、そういうところはまだまだガキだよな」
とぼやいた。
「ははは、遠慮はいらないからどんどん食べてくれ・・・おや、セリス。口に合わないかい?」
エドガーはセリスが殆ど食べていないのに気が付いた。
「え、いえ。そういうわけじゃないの・・・」
「そういえば、昨晩から様子がおかしかったよな。どうかしたのか?」
ロックもローストビーフを口に運びながらセリスを見た。
「え・・・それは・・・」
食堂に沈黙と気まずい空気が流れた。
みんな食事に手を伸ばすのをやめて、セリスを見つめている。
「・・・・・・・」
セリスはどうしていいのかわからなくなって、俯いてしまった。
「ごめんなさい。何でもないの」
それだけ言うのが精一杯だった。
「しかし・・・本当に大丈夫かい?よかったら医者に・・・」
エドガーが言い終わる前に、セリスは立ち上がった。
「本当に、大丈夫だからっ!私、もういいや。ごちそうさま」
「あっ、セリス!」
ロックが引き止める声も無視して、セリスは食堂を出て行った。
「・・・セリス、どうかしたのか?」
フォークにソーセージがささったままのマッシュがティナに訊ねた。
ティナは少し困ったような顔をした。
「それは・・・」


食堂から逃げるように立ち去ったセリスは、誰も通さないで欲しいと警備兵に
念を押した上で、フィガロ城にある人口の庭に来ていた。
砂漠の厳しい気候でも育つように品種改良された草花や、
地下深くに潜った時にくみ上げている地下水を巡回させて作った噴水が
水をすくっては落としを繰り返している。
セリスは噴水の傍に座り込むと、噴水の縁に寄りかかり、左手を水の中に入れた。
ひんやりと冷たい水が、徐々に手の体温を奪って行く。
その水の流れを見ているうちに「輪廻」と言う言葉が頭を過ぎった。
「・・・私、消えたら生まれ変われるかしら?」
生まれ変われるかもしれない、だけどもう二度と生まれ変われないかもしれない。
だって自分は元常勝将軍・・・大罪人だから・・・。
セリスは左手で水を叩いた。波紋が広がり、やがて消えた。
思えば、自分の人生はロクなものではなかったな、とセリスは思う。
物心ついた時から両親はおらず、帝国で他の子供たちと育てられていた。
やがて、一般の子供たちが就学する年齢になった時、
セリスたちは一斉に魔導の注入を受けた。
100人近くいた子供たちの中で生き残ったのは僅か10名ほどだったか・・・。
その10名のうち9人の子供たちも、その後の反作用や厳しい訓練の中で
命を落とし、最終的に残ったのがセリス。
最初で最後の魔導の注入を受けた人間の成功例だった。
そうしてセリスは一般教養と帝国への忠誠心をみっちり叩き込まれるカリキュラムと
一歩間違えれば命を落とす危険な訓練の毎日を乗り越え、
若干15歳にして将軍を名乗ることを許されるようになった。
そうして帝国を裏切るまでの3年間で、一体どれだけの街を滅ぼし、
どれだけの命を奪ってきただろうか。
「私は・・・消えて当然の人間・・・よね。
 生きてちゃいけないの・・・だって、私は・・・」
(汚れすぎた・・・)
最後の部分は声には出さなかった。
言うのがつらかったし、背後から誰かが近づいてくる気配がしたからだ。
セリスは立ち上がり、その場を立ち去ろうとした。
「待てよ」
その人物は思ったよりもずっとセリスの近くにいたようで、
あっという間に手をつかまれた。
そしてその声は、間違いなく自分が愛する人のもの。
「・・・・・」
セリスは振り返らなかった。
振り返ったら、全てが崩れてしまいそうな気がして。
黙ってその手を振り払おうとした。
だが逆に、セリスを捕まえる手の力は強くなるばかり。
やがて、観念したセリスが手を振り払おうとするのをやめると
セリスを捕まえる手の力も緩んだ。
沈黙が流れ、聞こえてくるのは噴水の流れる音ばかり。
その噴水も、水を流すのをぱたりとやめてしまった。
残るのは、微かなせせらぎ。
「ティナに、聞いた」
心臓が一つ、大きく鳴った。
胸が苦しい。声を出すこともできない。
知られてしまった、真実を。
「お前がいなくなるなんて、俺は嫌だ」
揺るがせてしまった、ケフカを倒す闘志を。
どこからか吹いてきた風がセリスの金髪を、ワンピースを優しく撫でた。
風が止むと、髪とワンピースは静かに元の場所に戻った。
また沈黙。
どこからか優しい旋律が聞こえてくる。
これは・・・アリア?
セリスが初めて覚えた歌。
生涯で、たった一つだけ覚えた
ロックへの気持ちを迷いから確信に変えた歌。
今にも消えてしまいそうな程小さい旋律が、確実に二人の下へ届く。
きっと、誰かが演奏しているのであろう。
気が付くと、ロックの手はセリスの手から離れていた。
セリスが緊張の糸を解こうとした途端、後ろから優しく抱き締められた。
「セリス・・・」
胸が痛かった。
このままロックの胸の中で思い切り泣きたかった。
消えたくないと叫びたかった。
だけどそれをしたらロックはケフカを倒すのを辞めるといいだすだろう。
そうしたら、今まで何の為にここまで旅を続けてきたのかわからない。
昨日ティナが言っていた
「私の命でこの世界が救われるなら、私はそれでいい」
そう、この世界の運命は自分たちにかかっている。
自分たちが戦いを放棄したら、間違いなくこの世界はケフカによって滅びる。
それに、自分たちもケフカとの戦いで命を落とすかもしれない。
だから今、自分が消えるかもしれないなんて考えるのは辞めよう。
今はただ、ケフカを倒すことだけ。
その後のことは・・・考えないようにしよう。
セリスはロックの手を優しく外すと、今度はセリスの方から抱きついた。
いつの間にか噴水が流れ始め、アリアは聴こえなくなっていた。
「ロック、私、あなたと会えてよかった・・・。
 だって本当は私、サウスフィガロで死んでいたはずだったんだもの」
思い出す、処刑寸前の出来事。
見張りの兵士が眠り込んだ隙に、ロックが連れ出してくれた。
そうして今まで一緒にやってきた。
時にはお互いを信じられなくなったりした時もあったが
こうしてまた、巡り合えた。
「ここまで生きてこられたのはあなたのお陰・・・。
 だから、今度は私があなたを守る番。あなたの生きる未来を私が守るわ」
「セリス・・・」
ロックはセリスの顔を上に向かせると、深く口付けた。
また風が吹いて、セリスの髪が靡いた。
庭に咲き誇る花も風に吹かれ、花びらが舞った。
ロックは口をそっと離すと耳元で囁いた。
「明日、瓦礫の塔に乗り込むことになったから・・・」
そう言い残すと、ロックはセリスの頭をポンと叩き去っていった。
セリスはロックの後姿を見送った後、
「私は自分が消えない可能性に賭ける」
噴水に向ってそう言い放つと、あふれんばかりに降り注ぐ太陽を
何時までも見上げていた・・・。

 

