もう夜も大分更けた頃、
ロックは自分に割り当てられた宿屋の部屋で1人読書をしていた。
別に眠れないわけではなく、元々遅寝早起きなのだ。
それに、ロックは夜中が好きだ。
「やっぱ夜中はいいよなぁ。周りが皆静まり返っていて、自分の世界に没頭できるし」
とロックは1人つぶやいた。
昼間は戦闘を主とする旅路を行くので、
とてもじゃないけど静まり返ってなんかないし、自分の世界に浸ることもできない。
だから夜、宿屋で皆が寝静まった後に1人酒を飲みながら
読書をするのが毎日の楽しみだった。
「あぁ、もうこんな時間か」
気付くと遥か東の空がうっすらと明けて行くのが見えた。
流石にそろそろ寝ないとまずい。
ロックは今日の戦闘メンバーに含まれていないので
寝坊してもよかったが、仲間と一緒に朝食を取りながら今日の予定を詳しく聞いておきたかった。
ロックがベッドに移ろうとして立ち上がったとき、
扉が微かにノックされた気がした。
「?」
気のせいかと思い、放って置くとまた微かに扉の方から音がした。
「こんな時間に誰だろう?」と思いつつもロックは扉を開けた
すると・・・
「セリス!どうしたんだ?こんな時間に・・・」
扉の向こうにはいつもとは違い髪留めを外し、まるで絹のように
サラサラでまっすぐな美しい金髪をした少女、セリスが立っていた。
セリスが着ているのは、ドレスなのか寝巻きなのか見分けがつかない
黒いネグリジェだ。白い肌によく映える。
「ゴメンナサイ、こんな時間に・・・」
セリスは心からすまなそうにペコリと頭を下げた。
「いや、別にいいけど・・・。とりあえず、入れよ。廊下は寒いだろ?」
真冬だと言うのに、セリスは袖のない、膝丈のネグリジェを着ていた。
そんな格好で長い廊下を歩いて来たため、セリスの肌は冷え切っていた。
「ううん、私はシヴァの魔力を注入されているから寒さには強いから平気。
だけどこんな時間に廊下でお話したら他の人に迷惑だから、入れてもらうね?」
「お邪魔します」、とセリスは部屋に入ってきた。
ロックは扉を閉め、寒くないと言い張るセリスに上着を着せて
ソファに腰掛けてもらうと、温かい飲み物を入れた。
「で、どうしたんだよ?」
セリスの座ったソファと反対側のソファに座るとロックは口を開いた。
セリスはとても疲れているように見える。
昨日は戦闘メンバーで、朝から晩までゾゾ山で戦っていたはずだ。
目の下にはうっすらと隈が出来、まぶたが重そうだ。
「・・・眠れないの」
セリスはつらそうに、少し顔を歪めてつぶやいた。
「疲れているから、眠ろうと思ってベッドに入るじゃない?
で、ウトウトし始めるんだけど金縛りにあったり、眠れても嫌な夢を見て
冷や汗をかいて飛び起きてしまうの。ここの所、毎日よ」
「体力が持たなくなってきたから明日は戦闘メンバーから外してもらったの」と
言うとセリスは飲み物を口に含んだ。
「で、眠れないのはわかったけど、どうして俺の所へ?」
ロックの持つ疑問は当然のことであったが、セリスもまた当然のことのように
「だってあなたいつも夜中まで本読んでるでしょ?だから今日も起きていると思ったの」
と言ってのけた。
確かに、いつも夜中まで本を読んでいる。
宿屋の部屋が個室ではなく相部屋だった場合には
仲間に迷惑がかからないように、宿屋の主人に頼んで食堂を開放して貰っていたから
多分、その時に見かけられたんだろう。
「うーん・・・、眠れないのか。羊を数えると眠れるとか、有名だけどな」
我ながら在り来たりだなと思いながら提案してみる。
するとセリスはコップを机に置いて、ため息をつきながら
「4625匹まで数えた所でやめたわ」
とつぶやいた。
「そっか・・・」
正直、ロックは困っていた。
自分には、横になって眠りたくても眠れないなんて経験はなかったし
身近にそういう人がいたこともない。
だから、アドバイスしようにもいい案が浮かばなかった。
それに自分も寝ようと思っていたから相当眠たいし、
あまり長時間セリスに付き合うこともできそうにない。
「とりあえず、横にならないか?」
眠れないとは言っていたけど、まぶたが重そうなのは事実だし、
今にも寝てしまいそうな状態には変わりなかった。
こんなに眠そうなのに、どうして眠れないのだろうと正直疑問に思う。
疲れているなら大抵はすぐに眠れてしまうはず。
それに今まで何でもなかったのに、最近になって急に眠れなくなるなど
ありえるのだろうか・・・?
