宝物


世界が平和になってもう2年。
まだケフカの残した傷跡が癒えていない所も多いけど
やっと世界は順調に歯車が回りだした。
船での貿易も復活したし、帝国に占領されていた地域も
今では独立して立派な都市になっている。
そして、嘗て旅路を共にした仲間達も、元の生活に戻っていった。
勿論、それらも以前と全く変わりない、と言うわけにはいかなかったけど・・・。

大切なものを失った人もたくさんいたし
大切なものを手に入れた人もいた



俺は・・・・・

「ロック!」
遠くから、彼女が呼ぶ声が聞こえた気がして
俺は考えるのを中止した。
声のした方向をしばらく眺めていると
人ごみの中から長い金髪が見え隠れした。
やがて人ごみを掻き分けて声の人物が荷物を抱えてやってきた。
「はい、これだけあれば十分よね?」
丁度二人のリュックサックに納まりそうな量の荷物の中には
簡易食やロープ、ナイフ等が入っていた。
「あぁ。今回はそんなに大変な冒険じゃないし、十分だよ」
そう言うと彼女は満足気に微笑んだ。

そう、今日は彼女と・・・
セリスと初めてトレジャーハンティングに行くのである。
今回行く洞窟は世界崩壊後にできた洞窟で
すでに何人もの人間が乗り込んでいったが、
最奥にたどり着けたものは極僅か。
皆、宝欲しさに無謀にもトレジャーハンティングの
基礎すら知らないまま洞窟に乗り込んで
途中で挫折して帰ってきていたのだ。
勿論俺は事前に下調べをすませ、
トレジャーハンティング初体験のセリスでも
俺がついていれば楽々奥まで辿り付けると確信していた。
「それじゃ、そろそろ行こっか」
荷物をリュックに詰め込んで、俺たちはチョコボに跨った。

洞窟まではチョコボで30分くらいの道のりだった。
チョコボは乗せていた人を下ろすと元の場所に戻ってしまう習性がある為、
帰りは同じチョコボに乗ることはできないが、
どこの時代にも商売上手な人間はいるもので、
洞窟から少し離れた所にちょっとした観光スポットがあり
そこに宿泊施設やチョコボ屋があるので
洞窟を探索した後、そこで一泊してチョコボで帰る、
と言うのが今回のルートだ。
トレジャーハンティング初体験のセリスに
洞窟内を何日も何週間も歩かせるのは酷だと思ったので
初めてのトレジャーハンティングの場所に
今回行く洞窟を選んだ。

この洞窟は大陸の北のほうにある為、
気温が低く、冬季の大半は雪で覆われている。
そして、その雪は洞窟の中にまで流れ込んでいた。
「・・・思っていたより寒いね・・・」
セリスは着ていたコートのフードを被り、
手袋をした手を口の前に当てて、ハァーと息を吐いた。
昔、まだ魔法が存在していた時はセリスは寒さに強かったが、
魔力がなくなった後、セリスは実は冷え性であることが分かったので
今回もしっかり防寒をしてきたのだが、
やはり洞窟のひんやりした空気と雪の所為で
物凄く寒さを感じる。
俺は用意していたコップに液体を注ぐと、
素早く簡易コンロで暖めてセリスに手渡した。
「何これ?」
「いいから、飲んでみて」
不思議そうに液体を眺めていたセリスだったが、
俺に促されると少しずつ飲んでいった。
「・・・これ、お酒?」
コップの半分ほど飲んだ所でセリスが口を離した。
「あぁ。甘酒って言う飲み物。カイエンに前貰ったんだ。
 体が温まるって言うから、今回のトレジャーハンティングにぴったりだと思って」
言い切ったところで俺も一気に飲みきった。
芯まで冷えた体の中を、温かい甘酒が通って行くのがわかった。
そして、飲んだ瞬間からポカポカしてきた気がする。
「凄いな、これ。もう温かい感じがする」
「うん。私も凄く温かい」
二人のコップを片付けると、俺たちは洞窟の奥へと進んでいった。

洞窟の中はまるでこの世のものとも思えないほど美しかった。
雪が凍り水晶のようになっているところに、
所々光が差し込みそれが反射してキラキラと輝いていた。
ただ、それと同時に床も凍りついているために大変危険で
所々セリスが転ばないように注意を払いながら奥へと進んでいった。
途中壁を登ったり、壊れかけたつり橋を渡ったりした。
洞窟探検慣れしている俺には大したことない道のりだったが、
洞窟探検が初めてのセリスには、早くも疲労が見え始めていた。

「綺麗なところね・・・」
洞窟の奥のほうの雪が届かない所まで来たところで休憩することにした。
ここまでくれば、最奥まであと少しだ。
地面にマットを敷いて二人は腰掛けた。
洞窟の奥は外よりもずっと寒い。
ずっと歩いてきたお陰で体は温まっていたが、
あまり長時間休んで体を冷やしては危険だ。