+ + + + + + + + + +

 

■あとがき■

連載物の第2弾目です。
珍しく早い更新。我ながら頑張りました。
何だか、思ったより非恋にならなかったです・・・。
表現力が乏しくて、あまり高度な内容は書けなかったのが本音(汗。
セリスの態度とか、仕草とか、頭には浮かぶのにな~。
次項はいよいよ、ケフカとの決戦です。
セリスの運命は??
03/21/2006 風峰夏代

3

人がもう二度と過ちを繰り返さないように
魔法と言うものが永遠にこの世から消え去るように
瓦礫で作られた塔の最深部にいる狂った男

必ず 倒してみせる

例えこの身が消え去ったとしても・・・




瓦礫の塔に、3箇所同時に攻め入ることになった。
グループは
ティナ、エドガー、ストラゴス、カイエン
ロック、セリス、リルム、モグ
マッシュ、セッツァー、シャドウ、ガウ
に別れることになった。
お互いの再会を約束して、皆一斉に駆け出した。
もう二度と会えないかもしれない。
もう二度とこの空を見ることはないのかもしれない。
だけど振り返ることだけは絶対にしなかった。
必ずケフカを倒す。
彼らはそれだけを考えて走っていた。

『太古に忘れ去られし滅びの魔法よ! フレア!!』
ティナの髪や服があふれんばかりの魔力の所為で激しく靡く。
ティナが頭上にあげた両手のすぐ上に魔力の塊が発生する。
そしてそれはあっという間に鬼神を包み込んだ。
すかさずエドガーの機械とカイエンの必殺剣で攻撃を加え、相手に反撃のチャンスを与えない。
ストラゴスも得意の青魔法で応戦する。
鬼神はあっという間に倒れた。
ティナたちは少し休憩することにした。
グループで移動を始めてから強敵ばかり相手にしてきたし、
今の鬼神戦でかなりの体力を消耗したからだ。
グループに割り当てられたアイテムで体力を回復する。
「う~、いつまでたってもこのポーションの味は苦手~」
ティナが可愛い顔をゆがめた。
それをストラゴスが笑いながら見て、ポーションを一気飲みした。
「この味がわかるようになるには、お前さんはまだ少し若いんだゾイ」
その言葉にティナはムキになって
「ケフカを倒したら絶対にポーションを一気飲みできるようになるんだからっ」
と言った。
その瞬間、皆の顔が曇ったがティナは気付かないふりをした。

一方、マッシュ、セッツァー、シャドウ、ガウたちは
特に問題はなかったが、特別仲の良い者たちでグループを組んだわけではなかったし
どちらかと言うと肉弾戦メインなメンバーで進んでいたので
会話もなく、黙々とダンジョンを進んでいった。
「しっかしケフカのやろーもよくこんなところに住もうと思うよな」
突然、セッツァーがぼやいた。
無言で歩いていくメンバーに耐えられなくなったのだろう。
「ま、あいつの趣味だし。俺がどうこう言う問題じゃねぇか」
急に前を歩いていたマッシュの動きが止まった。
「あん?どうしたマッシュ?」
するとマッシュと後ろにいたシャドウは既に戦闘態勢に入っている。
ガウも、まるで獣のような唸り声を上げていた。
見ると、目の前に三闘神のうちの1人が待ち構えていた。
「・・・マジかよ」
セッツァーは舌打ちをすると三人と同じく戦闘態勢に入った。
このメンバーは魔法が得意ではない。
できるだけ致命傷は喰らいたくない。
すぐバーサーカーになってしまうガウには補助魔法をかけてもらうことにして
シャドウとセッツァーは飛び道具で応戦し、
唯一格闘技が得意なマッシュだけが接近戦で挑むことにした。
「くっ、流石は三闘神!半端ないぜ・・・」
技を繰り出すも中々手ごたえを得られない。
寧ろ死の宣告など、やっかいな攻撃を受けてしまった。
手早く倒さないとこちらが全滅してしまう。
「俺らは・・・こんなところで倒れるわけにはいかない!必ずケフカを倒すんだ!!」
そう渇を入れたマッシュは気合を貯め始めた。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
その間にも容赦なく攻撃をしかけてくる三闘神からマッシュを守りつつ、
セッツァーとシャドウは攻撃を繰り返す。
「どけ!」
マッシュの怒鳴り声で三人はさっと身を引っ込めた。
「喰らえ!夢幻踏舞!!!」
マッシュは物凄い勢いで攻撃を繰り出した。
そのあまりの速さに、マッシュが何人もいるように見える。
このマッシュの必殺技を受け、三闘神はようやく倒れた。
「すげーぜマッシュ、いつの間にそんな技を!?」
セッツァーの呼びかけにマッシュは答えない。
「マッシュ?」
セッツァーが肩を掴むと、マッシュの膝が崩れた。
「!おい、マッシュ!!」
「・・・意識がない。気を失っているようだ」
シャドウが冷静に判断する。
「しばらく寝かせてやれ。俺が周りを見ている」
そう言うとシャドウは少し離れた場所に座り込んだ。
「『俺が』ってことは俺らも休んでいてもいいわけだ・・・。
 そうなら素直にそう言えばいいのに。素直じゃねぇなぁ」
そう言うとセッツァーはタバコを取り出した。
「セッツァー、臭い」
ガウが鼻をつまんで嫌そうな顔をする。
「バーカ、いい匂いってんだよ。こういうのは。
 お前も後10年経ったらわかるぜ」
ガウは聞いていたのかいないのか、道具袋から干し肉を取り出して食べ始めた。
「・・・あいつら、大丈夫だろうな・・・」
セッツァーは遠くを見つめるとタバコの煙をふぅ、と吐きだした。

「ったく、なんなんだよこの塔は!」
ロック、セリス、リルム、モグは迷っていた。
「似たような景色が続くから、わけがわからないわ」
4人ともかなりの疲労の色が見える。
同じ場所をぐるぐる歩き続け、強敵と戦いまくりで体力が殆ど残っていなかった。
「ね、ねぇ~休憩しようよ、休憩」
「クポ~」
リルムとモグの情けない声が聞こえる。
ロックは隣のセリスを見た。セリスもかなり息が上がっている。
「わかったよ。少し休もう」
そのロックの一言でセリス、リルム、モグの3人は床に座り込んだ。
「ほんと、何考えてんだよー。あのうひょひょ野郎。
 こんなわけわかんない塔なんかに住んでさー。だからおかしくなっちゃうんだよ」
「クポゥ!」
リルムとモグが意気投合してケフカの悪口大会を始めた。
その間に、ロックは自分たちが今まで歩いてきた所のマップを作成した。
トレジャーハンティングで鍛えた記憶力が役に立つ。
「うーん・・・この道で合ってると思うんだけどなぁ・・・、セリス、どう思う?」
マップから目を逸らさずにセリスに問いかけたが、返事がない。
「セリス・・・?」
不信に思ったロックがセリスを見ると、セリスはどこか遠くを見つめていた。
その視線の先にあるのはただの壁だったが、セリスはもしかして
もう二度と見ることもないかもしれない青空を壁の向こうに見ているのではないだろうか。
そう思うと苦しかった。
「セリス」
ポンと肩に手を置くと、ハッと我に返ったかのようにロックを見つめた。
「え、ゴメン。何?」
冷静を装う。
「・・・大丈夫か?」
セリスはワケが分からない、と言う表情をした。
「いや・・・なんでもない」
そっと被りを降ると、ロックはリルムとモグに向き直った。
「リルム、モグ、そろそろ行くぞ。その悪口はケフカに直接言ってやれ」
ロックに促され、4人は再び塔の最深部へと進みだした。