「え・・・一緒に?」
セリスの驚いた顔が見えたが、有無を言わせず抱えあげてベッドへ移動する。
セリスを優しく横たわらせると、大人しくベッドに沈んだ。
とりあえず、本当に眠れないのかしばらく様子を見てみることにした。
するとセリスはベッドに横になって5分もしないうちに寝息を立て始めた。
一見安らかに眠っているように見える。
ロックはセリスに毛布をかけてやると、自分も横になろうとベッドに上がろうとした。
しかし、
「んっ・・・・ぃやぁ・・・っ」
突然セリスが苦しそうに寝返りを打ったかと思うと、
途端に両手をばたつかせ、必死に何かから逃げようとしている。
「やだぁっ・・・助け・・・・て・・・・・・・ック、ロックッ!」
必死に自分の名前を呼ぶセリス
ロックはセリスの傍へより、セリスを揺り起こした。
「セリス、セリス!」
「ん・・・・」
目に大粒の涙を浮かべ、汗びっしょりになったセリスが息を乱しながら起き上がった。
「どうしたんだ、セリス。大丈夫か?」
セリスの背中をさすってやりながら優しく尋ねた。
セリスはしばらく呼吸を整えた後、涙を拭ってようやく顔をあげた。
「最近、目を瞑ると必ず見る夢・・・。ロックが私に向って手を振っているの。
だからそっちに走っていこうとするんだけど、急に後ろから手を引かれるの。
振り返るとケフカが冷たく笑って私を凄い力で引っ張って闇の中へ引き摺りこもうとする。
私はロックの方に向き直って助けを求めるんだけど、気付いたらロックの隣にはレイチェルさんがいて
二人でどんどん歩いて行ってしまうの。私の声なんか聞こえてないみたいで・・・。
私は闇に引きずり込まれて、最後には光も見えなくなって残るのは闇だけ・・・。
そんな夢をずっと見るの・・・」
セリスは小刻みに震えていて、その瞳はまた今にも涙を流しそうに揺れている。
ロックはセリスを優しく抱き締めた。
「大丈夫だ。俺はここにいる。ちゃんとここにいて、セリスのこと守ってるから。
ケフカなんかに連れてはいかせない。セリスを捨ててレイチェルの元へ行ったりしない。
だから・・・安心して眠ってくれ」
「ほんとに・・・?」
「あぁ、本当だ。大丈夫だから、な?」
セリスを抱き締めたまま、横になった。
セリスの頭を撫でてやると、セリスは再び瞳を閉じた。
そのまましばらく様子を見ていたが、今度はうなされる事もなく、
安らかな寝息を立て始めた。
「おやすみ、セリス」
セリスの頬に軽い口付けを落とすと、ロックもそのまま目を閉じた。
もう既に朝日が部屋に降り注ぐ時間だ。
今日の戦闘メンバーが慌しく準備を始めるた音や声が聞こえてくる。
今日は二人とも戦闘メンバーには含まれていないから、
お昼頃まで眠っていても大丈夫。
今後の予定は後でセッツァーにでも訊こう。
ロックの思考はここで途切れ、眠りの世界へと落ちていった。
† † †
目が覚めたのはもうお昼過ぎだった。
ぼーっとする頭を振って起き上がる。
起き上がって初めて、セリスの姿がないことに気付いた。
「・・・セリス?」
まさか自分が寝ている間にまた嫌な夢を見て、
自分の事が信用できなくなって出て行ってしまったのではないか
そんな不安が頭を過ぎり、大慌てで身支度を整え、セリスの部屋に向おうとした・・・その時
トントン
昨日とは違う、はっきりしたノックの音。
それと同時にドアの向こうから姿を現したのは・・・
「セリス!」
戦闘メンバーに含まれていない時のセリスは、今までできなかったオシャレに興味を持っていた。
今まで帝国で穿くことすら禁止されていたスカートがお気に入りで、
今日も白いボレロと白いキャミソールの下に、花柄レースの膝丈のスカートを穿いて、