「ねぇロック」

唐突に話しかけられて、少し驚いた。
寒さの所為で少しぼーっとする。

「どうした?」

沸かしたコーヒーを渡しながら笑顔で答える。
するとセリスはちょっと不思議そうな顔をして答えた。

「どうして、今回この洞窟を選んだの?」

「あぁ、この洞窟はどうやら昔の遺跡に繋がっているみたいで
 そこにはまだ手をつけられていないお宝が眠っているらしい。
 やっぱ初めての洞窟探検でお宝が見つけられたほうがいいだろ?」

そう言ってセリスに向ってウィンクをした。
するとセリスは嬉しそうに「うん」と微笑んだ。

少し休んだ後、再び洞窟の奥へと足を進めた。
途中、特に何の障害もなく段々洞窟の最奥、
遺跡への入り口が見えてきた。

「見て!ロック、遺跡の入り口が見えたわっ」

俺の少し後ろでセリスが大はしゃぎしている声が聞こえる。
遺跡の入り口に繋がる古いつり橋の安全を確認しながら、
セリスの方に振り返る。

「あぁ、あの奥にお宝があるんだ」

するとセリスは又も少し不思議そうな顔をした。

「ねぇ、あの遺跡にはどんなお宝があるの?」

「・・・・・」

その質問に、俺は少しその場で考え込んだ。
あの遺跡の奥に何があるのか、それは知っている。
だが、それを教えてしまうのには抵抗があった。
セリスに遺跡の奥でお宝を発見してもらって、喜んでもらいたいからだ。

「・・・ロック?」

セリスが怪訝そうな顔をした。
だが、そのうちセリスの顔が恐怖に歪んで行く。

「ロック!!」

「え・・・?」

見るとつり橋を支えているロープが俺の重みで擦り切れていき、
今にも切れそうだった。

「ロック、危ないっ!!」

セリスが手を伸ばしてくる。
何故だろう、俺はその光景に見覚えがあった。
ずっと昔、やっぱり二人でトレジャーハンティングに出かけた時
つり橋が崩れそうになって・・・
俺を助けようとした少女は俺の代わりに谷底に落ちて、
記憶喪失になってしまった・・・。
「辞めろ、お前まで谷底に落ちてしまう」
そう叫びたかった。
だが、体が動かない、声も出ない。
擦り切れて行くロープの動きをじっと眼で追っていた。
何故か周りの動きが全てスローモーションに見える。
「あぁ、俺も終わりかな」
なんて考えながら、段々自分の体が下に落下していく感覚を感じる。
もうダメだ、と眼を瞑った後、俺の記憶はぷっつりと途切れた。


「・・・ク・・・・・・て・・・ック、お・・・て・・・」
先ほどから、誰かに呼ばれている気がしている。
だけど声の誘導に従って眼を開けたいと思わない。
何故か今の状態が酷く心地よい。
このままもう一度、意識を失ってしまいたい。
だけど声の主は、先ほどから絶え間なく声をかけ続けてくる。
「・・・て、ロック・・・・・お・・・て・・・・起きて・・・」
お前は・・・・誰だ。俺の名前を呼ぶのは・・・・
「ロック・・・起きて・・・」
あぁ・・・レイチェル、君なのか?
俺を迎えにきてくれたのか・・・?
遂に俺も死んじまったんだな・・・。
なぁんて思ってると突然、俺の頬に激痛が走った。
「ロック!起きて!!ここで倒れてたら死んじゃうわよ!」
驚いて眼を開けると、そこには今まさに俺にもう一発ビンタを喰らわせようとしている
セリスの姿が・・・。

「んもう、驚かせないでよね」
セリスに支えられながら、
ひりひりする両頬をさすりながら体を起こした。
「んー・・・」
周りをキョロキョロ見回すと、崩れたはずのつり橋がしっかり繋がっている。
「あれ・・・俺、どうして・・・」
確かに足元からつり橋が崩れ、谷底に落ちかけていたはずだ。
なのに、どうして俺はここにいるのだろうか。
「あなたが落ちそうになったから慌てて片手であなたの体を引っ張って
 片手で切れたロープを引っ張ったのよ。それで、さっき買ったロープで
 つり橋を固定して、あなたを横にして暖めてたってわけ」
「そうか・・・よかった」
俺は思いきり安堵のため息をついた。
「え?」
「お前が、レイチェルと同じように俺を助けようとして
 俺の代わりに谷底に落ちたんじゃなくてよかった・・・」
「あ・・・」
セリスはハッとした表情をして黙り込んでしまった。
咄嗟のこととはいえ、レイチェルと同じことをしようとしていた自分の判断を
悔いているのだろうか・・・。
「でも・・・」
俺はセリスに向って手を伸ばし、頬に触れた。
「よかったよ、お前が谷底に落ちなくて」
「ロック・・・」
俺はセリスに向って微笑むと、立ち上がった。
「俺はもう大丈夫だ。さぁ、先へ進もう」