それから、各グループとも無事に塔の最奥へとたどり着いた。
そして現在、12人は目の前にいる男と対峙している。
世界崩壊を引き起こした張本人、ケフカ。
彼を倒せば世界は救われる。
人々が待ち望んだ世界の平和。
世界が救われると同時に、魔法は失われる。
今度こそ、跡形もなく・・・。

「ふん、虫けら共が。ぼくちんに勝てると思っているのか?」
ケフカの喋り方は相変わらずだったが、その雰囲気は以前と比べ物にならないくらい
邪悪で、恐ろしいものになっていた。
以前から白くて細かった体が余計白く、細くなり、
まるでガイコツのようなそれが服の隙間から覗いていた。
「あぁ勝つさ!勝ってみせる!そして世界をお前から救ってみせる!!」
ロックがケフカに向って叫んだ。
するとケフカはキョトンとした後、可笑しくてたまらないと言う感じに
いつもの高笑いをした。
「お前は本当にバカな男ですねぇ。ぼくちんを殺せば、お前の愛するセリスがどうなるか
 知らないわけじゃないんでしょう?」
そう言ってセリスを見た。
「まぁいいや。天国でお前をお人形にするのも悪くはないね」
そのセリフを聞いた瞬間、仲間の顔色が変わったが、以外にもセリスは
表情を変えなかった。
「あぁ、お前とあの世で決着をつけるのも悪くはないな・・・」
そう言って、真っ直ぐ剣を突きつけた。
それが戦闘の合図だった。
ケフカは再び大きく高笑いした後、その姿を変貌させた。
いつもの派手な衣装は全て消え去り、
その背中からは白と黒の羽根が生え、腰には布を巻いた姿だ。
「こいつ、自分を天使かなんかだと思ってんのか?」
マッシュが信じられない、と言う顔つきでケフカを睨み付けた。
「天使などではない。神だ」
そう言うとケフカは突然、メルトンを放った。
「きゃぁぁぁぁぁ」
「わぁぁぁぁぁぁ」
自分をも傷つける上級魔法メルトン。
しかしそれを喰らってもケフカは全く表情を変えない。
一方こちらの状態は悲惨だった。
魔法に耐性のあるセリス、ティナは比較的ダメージが少なかったが、
殆どの者が倒れ、辛うじて意識はあるものの立つことが出来なかったり、
数名は気を失ってしまったようだ。
『誇り高きラクシュミよ 癒しの力を我に ケアルガ』
いち早く体制を立て直したティナが回復魔法を唱える。
「はぁぁぁぁぁっ!」
その間に、セリスはケフカに切りかかる。
ケフカの皮膚が裂け、血が流れたがケフカは相変わらず薄笑いを浮かべている。
「お前の力はそんなものか?そんなものじゃぁぼくちんは倒せないよ?」
そう言うと、ケフカは大きく羽ばたいた。
『カオスを越えて 終盤が近づく』
すると普通では到底考えられないような魔力が辺りを包み始めた。
このままではやられてしまう。
「ティナ!二人で一気に攻撃をしかけましょう!!」
ティナとセリスはケフカが魔力を貯めている間に
詠唱を始めた。
『現せ 禁断の魔法 我前に立ちはだかる輩を滅せよ アルテマ!!』
二人が同時にその手をケフカに向けると
ケフカは青白い魔力のドームに包まれた
「しまった!」
魔力を高めることに集中していたケフカは、二人がアルテマを唱えたことに気付かなかった。
青白いドームはやがて大きくなり、最後に激しい魔力の暴走を起こすと、
一瞬にして飛び散った。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ケフカの激しい叫び声が辺りを包み込む。
しかし、ケフカの魔力も十分に高まっていたらしく
ケフカもダメージを受けつつも攻撃をはなってきた。
『ミッシング』
ケフカの声が聞こえた後、何が起こったのかわからなかった。
気付くとセリスはティナの下敷きになって倒れていた。
「ティナ・・・?」
返事がない。
ふと、ティナがまるでボロ雑巾のような姿になっているのに気付いた。
そして、自分は大したダメージを追っていないことにも。
「ティナ、まさか私を庇って・・・?」
そっと頬に触れてみると温かい。呼吸もしっかりしている。
恐らく、気を失っているだけだろう。
「ティナ、ありがとう」
ティナに回復魔法をかけると、よろよろと立ち上がった。
ケフカも床に倒れているが、まだ息はあるようだ。
ぜえぜえと荒い呼吸をしながら、必死に立ち上がろうとしている。
するとそのケフカを踏みつけて、剣を突きつけた人物がいた。
「ロック・・・」
ロックはこちらを振り返らない。
ただ自分の足元にはいつくばっているケフカを眺めていた。
「一つ、聞きたい」
ケフカを踏みつけ、剣を突きつけたまま抑揚のない声でつぶやく。
「お前を殺しても、セリスが消えない可能性はあるのか?」
するとケフカはロックを見上げ、嫌らしい笑みを浮かべた。
「・・・知らないね。お前は昔の女も守ってやれなかった最低な男だろう?
 私を殺してセリスの生きる可能性も奪うのか。安心しろよ。セリスは私があの世で可愛がってあげるから」
「貴様っ・・・!!」
ロックが剣を振り上げた・・・だが、ロックはそれを振り下ろすことができない。
ロックの額を汗が流れ、振り上げた剣を持つ手が震えた。
「殺したければ殺すがいいさ。お前の愛するセリスがどうなるかわからないがな」
ケフカは力なくいつもの高笑いをした。
「っ・・・・!」
ケフカはロックの足を掴んだ。
「さぁ、どうする?・・・まぁ、待つつもりなんてないんだけどさ」
ロックの足を掴むケフカの手から光が発せられる。
そして、肉の焼ける嫌な臭いと煙が立ち込め始めた。
「あぁぁぁあああぁぁぁ!!!!」
激しい激痛に激しく絶叫するロック。
その場から逃げようにもケフカに強く足を捕まれ逃げられない。
逃れる為にはケフカを殺すしかない。
しかし剣を振り下ろすことができない。
足がもげそうな激痛に意識が遠のいてきた時、
ロックの振り上げた両手を、誰かが支えた。
「ロック・・・」
何があっても聞き間違えることなどない、愛する人の声。
「私、あなたと出会えて幸せだった・・・。
 あなたと生きてきたこの世界を失いたくない。
 私は、消えない可能性に賭けたいの・・・だから・・・」
ロックを支える手の力が強くなった。
「ケフカを殺して、ロック!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
まるで導かれるようにロックはケフカに向って剣を振り下ろした。
ケフカの目が見開き、吐血した。
ロックの足が開放される。
すかさず、ロックの背後に立っていた人物・・・セリスが回復魔法を唱えた。
骨が見えるほど焼かれていた足はみるみる治り、痛みも消え去った。
「くくく・・・」
まだ微かに息のあるケフカが可笑しい、と言うように微かに笑った。
「お前は世界と引き換えに愛する者を失うのだな・・・。
 魔法が消え去ると同時に、魔力を持つもの全てが消え去る・・・。
 ティナも・・・・・セリスも」
ケフカが足元から灰となり、宙にかき消されていく。
「永遠に苦しむがいい・・・。世界と引き換えに失ったお前の大事なものは
 私が永遠に可愛がってやろう・・・」
そう言うとケフカは大量に吐血し、その瞳を閉じた。
急激に灰化が進み、ケフカだったものは全て風で舞い上がっていった。

