wish

side : Lock

　振り向かないでくれ。いつもそう思っていた。
　そうすればずっとお前を見つめていられるから。

　気付かないでくれといつも思っていた。本当はまだお前を見つめる資格なんかない。

　だけど、気持ちっていうのは勝手に溢れてきて止まらないもので───。気付くと俺はお前を見つめている。
　そのくせお前を想う度罪悪感が俺を苛む。

　お前が他の誰かに微笑む度、俺は苛立ちを募らせる。 そんな風に感じていい立場でもないくせに、結局それで君に八つ当たりしている自分がいる。

　本当は不器用で泣き方も知らない君を、抱きしめたいと何度も思った。だが、衝動的にそれができるほど、俺は不誠実じゃない。
　その剣を握るには細い腕を掴んで引き寄せるだけでいい、力を入れることもない動作が、俺にはできない。

　ケリを付けたいのは、本当はレイチェルのためでも、お前のためでもなく、オレ自身のエゴだった。
　わかっていたけれど、でも、このままじゃ前に進めなくて、そうするしか俺には無かった。
　お前に惹かれていたから、お前と真っ正面から向き合いたくて、どうしてもやらなければならなかった。

　だけど、あの時───

　俺は決定的な間違いを犯した。お前を信じていなかったわけじゃない。

　一瞬の驚愕と躊躇。俺の弱さがお前を傷付け、俺から遠ざけた。

　もう取り返しはつかないのか───。二度と後悔したくない、そればかりを願って生きてきたのに、結局俺は後悔ばかりだ。

　お前は戻って来たけれど、明らかに心の傷を増やしていた。まだ少女なのに帝国の将軍として生きてきた人生を振り返っては苦しんでいたのを知っていたのに。

　ありのままの心をぶつけられればどんなにいいだろう。でも、まだそれができない。俺が過去に捕らわれたままだから。

　本当はいますぐ浚って行きたいよ。お前が傷付かなくていいように、閉じこめてしまいたい。

　間に合うだろうか。俺がケリをつけたときでも、遅くはないか？

　フと横を見ると、お前と目が合った。

　何故だろう、待っていてくれるような、そんな気がした。

　そう長くは待たせないよ。俺が、はやくお前を抱きしめたいから。

 俺が微笑むと、彼女は一瞬泣きそうになったけど、儚さと幸福の混じった笑みをそっと漏らした。

「待っててくれ」

　思わず零れ出た言葉。

　俺はわかっていないままでいいと思い、もう一度微笑んだ。これは俺の問題だから。待っていろなどと言う資格すらないのだから。
　だが、彼女は言った。

　俺の幸せまで、あともう少しかもしれない───ぼんやりとそんなことを考えた。