髪の毛を二つに結っていた。
そこまで身支度が出来ているということは、もう大分前に目が覚めていたということだろう。
ますます不安が募った。
だが、ロックの予想に反してセリスは笑顔で手に持った包みを差し出した。
「おはようロック。もう宿屋お昼の時間が終わっちゃったから、外で食べ物買って来たわ」
と、テーブルの上に買って来たものを並べ始めた。
ロックは少し拍子抜けしてセリスに話しかけた
「セリス・・・、その、昨晩は・・・よく眠れたか?」
セリスの笑顔が曇ってしまうのではないか、正直かなり緊張している。
セリスは黙って黙々と食べ物をテーブルの上に並べている。
そして、一通り並べ終わった後ようやく振り返った。
「・・・お陰さまで、久しぶりにあの夢から開放されたわ。
不安・・・が解消されたから、かな。ロックがちゃんと傍にいてくれるってわかったから、
きっと今夜からもぐっすり眠れると思う。ありがとう、ロック」
「セリス・・・」
セリスの横まで歩いて行き、抱き締めた。
セリスも背中に手を回してくれて、しばらく抱き締めあった。
そのままセリスの顔を上に向かせて、口付けようとした・・・・その時
ぐ~きゅるるるる・・・
部屋の中に響き渡る大きな音と、ビックリしているセリスの顔と、赤面したロック。
セリスの驚いた顔がやがて堪えきれなくなったかのように大きく歪んで笑い出した。
「そんなに笑うなよ。しょうがないだろ、お腹空いてるんだから」
少しむくれて言うと、セリスは笑いを必死にこらえて俺を椅子に座らせて、
反対側に座った。
「ゴメンナサイ。じゃぁ、ご飯にしよっか」
「あぁ」
食事を始めてしばらくしてから、ロックは少しニヤニヤしながらセリスに問いかけた。
「セリス、今夜も俺の部屋で寝る?今夜は別の意味で眠れないかもよ?」
セリスは途端に耳まで真っ赤になって、
「バカッ、何言ってるのよ!もう、ロックなんか知らないっ」
とサンダーを一発お見舞いして、部屋から出て行ってしまった。
その夜、セリスの部屋の前で一晩中謝り続けるロックと
その所為で全く眠れずに以前より酷い状態になってしまったセリスの姿を
仲間達は見て見ぬふりをしたとか、しなかったとか・・・。
・ fin ・
■あとがき■
そういえば、小説を書くのって3ヶ月ぶりくらいなんですよね;
なもので・・・リハビリ小説ってことで駄文過ぎることは多めに見てやってください。
この話は持ち帰り可にするか不可にするか結構迷いました。
ちなみにセリスのネグリジェは有名な通販メーカーのPJのカタログに
載っていたやつがイメージです。
あまりに可愛くて、注文してしまいました。セリスとお揃い?
持ち帰り可の小説は、持ち帰ってくださった方に自由にレイアウトを変えて欲しいので
背景とかはかなり手を抜いています。
持ち帰ってくださった方は是非、レイアウト、フォントなどをいじって
ご自分好みに仕上げてみてください☆
02/12/2006 風峰夏代
■お礼の言葉■
またまた頂いてしまいました♪ こんな素敵なお話をフリーにしてくださって、ありがとうございます♪
読書するロックってちょっと意外な感じで、読んでるのは冒険談なんだろうなぁwとか色々想像しました。
おしゃれに目覚めたセリスも、可愛いでしょうね。セリスは背が高いから、何でもかっこよく着こなしそう。寸胴の私としては心底羨ましいです。
セリスの悪夢(帝国時代の心の傷)も、ロックの存在に比べれば大したことないんでしょうねw (08.8.29)
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