「終わった・・・」
振り返ると、気を失っていた仲間達も意識を取り戻し、
全員が空を見上げている。空は先ほどまで邪悪な雲が立ち込めていたが、
ケフカが舞い上がった直後に爽やかな青空が覗き始めていた。
一同が空を見上げていると、突然、足元が揺れた気がした。
「崩れるぞ!脱出しよう」
誰かが叫んだ。
皆が走り出そうとした瞬間、急に持っていた魔石の一つが宙に浮かんだ。
「魔石が・・・」
宙に浮かんだ魔石は「お別れだ」と言わんとしているかのように美しく輝くと
音を立てて崩れ去った。
「魔法が・・・」
「この世から魔法が消えて行く・・・」
皆が一斉にティナの方を見た。
ティナは黙って幻獣化すると、出口に向って駆け出した。
「皆ついて来て!最後の力で皆を安全な所へ!!」
皆一斉に駆け出した。ロックとセリスも手を取り走り出した。
魔石はどんどん砕け散っていった。
途中、ティナの父マディンの魔石も砕け散った。
最後に父マディンはティナの生き残る可能性を暗示した。
人間とのハーフだからもしかしたらこの世に留まれるかもしれない。
と言う事は、セリスも・・・?
隣を走っているはずのセリスを振り返ると、セリスがいない。
見ると後方で落としたバンダナを拾おうとして、崩れ往く瓦礫の塔の隙間から
今にも落ちそうになっていた。
ロックは慌ててセリスの元へ駆け寄り、セリスを抱きかかえて安全な足場へ移動した。
「バカ野郎!そんなものの為に!!」
怒鳴りつけつつ、セリスの手を引っ張ろうとした時、
一瞬、セリスの体が透けた。
掴もうとした手は虚しく空を掴んだ。
「え・・・?」
ロックは振り返り、セリスの姿を確認した。
セリスは確かにそこにいて、不思議そうな顔をしてこちらを見つめている。
「何をしている!崩れるぞ!!」
セッツァーに怒鳴られ、二人は慌てて皆の後に続いた。

飛空挺に戻るともうすっかり夜になっていた。
飛空挺に戻った後、シャドウの姿がなくなっていた。
彼にあてていた飛空挺の部屋から置手紙と写真が見つかった。
そこにはケフカを倒した後、自分は友の所へ行くと言う内容と
昔置き去りにした娘に幸せになって欲しいと言うメッセージがこめられていた。
写真に写っているのはまだ若い頃のシャドウに、美しい女性、
そして、くりくりした金髪の赤ん坊。
その写真と手紙はリルムに渡された。
リルムは黙ってそれを受け取ると、大事そうにポケットにしまい込んだ。
一同は皆空を眺めていた。
「倒したんだね・・・」
空を360度見渡しても、もう瓦礫の塔は写らない。
裁きの光に怯えることもない。
これから本当の平和が始まると誰もが期待と不安に胸を膨らませる。
「あ、見て流れ星」
セリスが流れ星を見ると素早く口の中で何かをつぶやくと
熱心に祈り始めた。
セリスの隣に立っていたロックは祈るセリスの姿がまた透けたのを見た。
「セリ・・・」
「あっ・・・」
ロックがセリスに話しかけようとした時、ティナのリボンが風で解け、宙に待った。
一瞬、皆がそれに注目する。
そして、再びティナに向き直るとティナの姿は消えていた。
そして、同じく確かに隣にいたはずのセリスの姿も。
「ティナ・・・・・、セリス?」
リルムがキョロキョロと辺りを見渡す。
「冗談でしょ?皆を驚かそうとして隠れてるんでしょ?
 出てきてよ。こんなときに冗談はなしだよっ」
しかし、いくら呼んでも叫んでも二人の姿はない。
飛空挺の中をどれだけ探しても、見つからなかった。
飛空挺の中の空気が一気に重苦しくなった。
ロックは、ケフカのセリフが耳から離れなかった。
『お前は世界と引き換えに愛する者を失うのだな・・・』
(殺したんだ、俺が・・・。ティナも・・・セリスも!)
ロックは自分の足を見た。ケフカによって切断されそうになった足。
セリスがかけてくれた最後の回復魔法によってその面影はどこにもない。
傷一つ残っていなかった。
「俺が・・・・・・」
きつく拳を握り締め、歯を食いしばった。
そうでもしないと、今にでも発狂してしまいそうで。
ロックの気持ちを察したエドガーがロックの背中をポンと叩いた。
そして、皆に提案する。
「皆、戻ろう。自分たちが本来いるべき場所へ・・・。
 そして自分たちの目で見るんだ。私たちが・・・守ったこの世界を。
 ティナとセリスが望んでいたケフカに怯えることのない、平和な世界となったこの星を!」
誰からも何の返事もなかったが、皆考えは同じだった。
そうして、1人ずつセッツァーによって帰るべき場所に送られていった。
ただ、モズリブにはロックとエドガーが赴き
「ティナは世界の復興支援の為に当分戻れないが必ず戻ってくる」
と根拠のない嘘を話てきた。
本当のことなど、言えるはずがなかった。
だが信じたかった。
ティナとセリスに再び巡り合える日を・・・。

 

+ + + + + + + + + +

 

■あとがき■

うっわ、すっごい暗い話になりました;;
ちなみに、ゲーム本来の設定とちょっとだけ設定変えてます。
じゃないと話がなりたたなかったので。
ティナとセリスは戻ってくるのでしょうか?
次回、エピローグ的な完結編です。
できるだけ早いアップを目指します!
03/30/2006 風峰夏代

4

世界から魔法が消え去って
人々は何も怯えることなく暮らせる世界になった

温かい日の光
小鳥のさえずり
小川のせせらぎ

耳を澄ませば 聞こえる気がする
あなたの笑い声も 一緒に




世界は平和になった。
瓦礫の塔が崩れ去った時、その振動は世界中に響き渡った。
それと同時に、ケフカが滅んだこと、世界が平和になったことが世界中に知れ渡ったのだ。
世界中の人たちは「英雄だ」と褒め称えてくれた。
だがその中に二人の少女の姿はなかった。
血眼になって探したが、世界中どこに言っても見つからず
結局、諦めて皆元の生活へ戻っていった。