先ほどのつり橋をもう一度しっかり補修してから
俺たちは洞窟を抜け、遺跡の最奥へと進んでいった。
一体何時の時代の遺跡なのだろうか
すっかり荒れ果てて、人骨すら落ちていない。
その最奥、昔この遺跡一帯を治めていた人物が座っていたと思われる
玉座の上に、小さな宝箱がポツンと置いてあった。
「あ、ロック!あそこに何かあるわっ」
「あぁ」
嬉しそうに宝箱にかけよったセリスが宝箱を開けると
中には高価そうな指輪と、メッセージカードが。
『セリス、結婚しよう。  ロック』
セリスは俺の方を振り向いた。
「ロック、これ・・・」
俺は少し顔を赤らめながら言った。
「ずっと、言おうと思ってたけど・・・中々言い出せなくて」
コホン、と一つ咳払いをすると俺は真剣な眼差しでセリスの方に向き直った。
「この冒険から帰ったら、結婚しよう」
セリスは指輪の入った宝箱を胸に抱き、泣きそうな顔で俺を見ている。
俺が返事を待っていると、しばらくして小さく
「はい」
と言う返事が返って来た。
「はい・・・。あなたと、結婚します」
思わず嬉し涙を流したセリスだったが・・・
「痛っ・・・」
なんと、洞窟の寒さの所為で流した端から涙が凍り付いて行く。
これには流石に二人とも慌てて、急いで洞窟を後にした。

「ねぇロック・・・」

洞窟を出て、少し歩いた所にある観光スポットのホテルの一室にて、
すっかりくたくたになった体を温めながら
初めてのトレジャーハンティングですっかりくたびれてしまった
セリスの体をマッサージしていると、ふいに話しかけられた。

「ん?」

「本当に・・・私と結婚・・・してくれるの?」

少し不安そうな、震える声でセリスが問いかけてきた。

「・・・あぁ。・・・嫌か?」

ここで拒否されたらどうしよう。
「嫌」と言われたら俺はどうにかなってしまいそうだった。

「・・・嫌ではないけど。あなたは、嫌じゃない?」

この質問には俺が驚いた。

「嫌?俺が?どうして?」

「だって・・・」

その先を言われる前に、俺はセリスの上に覆いかぶさった。
そして、その唇を奪う。

「んー・・・」

じたばたと暴れていたセリスが大人しくなると、
俺は唇を離した。

「俺がセリスと結婚するのが嫌なわけないじゃん。
 セリスがなんと言おうと、俺の気持ちはかわらない。
 これからもずっと一生、愛してる・・・」

そう言うと、もう一度唇を重ねた。
今度は嫌がらない。
しばらくその唇の感触を堪能すると、そっと唇を離した。

「だから、もう一度、セリスの気持ちを聞かせて欲しい」

セリスの方に向き直ると、お互いの吐息がかかりそうな位
顔を近づけて、そっと頬に触れると、その耳元に口を寄せて

「俺と、結婚してくれ」

と囁いて抱き締めた。
するとすぐに、セリスの腕が俺の背中に回されて、
大きく頷きながら、

「うん」

と何度も繰り返して返事が返って来た。



世界が平和になってもう2年。
まだケフカの残した傷跡が癒えていない所も多いけど
やっと世界は順調に歯車が回りだした。
船での貿易も復活したし、帝国に占領されていた地域も
今では独立して立派な都市になっている。
そして、嘗て旅路を共にした仲間達も、元の生活に戻っていった。
勿論、それらも以前と全く変わりない、と言うわけにはいかなかったけど・・・。

大切なものを失った人もたくさんいたし
大切なものを手に入れた人もいた



俺は・・・・・


俺は、大切なものを手に入れたんだ。
俺の、俺だけの『宝物』を。

 

・ fin ・

 

■あとがき■

ゴメンナサイ。我ながらかなりの駄文です。
何故か急に、「小説書かなくちゃ」と義務の様なものを感じて
何日もかけて書いた割には内容の薄い、わけのわからない文章に・・・。
正直、アップするかも迷いましたが、折角書いたわけですし、
お持ち帰り不可、と言う形でアップしてみました。
今度は絶対、ネタがきちんと浮かんでから、起承転結などなど
しっかり考えて、書こうと思います。
02/28/2006 風峰夏代

【この頁で使用させて頂いた素材サイト様】 ClipArt:Atelier Paprika