「ロック兄ちゃーん」
フィガロの託児所に子供たちの元気な声が響いていた。
その中心にいるのはバンダナを頭に巻いた青年。
女の子を肩車して部屋中をぐるぐる歩き回っている。
その後ろを子供たちが走って追いかける。
「次は僕の番だよー」
「えー、あたしだよー」
ロックは今まで担いでいた女の子を降ろすと苦笑した。
「はいはい、順番な。次はライラの番。その次がエリックな」
瓦礫の塔が崩壊した時の振動で、殆どの洞窟は塞がってしまった。
一部の洞窟は辛うじて入り口を開いているものの、地盤沈下や落盤の可能性が高く
危険な為、フィガロが全力を挙げて再教育しなおした元帝国兵で結成する
警備隊によって立ち入りが禁止されている。
その為、ロックはトレジャーハンティングに出ることができず
代わりにフィガロ城の託児所で働くことになったのだ。
元々託児所の子供たちに好かれていたため、ロックはすんなり受け入れられた。
「ロックさん、いつもありがとうございます」
いつの間にかフィリスがドアの前に立っていた。
買物から戻ってきたらしい。
フィリスの持つカゴの中には美味しそうなパンが見えた。
「ご飯だーっ!」
子供たちは一斉にロックの周りからフィリスの方へ向っていった。
その間にロックは急いで折りたたみ式のテーブルを用意する。
いつの間にかすっかり慣れてしまった動作だ。
ロックがテーブルを用意し終わると、子供たちは自分専用の食器を持って
それぞれの席についた。
「ロックさん、子供たちにスープをよそってあげてくださる?
 私はサラダを用意しますので」
「はい、わかりました」
コンロに予めかけてあったスープの大鍋を持つと
キッチンを出て、先ほどのテーブルへと向う。
「ほーら、スープができたぞー」
子供たちの皿が一斉に差し出される。
ロックは一人一人のお皿に均等にスープを注ぎ込んだ。
「ロック兄ちゃんて家事上手だよね」
他の子供たちよりちょっと年上の増せたお姉さん的存在のマリに突っ込まれた。
「ん?まぁな。昔旅をしていたころ、仲間達の食事も分けたりしてたから」
スープを注ぐ手を休めずにロックは答えた。
「えー、ロック兄ちゃんがいつも料理してたの?」
別の子供が声をあげた。
「いいや。大抵はティナやセリスがやってたな・・・」
「そういえば、ティナさんやセリスさんはどうしていらっしゃるの?
 アレから、すっかり見かけないですけど・・・」
奥からフィリスがサラダの乗った御盆を持って出てきた。
子供たちはサラダに夢中で、ロックの表情の変化には気付かなかったようだ。
「フィリスさん・・・。ちょっと、いいですか?」
ロックはフィリスを台所へと連れて行った。

ロックはフィリスに説明した。
魔法のこと
ティナとセリスの魔力のこと
魔力が消滅したこと・・・

「・・・そうだったんですか。思い出させてしまってすいません」
フィリスはロックに向って深く頭をさげた。
「いや・・・いいんです。もう、過ぎた話ですから」
そう、もう十分探しつくしたのだ。
世界中、恐らく回っていないところはない、と言うくらい。
それでも、世界中どこを探してもいなかったのだ。
ようするにもう、この世界には・・・。
「ロックさん。信じましょう。お二人は必ず、どこかで幸せに生きておられます」
フィリスの言うことに共感することはできなかったが
その心遣いが嬉しかった。
「ありがとう、フィリスさん」
そして、先ほどまでの暗い顔とは一変していつもの明るい笑顔に戻った。
「さ、俺らも飯にしましょ。じゃないとガキ達に全部食われちまう」


「何!それは本当か!!?」
フィガロ城の玉座の間がにわかに騒がしくなった。
いつもは穏便なエドガーも血相を変えている。
「はっ!つい先日発見されましたナルシェ北の洞窟にて
 内部を詮索中でした警備兵が発見したと・・・」
エドガーは立ち上がり、その場にいた全ての人間に命令をだした。
「これよりナルシェ北の洞窟へ赴く!皆のもの急いで準備せよ!
 ロックにも至急、この事実を伝えるように!!」
『はっ!!』
兵士たちは一斉に敬礼をすると、玉座の間から駆け出していった。
「・・・いや・・・まさか・・・」
兵士たちがいなくなったあと、エドガーは玉座の間に座り込んだ。
大きく息を吸い、吐き出した。
「急いで皆に招待状を書かないとな・・・」
そう言って一人、今まで誰にも見せたことのないような優しい笑みを浮かべた。

「ロック様!!」
食事が終わり、エプロン姿で洗い物をしていたロックの元へ
1人の兵士が駆けつけてきた。
「んー?どうした」
片手に泡の付いたスポンジ、片手にお皿を持ったままロックは体をそちらに捻った。
「そ・・・それがっ」
兵士は息を切らして俯いて呼吸を整えていたが、息を整えてロックへ向き直った途端、
その主夫のような格好に思わず吹き出した。
「あ、酷い奴。笑うことないだろー」
ロックはスポンジとお皿を置いて、エプロンを外した。
「で、何か用事だろ?」
「はっ、そ、そうでした」
兵士は笑いを引っ込めると姿勢を正した。
エドガーからの命令を伝える時は大抵この姿勢になる。
「先ほど、警備兵達が帰還致しましてエドガー様にご報告がなされました。
 なんでもその兵士たちがナルシェ北にて新たなる洞窟の存在を確認及び
 その洞窟の最深部に大きな水晶の形をした氷があり、その内部に
 金髪の女性が閉じ込められていると言うのです!!」
ロックの心臓が急に動きを早めた。
新しく見つかった洞窟?
金髪の女性?
「そして、元封魔壁のあった場所に程近い場所にある山の洞窟内部にて
 溶岩の溢れる部屋の中心部に緑色の髪をした女性が宙に浮かびながら横たわっているとの
 目撃情報がございました。エドガー様はこちらの山の詮索に同行されるとのことです。
 エドガー様からのご伝言です」
兵士は一旦言葉を切った。そして、息を吸うと一気に伝言を伝え始めた。
「ロック様には本日中にナルシェ北の洞窟へ我々と同行していただきます。
 そして、翌日早朝から洞窟内部へ突入し、女性の救出をお願いする、とのことです」
最後の方のセリフはロックには聞こえていなかった。
体中が暑い。膝がガクガクして立っていられなかった。
頭の中も真っ白で何も見えない、聞こえない。
(セリス・・・・・!)
まだセリスと決まったわけでもないのに、ロックはその氷付けの女性がセリスだと確信していた。
氷付け・・・そうセリスは氷の魔法が得意だった。
シヴァの魔力を注入されたと聞いたことがある。
だから氷付けの金髪の女性と言われるとセリスしか思い浮かばなかった。
「ロック様・・・?」
兵士が心配して声をかけてくる。
「・・・わかった。エドガーの命令に従おう。
 用意してくるから、そちらの準備が出来たら呼びにきてくれ」
「了解いたしました!」
兵士は敬礼すると、また駆け足で託児所を出て行った。
ロックも隣の部屋にいたフィリスに声をかける。
「フィリスさん・・・すみません俺・・・」
言いかけたところでフィリスが制止した。
「全て聞こえていました。いってらっしゃいロック。
 今度はあなたの愛する女性も連れて、いらしてください・・・」
「ありがとうございますフィリスさん・・・きっと・・・いや、必ずセリスをつれて帰ってきます!!」
ロックはフィリスに一礼すると託児所を飛び出した。


「悪いね、急に呼び出したりして」
いつものスマイルを浮かべるエドガーの先には、不機嫌そうなセッツァーの姿があった。
「んだよ。俺はお前のお抱え運転手じゃねぇっつーの」
そう言って煙草の煙を吐き出した。
「今回は特別だよ。急用なんだ。ナルシェ北部と、元封魔壁のあった座標まで頼む」
セッツァーは嫌そうな顔をしたが、やがて諦めて船内に戻っていった。
「しゃーねぇなぁ。じゃぁ、飛空挺のメンテしとくから、用意ができたら来い」
「感謝する」
エドガーはセッツァーに向って一礼しながら「あぁ」と呼び止めた。
「んだよ?」
「悪いんだけど、ついでにこの手紙を皆に届けてきてくれないかい?」
エドガーの手には、リルム、ストラゴス、カイエン、ガウ、マッシュに当てた手紙が握られていた。
リルム、ストラゴスはサマサ、カイエンはドマにいるが、ガウとマッシュはどこにいるのか不明だ。
「・・・・・・・・・」
セッツァーは心の底から面倒くさそうな顔をしたが、渋々引き受けた。
「報酬は高いからな?」
「あぁ、わかっているよ。物凄い報酬を払おう」
そういうエドガーの顔はとても眩しかった。

「セッツァー、ここで降ろしてくれ」
地図を見ながらロックが指示した。
問題の洞窟のすぐ傍には警備兵達の作ったキャンプがあり、
今晩はそこで一泊することになっていた。
キャンプと言っても、テント張りなどではなく
今後洞窟内の詳しい調査や整備が行えるように随時兵士を派遣しておけるような
ちょっとした駐屯地の様になっていた。
その為いくつか小屋の様なものも立ち並び、ナルシェから取り寄せた
食材や道具も倉庫に仕舞われ、その横にはチョコボ小屋まで設置されていた。
「ロック様、お待ちしておりました」
飛空挺から降りてきたロックと兵士を迎えたのは
出逢った頃のセリスによく似た女兵士だった。
「私は警備兵隊将軍、リイアにございます。明日の洞窟調査にもご同行させていただきます」
ピシっと姿勢を但し、敬礼をした。
リイアの服装はフィガロ産の鎧でとても頑丈そうだ。
膝の上まで隠れるブーツや肩のアーマーが特徴的だったが、何故か鎧の下がスカートだった。
「エドガー陛下の趣味です」
とリイアは少し恥ずかしそうに答えたのでその辺の質問はしないことにした。
「こちらが、先日洞窟内で撮影された氷付けの女性の姿です」
とリイアの横に控えていた兵士が一枚の写真を差し出した。
まだ「カメラ」と言うものを撮影する機械が作られたばかりだったから
あまりはっきりとは移っていないが、確かに、氷の中に金髪の女性が一糸纏わぬ姿で閉じ込められている。
「我々は女性を救出しようと試みましたが、氷が全く砕けず手の施しようがありませんでした」
リイアが肩を落とした。
「そこに写っていらっしゃるのがセリス様なのであれば、あなたが救出に向えば
 何か変化があるかもしれないと思い、今回お出でいただいたのです」
「わかった」
ロックはリイアに案内され、数個あるうちの一つの小屋へと案内された。
「この小屋をお使い下さい。明日早朝、お迎えにあがります」
そういうとリイアは出て行った。
小屋の中には簡易ベッドと窓が一つ、手洗いと水道があるだけだ。
ロックはベッドに寝転んで、窓の外を見つめた。
「セリス・・・」
セリスの事を思い出すたびに最後の瞬間を思い出してしまう。
ティナのリボンを目で追った一瞬、横にいるはずのセリスの気配が消えて、
冷たい風が吹きぬけた。慌てて目を戻すともう、セリスの姿はどこにもなかった。
今度こそ見失いたくない。
氷付けにされた女性がセリスであることを信じて、ロックは眠りに付いた。


洞窟の中は360度氷で覆われていた。
息は吐いた瞬間に凍りつきそうなほどの寒さだ。
一向は防寒具に身を包み、目的の場所へと足早に進んでいった。
「なぁリイア、あとどのくらいなんだ?氷付けの女のところまで」
少しでも寒さを紛らわせたくてロックは前を歩くリイアに話しかけた。
「後少しです。あの氷の階段を上ったすぐのところです」
リイアとロックは階段の下までたどり着いた。
遠くで見ると大したことないと思っていたが、近くで見るとその階段は
とても一段一段が大きく、まるで玉座のようだった。
そして階段の周りは洞窟の中でも特に温度が低く、
階段の一番上から冷気が漏れ出しているのが見えた。
間違いなく、この階段の一番上に問題の氷がある。
「よし、じゃぁ行くか」
ロックがリイアを促したが、リイアは階段を上ろうとせず、
ロックの為に道を開けて階段の横に立った。
「リイア?」
ロックが不信そうにリイアを見つめると、リイアは真剣な眼差しでロックを見つめ返した。
「ここから先はあなただけで。私たちにはあの女性を助けることはできませんでした。
 きっとあの女性は誰かを氷の中で待ち続けているのです。
 もしその待ち人があなたなら、女性はあなたの姿を認めた瞬間に氷の棺から開放されるでしょう」
そういうとリイアはその場に座り込んだ。
「わかった。言ってくるよ」
ロックは氷の階段を1人、一歩一歩しっかりした足取りで上っていった。

階段の一番上は冷気で真っ白で何も見えなかった。
「うわ、なんだよこれっ」
ロックは両手で必死に冷気を払う。
だが、冷気はどんどんどこからか溢れてきて、氷の塊は愚か、
自分が今さっき上ってきた階段すらどこにあるかわからなくなった。
「ちくしょっ・・・こんなところで諦めて溜まるかっ。
 待ってろよ・・・今助けるからなっ・・・セリスっ!」
その瞬間、一瞬その場の空気が止まった。
その場を漂っていた冷気も一斉に動きを止めた。
「・・・?」
ロックは冷気がまとわり付いてこなくなったことに気付いて、
手を払うのをやめた。
冷気の白い靄は突然、サーッと音を立てて引いていった。
そして、靄の引いた所に、一本道が現れた。
ロックはその道を歩いていく。
ロックが歩いていった背後は再び靄で覆われ、後戻りは出来ない状態になっていた。
だがロックは自らの背後で起っていることには全く気付かない様子で
まるで何かに取り付かれたかのようにその道を歩いていった。
実際歩いていたのは10秒ほどだったが、ロックにはとても長い時間に感じた。
そして、道の切れたところに大きな靄の塊があるのを発見した。
「これは・・・」
そっと手を伸ばしてみる。すると一瞬、何かに弾かれたような感触がしたが、
靄は先ほどと同じように、今度は音を立てずに静かに消えていった。
そして遂に、氷付けの女性が姿を現した。
「・・・・・っ」
ロックは思わず息を呑んだ。
「・・・・・セリス」
間違えるはずがない、自分が捜し求めた愛する人。
梳ける様に白い肌に流れるような金髪。
間違いなく、それはセリスだった。
深い洞窟の奥で、濃い霧に包まれてひっそりとセリスはこの世に留まっていた。

(・・・・・誰かの声が聞こえる・・・・・?)
セリスの意識は暗闇の中にあった。
何も聞こえない、何も感じない場所にずっとセリスはいた。
ケフカを倒した後、ティナのリボンを目で追っていた途中で急に
空気に溶けたような感覚がして、次に気付いたらここにいた。
ずっと眠っているような心地よい感覚。
どのくらい時が経ったかなんて全然わからない。
自分の思念がなんらかの理由でまだ暗闇の中に留まっているのが不思議だった。
(・・・・・誰?)
ずっと何も聞こえない、感じない、自分から何かを聞こう、感じようと思うことをしなかったのに
何故だろう、さっきからずっと耳を澄まして、全神経を尖らせて何かを感じようとしている。
(・・・懐かしい?)
ふと、何か振動を感じた気がした。
急に、自分に肉体があると言う事実に気付いた。
そして、段々自分の意識がはっきりしたものに変わって行くのがわかる。
「・・・・ス!」
(え・・・?)
誰かに呼ばれている、そんな気がしてセリスはそっと目を開けた。
その瞬間、再び目を瞑らなくてはならないほど眩しい光がセリスを包み込んだ。

「セリス!!」
ロックは必死にセリスの名を呼びながら氷を削っていた。
しかし、削っても削ってもまったくセリスには届かない。
寧ろ、削った端から再び氷が再生している気がする。
「セリス!!絶対助けてやるからなっ!」
それでもロックは諦めずに氷を削って行く。
するとセリスの瞼がピクリと動いた気がした。
「セリス・・・?」
(・・・・・・れ?)
セリスの声が聞こえた気がした。
「セリス!」
ロックは大声でセリスに呼びかけた。
すると突然、セリスの体が光に包まれ、ロックは数メートル後ろに吹き飛ばされた。

まるで夢でも見ているみたいだった。
急に、何かから開放されたような感覚がして気付いたら
純白のドレスを身にまとって氷の上に立っていた。
「・・・・・?」
体がよく動かない。両手を動かしてみる。
まだよく開かない目を少し動かして、周りの風景を眺めてみた。
霧が静かに消えて行く。そして自分が随分と高い所にいることに気付いた。
「・・・・・」
まだ上手く声を出すことができない。
ふと、目の前に誰かがいることに気付いた。
どこかで見た事のある、懐かしい顔。
「セリス・・・」
その男は自分の名をはっきり呼んだ。

セリスの体が光りだすと凍りはあっという間に砕け散り、破片は空気中に飛び散った。
そして、セリスの体が開放される。
光に包まれたセリスの体は、光が段々消えていくと同時に純白のドレスに包まれた。
そして、その体は静かにその場に立ち尽くしたまま、セリスの瞳が開かれた。
真っ青な瞳はまだどこか宙を泳いでいる。
セリスは自分の体を確認したり、あたりを見渡している。
「・・・・・・」
セリスが口を開いたが、言葉は発せられなかった。
そして、ふとセリスと目があった。
セリスはじっとこちらを見つめている。
「セリス・・・」
俺が名を呼ぶと、セリスはピクリと反応を示した。

聞いたことのある懐かしい声。
「・・・・・?」
見覚えのあるその顔。だけどどうしても、名前やその人の記憶が思い出せない。
「セリス・・・?」
その人はどんどんこっちに近づいてくる。
セリスはその場から動けない。
セリスの目は宙を泳いだ・・・がその時、彼のつけているバンダナに目がいった。
(あ・・・)
初めて彼と出合った時も彼はバンダナをつけていた。
そして、絶望の縁に立たされた自分を助けてくれたのも、バンダナ。
そしてそのバンダナの持ち主は・・・
「・・・・ク・・・」
掠れて声が上手く出なかった。だけど必死に名前を呼んで手を伸ばした。
「ロ・・・・・ク・・・・・・・ロッ・・・・・ク・・・ロック・・・」
足を一歩踏み出した途端、その場に崩れ落ちそうになった。
しかし床に叩きつけられる鈍い痛みは全くなかった。
代わりに、温かい腕が彼女を包み込んだ。


「そうか、やはりセリスだったか」
エドガーは既にナルシェ北の洞窟の調査を終え、一足先に飛空挺でフィガロに戻ってきていた。
そして、ロックから届いた伝書鳩の報告を受けていた。
「セリスも無事だったのね・・・よかった・・・」
ここはエドガーの私室で、そこにはエドガーと1人の少女以外誰もいない。
少女はエドガーの膝の上に座り、その胸に顔を埋めていた。
エドガーはその少女の頬を撫でると幸せそうな笑みを浮かべた。
「あぁ・・・これでやっと全員揃ったな・・・」
少女は顔をあげ、エドガーを見つめた。
緑色の髪をした、しっかりとした意志を秘めた瞳を持つ少女。
「ティナ・・・どうだろう?私との婚約の話、真剣に考えてみてはくれないか?」
ティナは再びエドガーの胸に顔を埋めた。
「・・・モズリブの子供たちを放置して私だけ幸せにはなれないわ・・・」
「なら、モズリブの子供たちもこの城で暮らせば良い・・・。
 この城には託児所があるから日中はそこに預けておいて、夜間は
 ティナが母親代わりになって子供たちの世話をしてあげればいい・・・」
エドガーはティナの髪をそっと掻き揚げた。
「時間はいくらでもある。じっくり考えてみてくれ・・・」
そう言うとエドガーはティナを降ろして立ち上がった。
「どうしたの?」
ティナはエドガーの後ろにくっついてエドガーの身支度の準備を手伝った。
「あぁ・・・そろそろ帰って来るんだよ。あの二人が・・・」
そのセリフを聞いた途端、ティナも慌てて身支度を始めた。
「わ、私も一緒に出迎えに行くから少し待って!」
「あぁ。わかってる。私たちだけじゃない。みんなで迎えるんだ・・・。
 そして、再会を称えよう。再び出会えた奇跡に・・・」

フィガロ城の前には100人を超す兵士達が警備の為に集まった。
世界を救った英雄のうち最後の1人が無事に発見されたとあって
世界中から人々が集まり、その再会という歴史的瞬間を目撃しようと大騒ぎになっていた。
その為エドガーは城から半径100メートルには誰も侵入できないという異例の措置をとり、
さらに万全を期して兵士達を収集した。
「見えたぞ!飛空挺だ!!」
セッツァーの操縦する最速の飛空挺ファルコン号があっという間にフィガロに到着した。
飛空挺はゆっくり地面に降り立ち、ハッチが開かれた。
エドガー、ティナ、マッシュ、カイエン、ストラゴス、リルム、シャドウ、ガウ、モグは
ハッチの前に歩み寄り、人影が現れるのを待った。
すると最初にセッツァーが現れた。
「お、皆そろって俺のお出迎えか?」
「んなわけないでしょー。さっさとどけよ傷男!」
リルムにきついつっこみを入れられたセッツァーは
「相変わらず冗談の通じないオチビ様だぜ」
と肩をすくめながらその輪に加わった。
そしてしばしの沈黙のあと、ハッチに人影があわられた。
白いスカートが砂漠の風に靡いているのが見える。
そして、遂にロックとロックに抱えられたセリスが姿を現した。
その瞬間、待機していたフィガロ城演奏隊が美しい曲を演奏し始め、
ロックの帰りを首を長くして待っていた託児所の子供たちが一斉にクラッカーを鳴らした。

「みんな・・・」
ロックはあまりの歓迎に思わず目頭を熱くした。
それはセリスも同じだったようで、既に目から涙がポロポロこぼれている。
「行くか」
「えぇ」
ロックはセリスを抱えたまま砂漠を駆け出した。
それと同時に仲間達も二人に向って駆け寄って行く。

フィガロの砂漠の激しい日差しの中、再び集まった仲間達は
その再会を喜び、称えあった。

 

+ + + + + + + + + +

 

■あとがき■

半徹夜状態で何とか書き上げました・・・が
ゴメンナサイ、完結はできませんでしたっ(爆。
何か、中途半端ーって感じ。ラブラブじゃないし。
ロクセリじゃなくて寧ろエドティになってるし。
なもんで、全5話で完結にさせていただきます。
次回がエピソード的な終わり、ってことで。
ちなみに今日から学校なんで、いつ更新できるかは不明です;
04/05/2006 風峰夏代

5

見上げると何処までも続く青空
じっと見つめていると吸い込まれてしまいそうで

実際確かにあの空と同化したはずなのに

私は 今・・・



フィガロ城の上等な一室。
もうすっかり夜も更けたその部屋に2つの影があった。
すっかり眠ってしまっている少女の金髪を優しく撫でている青年は
飽きることなく少女の寝顔を眺めている。
「・・・セリス・・・・」
小さく、自分にしか聞こえない声で少女の名前を呼んだ。
ずっと捜し求めた、空に消えてしまった少女。
やっと見つけることの出来た生涯かけて守りたい少女。
青年はそっとセリスに口付けた。
「ん・・・」
セリスの眉が動き、そっと目を開けた。
「ロック・・・?」
「起こしちゃったか」
セリスは体を起こした。
ロックはセリスの体を支えてやる。
長い間同じ姿勢で氷の中に閉じ込められていた為、
体の節々が少し弱っていて、長時間同じ姿勢をとり続けるのが困難になっていた。
「眠らないの?」
セリスがロックを見上げた。
「ん?あぁ、お前の寝顔見てたら寝るの忘れてた」
そのセリフを聞いて、セリスは少し頬を染めた。
「また・・・」
セリスは恥ずかしそうに今度は俯いた。
「また、あなたに会えてよかった・・・」
セリスの告白にロックはセリスを抱き締めた。
「俺も・・・またセリスに会えてよかった・・・」
そのまま二人は、今度はベッドに倒れこんだ。


「・・・と言うことは、君たちを現世に戻したのは幻獣の力?」
フィガロ国王の私室にもまた、2つの影があった。
一つは国王陛下のもの。もう一つは緑色の髪の少女のもの。
二人は先ほどから真剣な顔をして話し合っていた。
「えぇ。私たちが消えたのは、魔法が完全にこの世から消えたのと同じタイミングだった。
 その後、少なくとも私の意識は幻獣界へと飛ばされたわ」

その後のティナの話では
幻獣界へと飛ばされたティナの意識は、そこに残されていた僅かな幻獣達の様子を捉えていた。
人間界から魔法が消え去って間もなく、幻獣界からも魔法が消えかかっており
幻獣たちは消えようとしていた。しかし幻獣たちは一箇所に集まり、何やら一心不乱に魔法を唱えていた。
そしてその中の1人が急に、ティナの意識の向く方へと振り返り
『君達は消えてはならない。人間界で生きるんだ』
とティナの方へ手をかざしたのだ。
幻獣たちの魔法が発動した瞬間、ティナは自分の周りを温かいオーラが包んだ気がした。
そして次の瞬間、どうやら幻獣界からも魔法が消え去ったらしく
幻獣たちは皆、ティナの方を見ながら一匹ずつ消えていき、
最後に幻獣界そのものが消滅して、ティナの意識もまた暗闇に消えていったのだと言う。

「そうか・・・幻獣たちは自分たちの希望であった君達を現世に残すことによって
 自分たちが生きた証を残そうとしたのだね・・・」
エドガーは酷く感心した様子で相槌を打っていた。
「そうね・・・私も、私たちを救ってくれた幻獣たちの遺志を継ぐためにも
 この世界で一生懸命生きるわ」
そう言うとティナは「おやすみなさい」とエドガーの部屋を出て行った。


今日も又、フィガロ城の託児所には元気な笑い声が響いていた。
その中心にいるのはバンダナを巻いた青年。
追いかけっこや肩車、今日も子供たちと一緒に託児所内を駆け回る。
そんな青年の元に、大きな買い物籠を持った少女が入ってくる。
子供たちは一斉に少女の下へと駆け寄って、その間に青年が机の用意をする。
奥から出てきた女性はセリスと一緒に昼食の用意をする。
託児所内は今日も子供たちの元気な声と、青年達の幸せそうな雰囲気で包まれている。

玉座に座るのは女好きで有名な王様。
隣の席はまだ座る人がいないけれど、今日もまた会いに来る
たくさんの子供たちを連れた緑色の髪の少女
いつの間にか当たり前になった光景
だけど今日はちょっと様子が違っていて
少女は顔を赤らめて王様に婚約成立の話を切り出した

ケフカがいるころには決して考えられなかった幸せ
魔法が消えた直後には絶望に打ちひしがれていた人々
こうして再び幸せに包まれることができた喜び
人々は、決して忘れることがないであろう。




救出されてから数ヶ月経ち、体調のよくなったセリスは1人
フィガロ城の一室のテラスから空を眺めていた。
「どうかしたのか?」
不意に声をかけられて振り向くと、そこには愛する人。
「うん・・・ちょっとね、色々考えていたの」
再び空を見上げるセリスの横に立ち、ロックも空を見上げた。
とても綺麗な青空。雲ひとつなく、見えるのは真っ青な空と太陽だけ。
「見上げると何処までも続く青空
じっと見つめていると吸い込まれてしまいそうで・・・
実際確かにあの空と同化したはずなのに 私は 今・・・」

-あなたの側に・・・-

 

+ + + + + + + + + +

 

fin

 

 

 

■あとがき■

付け足したかった所:何故二人が現世に留まっていたか
そこだけ書きたかったので、ストーリーは簡潔に、です。
話的には4話で終わっているので本当、そこだけ付け足してみました。
GW,結局これ以外更新は無理っぽ・・・(略。
04/29/2006 風峰夏代

【この頁で使用させて頂いた素材サイト様】 ClipArt:空中庭園